119 綿パンツ
「確かに前に見せて貰った男性用下着と似たような素材ですね、ゼンさん」
「ええ、やはりゴムは偉大ですよカレンさん」
「ゴムという名の魔物なんですねぇ、確かに植物系魔物の素材より遥かに伸縮率がいいですよね」
いやゴムってのは……まぁいいか。
「それでカレンさん、どうでしょうかこの品揃えは」
俺はそう言って可憐なハーフエルフであるカレンさんに、商談用個室のテーブルに広げた商品を示してあげる。
「……確かに前に出品した物に素材が似ているし、男性のその……専用の穴がないので女性用なのでしょうけど、デザインが単調と申しましょうか……女性は色や形にもこだわるので、これの値段は男性用と同じくらいなのでしょうか?」
「ふむ、実はこれ、男性用のより原価がかなり低いんですよね、魔法効果も付いていないですし」
「え?」
俺の言葉を聞いて、改めて商品を虫眼鏡っぽい魔道具でチェックするカレンさん。
「……ほんとだ……でも魔法効果が付いてないと、男性用の時みたいに下着一つの単価が銀貨6枚以上とかにはなりませんよ?」
「構いません、目的は……この世界からノーパンをなくす事ですから!」
「はい? えっと……意味がよく分からないのですが……」
「最近商会の従業員から女性用下着の事情を聞いたんですよ……そうしたら、こっちの大陸では穿かない女性も多いらしいじゃないですか!」
「え、ええ、そういう人が一定数いる事は確かですけども……」
「駄目ですよそんなの、それじゃぁこの世界にブランコとか流行らせる事が出来なくなるじゃないですか!」
「ぶら? なんです?」
「それに女性がお腹を冷やすのは良くないんです、なので俺は身近な場所だけでもノーパンにNOを突き付ける事にしたんです」
「穿かない事を認めないと? それでこの……確かにドロワーズに比べてシンプルでフィット感がありそうな下着ですが、それを売り出したいというお話ですか?」
「その通りです、ちなみにこれは綿パンツで、柄もなく色は単色で16色の種類があるだけの品ですが……お尻全体を支える大きさと下腹まで覆うそのデザインは、セクシーさとは対極にある実用一点張りの品です、ですがなんと、これ一枚が大銅貨一枚以上で売れれば利益が出てしまう値段設定に出来るのです!」
ちなみに以前の時も、魔法付与された男性用下着の具体的な仕入れ値まではカレンさんに教えていない。
「え? 冗談ですよね? 確かにシンプルなデザインですが布の質はかなり良いし、なによりこのゴム魔物のおかげで結びヒモが必要のないフィット感がある下着……綿パンツ? が大銅貨一枚? そんなの私だったら全色3枚ずつでも買いますよ!?」
だよねー、この綿パンツを48枚買っても、以前出品した男性用下着一枚の値段である銀貨6枚前後に届かない安さ、これが今回の武器だ。
まぁ流通段階で値段は上がっていくだろうけどさ。
特別な魔法効果のスキルとかはついてないけど、素材に素の魔法強化はされてんだよなぁ。
こればっかりは異世界品特有らしいからしょーがねぇ。
この商品を見たダンジョンマスター関係者は、きっとこう思うんだろう。
異世界出身で異世界下着をダンジョンメニューから購入出来るダンマスが現れた、とね。
「いかがでしょうかカレンさん、俺と一緒にこの界隈からノーパンを駆逐しませんか?」
「ゼンさん……私は一体何に誘われているのでしょうか……いえまぁお気持ちは分かりましたが、実際これだけ質が良ければ例え魔法効果が付いてなくても……オークションで……そうですね、一枚で大銅貨5枚以上は軽くいっちゃいますよ」
むむ、魔法付与によるスキルが付いてなくてもそれくらいになっちゃうのか。
「それだと末端価格でパンツ一枚が銀貨一枚以上とかになってしまいますね……」
「それでも私なら買いますけどね、10枚くらい」
さっきの48枚買いより下がったな……さすがに銀貨単位になるとそんなものか。
「……それなら、火竜のウロコを競り落とせなかった人達のお財布を狙って、オークションの期限をウロコオークションの数日後からにします」
「ああ、それはいいですね、競り落とせなかった人達がウロコ用のお金を余らせますから、実はダンジョンの果物や素材も高くなるのではないか? と、冒険者やギルドは期待しているんです」
「そして、これからこの綿パンツを……ウロコオークションの日まで毎日八千枚持ち込みます、サイズ違いも含めてね」
「……え? ごめんなさいゼンさん、ちょっと聞き間違いをしたようでして、もう一度おっしゃって頂けますか?」
「一日八千枚持ち込みます」
この綿パンツは、お得16枚セットって奴を選んだので、ひとセット40DPで購入出来ちゃうからな!
しばらくは拠点島のマナスポットからのDP収入は、女性用の綿パンツに全突っ込みをする!
「どう分配してオークションに出すかはギルドにまかせます、最初の落札日をウロコオークションの後にするのと、綿パンツ一枚の値段を銅貨5枚くらいになる開始値にして頂ければ後はお好きにしてください」
「火竜のウロコオークションまでまだ後十日はあるのですけど……となると、八万枚の綿パンツを出品するという事になりますが?」
「……実はもっと増える可能性もあります」
お小遣いでの臨時収入や、拠点の収入も多少上下するし、レベリングで取得する魔物の魔石やら死骸やらもDPになるしな。
「さすがにその数が出品されると……入札値段も低くなってしまう事が予想されますが……」
「良いんです、せめて俺の周りだけでもノーパンを駆逐したいだけなので」
というかまぁ、配下女性もみんな異世界下着を着ている事になってしまったので……。
早急に近隣に日本産の下着を出回らせる方がいいだろうという気持ちもある。
もし仮に、ローラやセリィ達のメイドスカートが風に煽られてしまったら?
そしてそれを誰かに見られてしまうと、今までにないデザインの下着がばれるという問題が……ってあれ?
シャドウファントムがスカートの中にいるから、大丈夫じゃね?
……あっれぇ? じゃぁ別にここまで下着を広めようとしなくても……。
「承知しましたゼンさん! 私はゼンさんのその……よく分からない熱い思いを大事にしたいと思います! では具体的な数字を出していきましょうか、まずは商人が買いやすいように数の調整をですね――」
あ、カレンさんが仕事モードに入った。
まぁいいや、ノーパンが撲滅されて困る事はないだろうさ。
ああ、しまった、女性用の事だけ考えて男性用のも頼まれていた事を忘れてた……男性用は後回しでいいか。
……。
……。
――
side ギルドの職員
とある商業ギルドの一室、ギルド員が使う商談室に、ハーフエルフの女性職員が一人残って書類の確認と商品の確認をしていた。
その商談室の扉がノックされた後に、一人の女性が入ってくる。
革鎧と剣を装備した兵士のようだ。
「あら? 警備兵さん、どうしました?」
「いえ、室内の話を警備規定により聞いていたのですが……商品が気になりまして」
「ああ、女性用の下着ですものね、これがそうですよ」
そう言ってサンプル品の綿パンツを、女性警備兵に渡すハーフエルフのギルド職員。
女性警備兵はその綿の女性用ショーツを、伸ばしたり戻したりとあちこちを弄り回して確認すると。
「……これはすごく良さそうですね、私も欲しくなりました」
「分かります、私も欲しいと思いましたし……けれど全てオークションに出すというのが出品者の意向ですので、商人が落としてから販売するのを待たないといけないですよね……」
「ふむ……商業ギルド員なら誰でも入札に参加出来るのだし、自分で入札すれば良いのでは?」
「それも可能ですけど、基本ロットが綿パンツ16色を50セットの800枚からなんで……最低でもオークションの開始値が銀貨40枚で……落札値はその3倍以上はいくと予想しているんです、それだとちょっと高いし、仮に競り落とせても800枚ですから……」
ハーフエルフの職員は残念そうに女性警備兵へと、自分の予想値段を伝えている。
「ふむ、それならば……ギルドの女性職員で共同して入札すれば良いのではないかな?」
女性警備兵の言葉に、ハーフエルフの女性ギルド員はハッとした表情を見せ。
「成程! それはありですね!」
「でしょう? 実はそれを相談したくて来たのもあるんですよ、私と共同入札者を募集してみませんか?」
女性警備兵さんがニヤリと笑いながら提案してくる内容は、ハーフエルフの女性ギルド員には非常に魅力的な物に思えたのだろう。
彼女はパチンッと両手を打ち鳴らしながら。
「すっごく良いアイデアです、早速皆に話を……って、少し考えるとこれって女性職員ならほとんど参加しそうじゃないですか?」
「ふふ、かもね、でもいいじゃないの、女性の事をよく分かっていない商人が競り落とすよりも、実際に使う人間が競り落とすのだから、不正なしの入札勝負をするのならば誰にも文句は言わせないですよ」
「……そう……そうよね! ゼンさんも女性のお腹は冷やしちゃいけないって言っていたし、この下腹まで覆ってくれそうな綿パンツはすごく良いわよね」
「ですよね、それでは」
「はい! やりましょう」
そうして商談室の中では、二人の女性が楽し気に相談する声がしばらくの間続くのであった。
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