12 出来の悪い焼きそば
うーいたた、俺はお腹を摩りながら樹海ダンジョンの浅層を歩いている。
リアのアホウはルナの応援に気合が入ってしまい〈投擲〉や〈付与〉や他複数のスキルを使用してフライングディスクを投げてきたらしい……。
俺が気絶していたのは数分くらいだったみたいなんだが、目が覚めたらルナが泣いてしまっていてリアがオロオロしていた。
レベルが十になっている俺ならいいけどルナに当たったら……DPを使用したルナの成長強化や知識インストールは少し躊躇していたんだがやっておいた方がいいかもなぁ……。
取り敢えずはルナの基礎レベルを上げて……耐久や戦闘力を上げるスキルを付けるべきか? うーんまぁルナ本人に相談してみよう。
今日は午前早くからずっとリアの所にいたんで稼ぎがほとんどない。
採集を少しとゴブリンなんかをちょろっと倒してっと……良し! 帰るかね、今日は早めに帰ってルナと遊んであげよう、心配させて泣かせちゃったしな。
……。
冒険者ギルドにやって来た……可憐な受付嬢カレンさんから逃げたのは昨日の話だし、怒っているかなぁ……。
気まずいからと言って他の受付に行くのもあれだしな。
「こんにちはカレンさん、査定お願いします」
俺はいつものごとくそう頼んでいく。
「……いらっしゃいゼンさん、まったく様子が変わらないのも、もやっとします」
カレンさんが珍しく仕事中なのに愚痴っぽいものをぶつけてきた。
気安い仲になりかけているって事なんだろう。
「それで査定の……あれ? ゼンさんこれだけですか? いつもより少ないですけど」
俺が出した魔石や採集したアイテムの量の少なさにカレンさんが首を傾げている。
最初の頃もこんなもんだったじゃんか、何を不思議に思う事があるのやら。
「ええ、今日は運が悪かったみたいです、まぁこんな日もありますよね」
リアの所で遊びふけってたせいだとは言えないしな。
カレンさんが査定しつつも何かぶつぶつ言っているので耳を澄ませて聞いてみる。
「いつも平均値を測ったかの如く持ってくるのは調整しているのかと思ったんですが……私の予想は外れかも? そりゃ実力を隠す意味なんて……訳あり? でも……ぶつぶつぶつ」
うわやっべ、カレンさんの呟きを聞くに、俺が新人冒険者達の平均収入になるように調整していたのがバレそうになってたらしい。
いつも同じような量を持ってくるのは不自然だったかも?
でもなぁ……あまりに収入が上下しても高い時に目立っちゃうのがなぁ……これからは外れの日を作るか……。
「ではゼンさん、魔石と薬草でこれくらいの値段です、運が悪い日もありますし元気だしてくださいね、それとパーティメンバー紹介もデートもいつでも出来ますからね? 気が向いたら言ってくださいね?」
ニコリと笑顔で励ましてくるカレンさんなんだが、何故だろう後半部分が怖いと思ってしまうのは。
「……ええ、まぁ頑張りますよカレンさん」
俺は返事をしながら受取書類にサインをして、トレイに置かれた少額な硬貨をつかみ取る。
そして受け付けを離れる俺の背にカレンさんは。
「稼ぎが悪いからってパーティを組むまでは無茶しちゃ駄目ですよー」
そう声を掛けてくるのであった。
まだ諦めてないんだな、うーむ。
稼いだ小銭を握りしめ冒険者街を練り歩きお野菜とお肉を買って行く。
そしてひとけのない行き止まりの道で〈ルーム〉を使い拠点に帰る。
入口でブーツを脱ぎながらルナに声をかける。
「ただいまールナ」
トテトテと奥の部屋からルナが近寄って来て俺のお腹を摩りながら。
「マスタおなかだいじょぶ?」
心配してくれるルナは優しくて超絶良い子だよな。
「勿論大丈夫だ、すぐ夕ご飯作るからな待っててくれな」
俺はルナの頭を撫でた後にシャワーを浴びて着替えると台所に向かう。
さて、今日作るのは焼きそばだ!
これは麺が入った袋に作り方が書いてあるのがいいよね。
これならそのままやればいいだけだし、俺でも出来るだろうと思った訳だ。
奥の部屋でアニメの続きを見ながらルナが待っているので、早速作っていこうと思う。
コンロが一つしかない狭い台所だが、フライパン一つあれば出来るんだよな?
えーと……ふむふむ……なるほど。
とりあえず買ってきた野菜を洗ってから切っていこう。
うーむ、作業する場所も狭いなぁ……。
今はシャワートイレ付き1DKの部屋だが、リアの所で遊んでいる時に思い付いたダンジョンメニューで部屋が拡張出来るかを確認しながら作業するか……。
野菜を丁寧に洗いながら……メニューを意識操作でっと……あー拡張可能っぽいなこれ、でも具体的な項目が出て来ていない。
ダンジョンメニューのこのあたりの操作って、今あるDPで出来る事しか出て来ないからな……。
リアに聞いた話だと、洞窟ダンジョンで洞窟型の部屋や通路を増やすならお安かったりするように、環境に合わせた拡張なら安いらしいんだが……。
俺の部屋って次元の狭間とかそんな場所にあるっぽいだろ?
なのでそれを拡張するのはエネルギーがそこそこ必要なのかもしれない?
まぁダンジョン拡張項目画面が選べると分かっただけいいやね。
そのうちルナが駆けっこが出来るくらいの部屋にしてあげたいもんだな。
今はDPが少ないから拡張項目メニューに何もないけどね。
さて野菜も洗えたし切っていこう、拡張はどうせDPが足りないからメニューを消してっと。
お野菜とお肉を一口サイズに切りまして、えーと次がなんだっけ?
……麺の袋の裏を読んでっと……よしフライパンに油を引く……引くってどういう事?
油を垂らせばいいのかな? まぁいいかタラっとフライパンに垂らして。
そしてお肉を炒めてからお野菜と順番に入れていく……あれ?
これっていつまで炒めるんだろ……えっと、そして麺を入れる、はい入れました、で? お水が、えーと分量は何で計るんだこれ、ダンジョンメニューで検索……計量スプーンは……これだな! ってあああ火を弱めた方が? いや水を……。
……。
……。
「ルナー、食べようか」
「マスタごはん!」
メニューでアニメを見ていたルナがこちらを向いて元気よくごはんだと叫ぶ。
そんなルナの前に菓子パンを置いてあげる。
俺の前には二人前の焼きそばだ。
「では頂きますだルナ」
「マスタ? ルナのは?」
ルナが俺の前にある焼きそばの残骸? を指さしながらそう聞いてくる。
「あーえーとなこれは失敗作でな……」
失敗した焼きそばはインベントリに入れて俺も菓子パンにしておけばよかった!
失敗したぁ……ダブルで失敗したわぁ。
「マスタのりょうり食べる?」
ルナは食べたそうにしているが。
いやこれは……ちゃんと書いてある量のお水を入れたのに麺がべちゃっとしているし……お野菜は少し焦げてるし、お肉も塊になっちゃってるし……麺もくっ付いてバラバラになっていない部分があるし……。
何が袋に書いてある通りやれば作れるだよ、そんな事言った奴は引っぱたいてやりたいぜ。
パシンッ。
「マスタ! なんで?」
ルナは、急に自分で自分の頬を叩いた俺に驚いている。
「気合を入れただけだ、それとこれはちょっと失敗しちゃった料理でな、美味しくないんだよ、ルナには悪いけど菓子パンで許してな」
俺がそう言うもルナは俺の横に来て。
「あーん」
口を開けて催促をしてきた……。
……俺がしばらく躊躇するもルナは口を閉じてくれない……。
仕方ないので焼きそばの中でもましな部分を探して口に少しだけ入れてあげる。
「もぐもぐ……」
ルナは感想を何も言わずに自分の席に戻り菓子パンを手に取るのであった……うんそうだよね。
「頂きマスタ」
「頂きますだルナ」
ズルルっ……麺がべちゃっとしていて……肉が固まりでパサっとしていて……野菜が焦げていて……焼きそばを美味しく作る料理本ってあるだろうか……?
いや、俺はまず料理の基本の本を読むべきだな。
俺は日本で両親を早くに亡くしていたし、引き取ってくれた母方の爺さんは農家で、実家からだと学校まで遠くて中高と都会の全寮制の学校に行くように勧められて俺もそれで納得をしたんだ。
なので洗濯とか掃除は自分でやったんだが、飯は全部寮母さんが作ってくれたんだよなぁ……。
大学はアパート住まいだったが、色々と作って貰えたりで、自分で料理をする機会はまったくなかったしさ……。
アパートは大学の近くにあったんだが、そういう立地って学生向けの定食を安く食わせてくれる店とかもたくさんあるしさ。
ちょっとずつ本やら料理番組を見て勉強していかないとな、いつかルナに教えて……あー知識インストールしちゃえばルナは自分で出来ちゃうのか……そうだな……この話をルナにしておかないとな。
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