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124 後日談

「それで?」

「うーん、香草の独特な使い方が特徴だったかなぁ? 甘みや酸味のあるソースも肉に合っていて美味かった、あれは調理人が独自に作っているっぽい?」


「むぅ、マスターの言葉だけだと分かりにくい……」


 ま、そりゃそうだよな。


「今度皆で食べにいこうか?」

「どうせなら、もっとすごい所がいい」


 今俺はルナと昨日の食事会で食べた高級料理の話をしている。


 こちらの世界のお値段が高いご飯の味を知りたがったルナだが、俺の表現力のなさでちょっと分かりにくいと感じているっぽい。

 グルメレポーターとかじゃないんだし、そんなに細かく表現は出来んよな。


「すごい所って……あれでもこの街でトップクラスに値段の高い宿屋兼レストランのお店っぽいんだけど?」

「所詮は冒険者街の一番、王侯貴族が行くお店なら」


「王侯貴族が行くお店って王都にありそうな高級店って事か? そこにルナやアイリを連れていくのか? ローラやセリィは一般的な可愛さだけども……いや二人の髪や肌の艶は普通じゃなくなってきているか……まぁそれは置いておいて、美少女が極まっているルナやアイリをそんな所に連れていったら、どうなりますか?」

「はい、マスター」


 ルナがすぐには答えずに、手を上げて来たので指名してあげる。


「はい、ルナさん答えをどうぞー」

「好色な貴族に絡まれる」


「ルナさん正解! 10ポイント獲得です、今までの荷馬車を使った旅行でも散々アホな奴等に絡まれただろう?」

「行商途中の従業員に声をかけて、どうにかなると思う気持ちが分からない」


 あー、あれか、『ダンゼン商会』を辞めてうちで働かないか的なお誘いも結構あったからな。


 商会長である俺の目の前で引き抜こうとするなよ……そして断ると後でチンピラが襲ってきたりするんだよなぁ……。


 チンピラに指示を出した奴を確定出来た場合、ファンファンにこっそり仕返しをして貰ったりとかで忙しかった。

 商人くらいの相手なら権力も低めだから対処がしやすいんだよねぇ、それが王侯貴族になると……面倒臭さが倍増するんだ。


 バレないように処理せんといけないしな。


 あ、そうだ。


「俺だけで行ってさ、飯を〈インベントリ〉に仕舞ってくればいいんじゃね?」


 それなら暖かいまま持ち帰れるよなぁ?


「ボッチマスターだけで高級レストランに行かせるのは心が痛い」

「いや、一緒に行ってくれる人がいないみたいな言い方するなよルナ……あえて! あえて、一人で行ってお土産にして貰うだけだから……うん、でも一人で行きたくねぇよな」


 自分で提案しておいて悲しくなるなこれは。


「まぁそのうち機会があったら……ルナ達が地味に変装出来るスキルでも取ってからいけばいいな」


 前髪で目を隠したりとかよ。


「それなら、まずはこの世界特有の香草を使ってみたい……マスター?」

「おっけールナ、市場で適当に仕入れてくるよ」


 そう言ってルナの頭をナデリコしていくが、特に意味はない。

 話が終わったという合図のようなものだ。


「セリィやローラにも香草の使い方を聞いてみる、マスターも早く」


 おっとルナさん結構やる気満々だな。


 そしてもう一人いる異世界現地人のアイリには聞かないんだな……まぁお貴族様だったし飯を制限されていた身だものな……。

 よっし、こちらの世界特有の調味料とか香草っぽいのを、市場で聞いて回って買って来るとするか。


 俺はソファーから立ち上がり、樹海ダンジョン側の冒険者街へと向かう事にする。

 今日は異世界風の味付け飯になりそうだねー。





 side ギルド職員


 窓から降り注ぐ日差しもだいぶ高くなっているが、その高級な宿屋の上層階にある部屋は、いまだに静寂を保っている。


 何故ならば部屋の予約をした本人が、その日は午後まで緊急の要件以外では訪ねて来ないように頼んでいるからだ。

 その指示を出したハーフエルフの女性は、今まさにベッドの上で目の前の抱き枕を抱きしめながら寝言を言っている所だ。


「ゼンきゅん……スースー」


 その言葉と共に抱きしめられている抱き枕……もとい、ハーフ魔人である褐色肌片巻角の女性が少し苦しがりながら、やはり寝言を零している。


「ゼンったらそんなにちからづよく……ふにゅ」


「ぜんきゅん」

「ゼン~」


「「うへへへへへへ」」


 ……。


 正直よそ様にはあまりお聞かせ出来ない寝言を一通りした後に、神の采配かは知らないが同時に目を覚ます二人であった。


「にゅふゼンったらそこはだめよぉ……ふあぁぁ、あり?」

「ん……んん? ゼンくんそんな所を揉んじゃ……ん? あれ?」


 大きなベッドの上で、寝ながらお互いでお互いを抱きしめ合っている女性二人の目が合う。


 その柔らかい掴み心地の相手を理解するのに、寝ぼけた頭では十数秒かかる。


「……」

「……」


「カレン?」

「セシリー?」


 ガバッとそんな擬音で表現出来そうな勢いでベッドの上で上半身を起こし、女性二人は周囲の確認をする。


「ゼンは!?」

「ゼン君は!?」


 周囲に彼女らの求める人の姿がない事を確認し、そして窓から射す日差しで大体の時間を察し、さらにお互いの服装を見るや……。


「カレン、貴方昨日のセクシードレスのままよ……」

「セシリーも、昨日の可憐な可愛いドレスのままね……」


 そうして二人はベッドの上でお互いに背を向け合い。

 念のためにと、それぞれ服の下の状況を確認し……何も変わっていない事を知る。


 そういった確認も終わり、いまだにベッドの上で上半身を起こしたままの二人が、同時に振り向いて向き合う。


「私達……もしかして途中でガチ寝しちゃった?」

「うん……それでゼン君がベッドに運んでから……帰っちゃったかも?」


「えええ……寝ちゃうのは確かに失敗だったけど……こんな美女二人を放置して帰るものなの?」

「最初は起こそうとしたけど起きなかったとかかも? ……ゼン君ごめんね?」


「ああ! 確かに二人共熟睡しちゃってたら、さすがのゼンでも萎えちゃうわよね……勿体ない事したわぁ……」

「せめて片方が起きていればこう……片方が終わる頃にはベッドの振動や軋む音で起きられたかもなのにね……」


 美女の前に『残念』という言葉が付きそうな二人は、ありもしなかったシチュエーションに対して、謝ったり妄想していたりする……知らぬが仏か。


「カレンがもう少しお酒を控えておけばいけたのにぃ!」

「セシリーだっていっぱい飲んでたじゃないの!」


「だってゼンがニコニコしながらお酌をして来るのよ? ……飲まない訳にいかないじゃないの」

「確かに……やけに慣れたお酌だったわよね……何処かでたくさんお酌でもしているのかしら……?」


「あのゼンよ? そんな訳ないじゃないの……」

「そうよねぇ……あ、過去に女性を持てなしてくれるお店の店員さんをやっていた可能性が、なんちゃって」


「あー聞いた事あるわね、何処かのダンジョンの側に出来たカジノの系列店で、そんなサービスのお店があるんだっけか?」

「そうそう! まぁゼン君がそんな事するはずはないんだけどねぇ、女性冒険者がはまっちゃって借金を抱えたなんて話があるわよね」


「あったわねぇ……ギルドの通達で『ギルド職員も気をつけるように』なんてのもあったわね」

「あれは皆で笑ったよねぇ、そんなのに嵌るギルド職員がいる訳ないのにね?」


 二人の女性はベッドの上で向かいあい、お互いに笑い声を奏でている。

 ……借金を抱えた冒険者の女性も、最初はそう思っていただろうに。


「さて……今回は失敗に終わった訳だけど……まだ諦めないわよね? カレン?」

「勿論よ! 実際に途中まではすっごく楽しく会話も出来ていたし、良い雰囲気だったのよ? ゼン君のお酒の強さを誤算しただけで……」


「まさかあんなにお酒に強いなんてね……ゼンが酔い始めたら二人で突撃する予定だったのに……」

「私達もお酒に強いつもりだったのに、負けちゃったね……」


「はぁ……初めてだし豪勢にって事で結構奮発しちゃったからなぁ……次のお誘いは普通のお店とかにしましょうか……」

「うう……このドレスも結構したからね……しばらくは二人の晩酌も中止ね」


「次こそはゼンに私達の初めてを奪って貰おうね」

「うん、次こそは……今日の夢の中みたいな! えへへ」


 片方が自爆しているけども、それを気にせずお互いに手を取り合って希望の明日を目指している。

 まぁこの後の、高級宿屋の宿泊兼食事代の、お高い支払いを忘れたい気持ちがそうさせているのかもしれない。


 だがしかし。


 そのお高い料金が全て支払い済みな事に、ハーフエルフな女性と褐色ハーフ魔人の女性が気付くのは、帰る段になってからである。


 ……。


 ……。


 ――


「ああもうゼンったら! やってくれるわねぇ……ケリーとタチアナの言った通りの事が起こるなんてね?」

「ええ……例え女性からのお誘いでも、支払いを全て男が持ってくれたら……私達を女として狙っている、という合図だったわよね? ……ゼン君……寝ちゃってごめんね?」


 ……彼女達にケリーとタチアナ以外の助言者が現れる幸運が、果たして来るのであろうか?


 未来は誰にも分からない。

お読みいただき、ありがとうございます。


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