129 舞踊+
「商都? あー大丈夫じゃないかしら?」
ダンジョンマスターでドリアードのリアが、自分の前に座るルナの髪を櫛で梳きながら俺の質問に答えてくれた。
ここはいつもの触れ合い魔物園の芝生の上だ。
集まりやすいというか、ノンビリしやすいんだよなここ。
小粒ほどの石すらない芝生は裸足で歩くと気持ちいいし。
薄っすらと雲がかかっているくらいに調整してある、疑似的な日差しは眩しすぎないし。
風もほんのりあって、温度もポカポカしていて昼寝に丁度良いくらいなんだよね。
前はもうちょい日差しが強かったんだけどなぁ……俺達に配慮して日差しを弱めにしてくれたのだろう。
優しいよなリアは……いや……体さんの提案かも?
「何故大丈夫なのかを詳しく知りたいんだが……」
「んー、この国の上級貴族には心底お馬鹿なのはいないからね、まぁ、そういうお馬鹿貴族はすぐ没落しちゃうわよね」
……『没落させちゃう』の間違いではないだろうか?
「あーそれじゃぁ商都の領主のえーっと、伯爵だっけ? 情報があったら貰えたりするか? それと他のダンジョンマスターの縄張りかどうかも知りたいんだが」
確か商都の側にはダンジョンがあったはずなんだよな、セリィの父親が帰ってこなかったとか言う、なんだっけか? えーと……確か地下洞窟型の……通称を忘れちゃった。
「細かい話はラハに聞いて頂戴、それと、この国ではダンジョンの領域以外を縄張りにしているダンマスは私以外にいないから安心しなさい」
それは……いないからではなく、領域外を縄張り主張したら『いなくなる』の間違いではないだろうか?
「何て名前のダンジョンだっけ?」
そのダンジョンの通称をリアに聞いてみたのだが。
「あそこは季節湧きの魔素湧きスポットなのよねぇ、なので基本は冒険者を倒してDPを稼いでいるから、ゼンが行く必要ないわよ」
名前すら知る必要のない場所なのか、興味ないからリアも名前を知らないのか……後者かな?
俺が最初に露天風呂を作った場所と同じような場所なのか。
あそこも、こないだ様子を見にいったら魔素の湧きが止まってたっけか……。
そういう場所を初期ダンジョンに選ぶと、運営とか大変そうだよな。
もしそういった場所で初期ダンジョンのマスターになったとしたら……。
冒険者を上手い事誘引したり、そして侵入者を倒して得た装備品なんかを、ダンジョンオークションで売り払ってDPにしないといけないんだろうね。
冒険者を倒すために、罠の設置や配下の魔物やらを召喚するのにもDPが必要だから……。
自転車操業まっしぐらだな……怖い怖い。
まぁ近くに人の多い商都があるから、そこからの魔素が多少は流れても来るんだろうし……。
魔素湧きが停止中でも、時給数十DPくらいは入って来る……かなぁ?
どれくらい商都に近いかにもよるし、こっそり街中までダンジョンを伸ばしてたりすると多少は……いやさすがにそれは難しいか。
地下道とか繋げても、不自然に明るい地下道が発見されるだけだしな。
後でラハさんの体さんあたりにでも、追加で何か情報がないか聞いておこう。
まぁ上級貴族に厄介な貴族が少ないというのなら、行ってみるかね。
俺に直接ではなく手紙で伝えてくるという譲歩をしていたと言われたらな……それに東と北にある隣国との交易路の交差地点にあるらしいし、何か珍しい物とかあるかもしれない。
東の隣国の特産は、俺が行った鉱山ダンジョンの鉱物とか武器なんだけど……北にある国の特産ってなんだっけ?
まぁ今はそこまで調べなくてもいいか……何故なら。
さっきから芝生に座った俺の膝の上に、チビ魔物達が乗って来てお腹に向かって頭をグリグリしてくるんだよね……。
ほら、ルナはリアに構われていて、こいつらの相手が出来てないし、今日は情報収集がメインだったんで他の子達は連れて来てないからな。
最近のチビ達は、ローラやアイリやセリィの方に真っ先に行くくせによ……。
他に誰もいないと俺の所に来やがる……悔しい! ……でも可愛いから許す!
チビ魔物達の構って構ってという合図が激しくなってきた。
チビハーピーは俺の頭に乗って髪の毛をグシャグシャにしてくるし。
チビウルフが自身の頭で俺のお腹をグリグリしてくる力の籠め方が強くなってきた。
そしてチビローパーの踊りも激しく……。
うん、いまだに俺はチビローパーがその踊りで何を伝えたいのかが分からん。
「よっしゃ、じゃまぁ今日はお前らの遊びに付き合ってやろうじゃないか!」
俺がそう宣言すると、チビ魔物達のそれぞれの鳴き声で歓声を上げてくる。
チビミミックとかは箱の蓋部分をパカパカ開け閉めし。
チビトレントはワッサワッサと体を揺らす。
声出せないもんな、お前ら……。
まぁ毎度のごとく遊びに付き合ってあげるかね。
……。
……。
――
「お疲れ様ゼン殿」
チビ魔物との遊びに付き合いまくり、力尽きて芝生に寝転んでいた俺に、横から歩いてきたラハさんが声を掛けてくる。
まぁ歩いて来たのは体さんなんだけどね。
ちなみにチビ魔物達は、お昼ご飯を食べてからルナやリアと一緒に皆でお昼寝中だ。
というか体さんが持っているラハ生首が、寝転んだ俺の真上にあるのでちょっと怖い。
その生首がポロっと手から転げ落ちたら、寝ている俺にぶつかるよね?
昼寝をしていたら上から生首が降って来るとか、ちょっとしたホラーだよね。
って、あれ?
今日の体さんはいつものデュラハンっぽい鎧姿じゃなくて、前にプレゼントして疑似デートみたいな事になった時の清楚系ワンピース姿だな。
ラハさんも、その時にプレゼントしたカチューシャを着けている。
「その服、気に入ったんですか? 相も変わらず似合っていて可愛いですね、体さん」
俺がそうやって体さんの事を褒めながら上半身を起こすと、体さんも芝生に女座りで俺の隣に腰掛けて来た。
そして体さんがいつものようにボディランゲージする前に、ラハ生首が口を開く。
「気に入ったも何も、ゼン殿に可愛い服をプレゼントして貰って、尚且つそれを着た姿を褒められた事が相当嬉しかったのか、マスターリアに直談判して、ゼン殿が来る時はそれを着ていい許可を取ったのだよ体は、あわよくばまたゼン殿に『可愛い』と言って貰――」
ヒューーーンッ。
そんな音をたてながら、会話の途中でラハさんの生首は遠くに飛んで行った。
勿論投げた人は体さんだ、急にどうした?
体さんは恥ずかしそうに俺に向けて手をフリフリして『違うの!』という表現をしてくる。
ラハさんの会話も途中だったし、何が違うのかは良く分からないが。
気に入ってくれた事は確かっぽいので。
「気に入って貰えたのなら嬉しい限りですよ体さん、また何か似合いそうな服や装飾品はプレゼントしますからね」
俺がそう言うと、体さんは嬉しそうに体を揺らしながら、両手の指先を胸の前でモジモジと組んでいる。
ふむ……手、手かぁ……ネックレスとかは無理だからなぁ……となると……。
「そうなると次はブレスレットとか指輪ですかねぇ? あ、でも体さんは戦闘職だから指輪はまずいか……」
ん? 俺がプレゼントの候補をあげたら、体さんの動きがピタッっと止まる。
「どうしました?」
俺の質問に対して、体さんは手を横に振り、なんでもないと示して――
「指輪は恋人にプレゼントする物でしょう? 他の異世界ダンマスからの情報にそんなのがあった記憶があるのだが……それはつまりゼン殿は私と恋人になりたいという事でしょうか?」
俺と体さんの間に生首が転がってきた、もとい、ラハさんが転がりながら話し掛けて来た。
「うわびっくりした! ラハさんいつの間に戻ってきたんですか……」
俺は周囲をキョロキョロと見回すも、ラハ生首を運んだであろう何者かの姿を見つける事が出来なかった。
リアもルナも昼寝中だしな。
「今この時ですが?」
体さんもびっくりしたのか、恐々と生首を拾って手に持った。
「もしかしてラハさんって、首だけで転がって移動出来るんですか?」
俺が芝生をゴロゴロと転がる生首を想像しながら聞いてみたら。
「ええ、元々なんとか転がるくらいは出来たのですが……ゼン殿がくれたこのカチューシャについている〈舞踊+〉のおかげで、華麗に優雅に地面を転がって素早く移動する事が出来るようになったのです!」
地面を転がる生首に華麗も優雅もないとは思うのだが、一応驚いておくか、会話中の礼儀みたいなものだし。
「おお、それはすごいですねラハさん!」
「ふふーん、そうでしょうそうでしょう、これでゼン殿が芝生で寝ていても、私単体で起こしにいけますね!」
俺が寝転んでいたら、芝生の上を生首が転がって追突して起こしてくれるのか?
……それ、なんて妖怪?
「は、はは……、まぁ程々でお願いしますねラハさん……」
「任せておきたまえ!、まぁ起こす瞬間に間違えてゼン殿の顔の上に飛び乗ってしまうかもしれないが、それはしょうがないな! それでその時に唇と唇が向き合っていても仕方のない事故と言えるだろう!」
何を言っているんだこの人は……あ、体さんがラハさんの生首からカチューシャを抜き取り俺に渡してきた。
えーっと……まぁそういう事かな?
俺はメニューで同じ商品を購入すべく検索をかけていく。
「何故私のカチューシャを外すのだ体よ! ってゼン殿も何故それを受け取って自分の〈インベントリ〉に仕舞ったのだ!」
俺は新たに購入した同じ見た目のカチューシャを、ラハさんの体さんに渡す。
すると体さんはラハさんにそのカチューシャを装備させていく。
「む? 一体何だった……待て待て待てー! なぜ付与されている能力が〈嗅覚+〉になっているのだ! 私の〈舞踊+〉は何処にいった!?」
ラハさんの叫びが響き渡る中、今日も触れ合い魔物園は平和なようだ。
「モガッモグッモガガっ!?」
他の子達のお昼寝の邪魔になるからなのか、ラハさんの口は体さんが押さえる事にしたみたいだ。
俺と体さんは、そんなモガモガラハさんを間に挟みつつ、みんなが起きて来るまで雑談を交わしていくのだった。
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