127 マーメイド達の料理
わいわいと、マーメイド達が作業している音が漏れ聞こえてくる。
今日は最近レベリングの手伝いを熱心にしてくれているスイレンさんにお休みをあげるために、マーメイド達に予定があると予め伝えておいたのだ。
……うん、本当は、マーメイド達が過労で倒れそうなので、強制的なお休みにしました。
スイレンさん的には、徹夜でぶっつづけじゃないから、毎日レベリングに行くのは良いと思ったらしいよ?
スイレンさんのお手伝いのおかげでレベルの底上げがすごい、とはいえマーメイド達は人数が多いからな。
最低レベルが25を超えて、マリーに至っては32まで上がっているそうだ。
彼女らには天然のスキルなんかも諸々生えていたりして、強化が進む事進む事……。
マーメイド族がそれなりの年齢になってから取得すると言っていた〈人化〉も、すでに二十人以上が取得しているらしい。
んー、てことはさぁ、〈人化〉を覚える条件は年齢じゃなくて、レベルかステータスが一定値を超えたあたりから取得する可能性が高いかも?
まぁそんな訳で今は、それら〈人化〉出来るマーメイド達に固定で〈調理〉や〈家事〉スキルを付与し、そしてルナが彼女らに料理指導をしている所だ。
「のうゼンよ、ツマミはまだかの?」
拠点島の屋敷の直ぐ横に屋根付きの広い食事場所を作り。
そんな屋敷の台所の裏口がすぐそこにある場所で、俺達は酒を飲みながらまったりしている所なのだが。
「もう少し待てってばホムラ、ルナが教えながらだから時間がかかるんだよ」
「むぅ……ルナが直接作れば良いではないか……」
「だから、今日はマーメイド達の料理の腕を見る宴会だって最初に言っただろ? 嫌なら酒を置いて帰れ、ルナも少しは作るはずだし、気長に待っておけよ」
「仕方ないのう……ほれ、お代わりを作れゼンよ」
「はいはい、次は辛目の日本酒を使ったカクテルにするよ」
そう言って〈バーテンダー〉スキルを使って酒の用意をする俺だ。
……最近、このスキルのレベルを5に上げました。
〈剣術レベル5〉に次いでレベル5になるのが〈格闘〉とか〈身体強化〉じゃなくて〈バーテンダーレベル5〉っておかしいよなぁ……〈光魔法〉〈剣術〉〈バーテンダー〉が俺のトップスリーな能力になってしまった。
使用頻度を考えると最適解なのかもだけどよ……。
「ゼン様かんぱいしましょ~」
「ほいスイレンさん、乾杯だ」
屋根だけがある外に作られたこの広い食事場所にはテーブルがいくつも有り、今いるテーブルには俺とホムラとスイレンさんしかいない。
セリィ達メイドはお手伝いにと台所方面に控えているし、ダイゴは、今日のお肉はホムラのお土産で貰ったサンダーシープだと言ったら他のテーブルに着席している。
竜と肉を取り合うと負けるからな……。
お、来た来た。
ルナを筆頭にマーメイド達が料理を運んできて、テーブルにどんどん置いていく。
「美味しそうじゃないかルナ、これ、ほとんどマーメイド達だけで作ったんだろ?」
テーブルに並ぶ料理を指し示しながら、ルナに聞いていく。
「マスターの言う通り、私は……料理酒を飲もうとするお馬鹿を監督していただけ……一つ二つは私の作った物もある、どれかは内緒」
そう言ってルナは自分の口の前で人差し指を立てて、内緒のポーズをした。
うん、可愛いな。
というか……マーメイドのあの子はいまだに料理酒をつまみ飲みするのかよ……普段飲む酒にと安めの酒は気軽に俺から買えるようにしてやっているのにな、それと真珠の稼ぎで人の街からも酒を買えるはずなのに……。
テーブルに並べられた料理の数々に、ホムラは早速とばかりに手を出し始める。
「ほほう、ではこの辺りから……ふむ……ルナ程ではないが人の街で食うのと同じくらい……いや、それよりも少し美味いかの?」
「ゼン様かんぱーい、ゴクゴクっ……ふぅ……えっと……パクッ……もぐもぐ……唐揚げの味はまぁまぁですが、ルナさんにはかないませんね、ゼン様もいかがです?」
ホムラとスイレンさんが酒を飲みながら料理に手を出していく。
折角なので、スイレンさんに勧められた唐揚げをパクリっ……。
「美味い、ルナの方が超絶美味いが……、まぁこれでも十分な味は出せているな、やるなぁマーメイド族」
ちょっと下味の加減が俺の好みとは違うが、人間の街で露店でも出したら人気が出そうなくらいには美味い。
「教える人間が優秀だから、ピース、では監督の続きに戻る」
ルナは自分が褒められたがごとく喜んで、こちらにピースサインを向けてから屋敷の台所へと戻って行った。
「むぐむぐ、ふーむ、これも街で食うよりかは……あの者どもは中々やるのう、ゼン! 美味いツマミには酒が必要じゃ! お代わりを寄越せ!」
へいへい、いつものごとくホムラが満足して飲み食いの速度が落ちるまでは、カクテルの制作に集中する事にする。
まぁホムラはこうやって宴をするたびにお小遣いくれるからね、頑張って働くさ。
「ゼン様ゼン様! この辛いスープも美味しいです、乾杯しながら食べましょう」
うん、それは麻婆豆腐だね。
それはそんなに勢いよく飲むスープではないんだけど……。
カクテルを作りながらも、パクッとひとさじ食べてみる。
……あ、うめーなこれ、たぶんこれはルナが作った奴だな。
ルナはこっち系の料理にも手を伸ばしてきたかぁ。
普段は俺の好きな日本の居酒屋やコンビニにありそう的な物しか……あ、そうか、今までは俺が好きな物を優先して作ってくれていたのかルナは……。
良し、後でたくさん褒めてお礼を言いつつ、何かして欲しい事がないか聞いておこう。
ほんとルナは良い子だよなぁ……たまに揶揄って来る事はあるけども……。
うんまぁ、てことはこの中華は誰か他の人の好みって事か?
もしかしたら、中華料理に興味が出たマーメイドに教えるために作ったとかなのかもなぁ……。
そーいった事に気付いた俺は、テーブルに並べられた物を再度確認していくと。
「もぐもぐ、うぬ、これも中々美味い……いや……これは料理と言えるのか?」
ホムラが褒めたと思ったら、すぐその感想を引っ込めた……。
大量のマッシュポテトと茹でたソーセージが置かれた皿だね。
これはドイツ料理に興味が出たマーメイドが誕生したのだろうか。
これを料理と呼んでいいのかは謎だけども……ホムラもそこが気になったのだろう。
ソーセージは素で美味いからな、茹でただけで美味いとか素材として優秀ではあるんだよな。
なんかこのままだと国際色豊かな宴になりそうだな……ルナには後でいくつか料理情報を封鎖するように言っておこう。
俺的にもNGな海外飯があるからな……グロイのとか。
「ゼン様かんぱいしましょー」
「はいはいかんぱーい、スイレンさん、マーメイド達の作った料理はどうですか?」
「ゴクゴクっ、お料理ですかゼン様? えっと……そうですね、有象無象だと思っていたあの者ら……マーメイド族も少しは役に立つ事もあるのだと感心しました、味はルナさんの方が良いですが、かんぱーい」
はい乾杯。
ふむ……スイレンさんの評価はそこそこ良い感じ? ならホムラはどうだろ。
「なぁホムラ、お前はマーメイド達の作る料理をどう思った?」
「モグモグ、ふむ……そうさの……儂もマーメイド族を見直した」
おお!
「と、言って欲しいのだろゼンは? 酒のお代わりじゃ」
そう言ってホムラが、その美人の顔でニヤっとした楽し気な笑顔を俺に向け、そして空のコップを渡してくる。
あちゃ……今回の宴の趣旨が、マーメイド達の事をもう少しホムラやスイレンさんに認めさせたいって思って開いた物だと、ホムラにはバレていたか……。
俺は新たなカクテルを作ってホムラに渡していく。
「はいお代わりだ、ホムラにはバレてたかぁ……」
「くくっ……わからいでか、まぁあれよ、儂の友であるお主やルナの配下というのなら……多少は目を掛けてやるから安心せい、む? おおスイレンか、乾杯じゃ」
「乾杯です! ホムラ様~うふふ~」
嬉しそうなスイレンさんと、乾杯を交わしながらそう言うホムラの目はすごく優しい物に思えた。
まぁ俺やルナのおまけという立場でも、石ころみたいに思われていた頃に比べればマシだろうさ。
マーメイド達もそういったホムラやスイレンの対応の違いを、そのうち肌で感じるだろう。
そうすれば少しは安心してくれるかねぇ?
マリーが前に相談して来た頃よりはレベルも上がっているけど……まぁこれ以上は俺にはどうしてやる事も出来ないな。
さって、細かい仕事は終わったとして宴を楽しむかね! あ、スイレンさんかんぱ~い。
……。
……。
――
後日、マーメイドのマリーやマーメイドの一族が揃って俺に大事な話があると言うので聞いてやったんだが。
『『『『我らマーメイド族は身も心もゼン様に捧げます! いつでもお呼びください!』』』』
という前にも聞いたような内容? だった……なんでもう一回言ったんだ?
それに身も心もって……『そんな風に命までは賭けなくていいよ』と再度言っておいたけど。
あいつら困った顔してたんだよなぁ……あれはなんだったんだろな?
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