118 文化
「つ、つまり……ゴクリッ、私の下着が知りたいと……そうおっしゃるのですね? ご主人様は」
「そうだなローラ、俺は君達の下着の事がすごく知りたいんだ」
ローラの質問に対して当然のごとく肯定してみせる俺だ。
それを横で聞いていたアイリが一歩前に出て来て、俺とローラの間に入ると。
「『君達』と言う事は私もですよね!? 少し待っていてくださいゼン様、ドリーちゃんから餞別で貰っていた刺繍が可愛い奴に交換してくるので!」
「む、ドリル嬢からと言う事は貴族の物か、それはすごく見たいな!」
アイリーンことメイドのアイリが、現地の下着を見せてくれるというので見たいと答えていくのだが……交換?
そのまま見せてくれればいいのだが……おや? 走って〈ルーム〉の〈入口〉の中に行ってしまった……。
君にも〈インベントリ極小〉を付与してあげたよね?
この場で芝生の上にでも出してくれればいいのに……本拠島にある私室に荷物を取りにいったのかもか。
「ああああのゼン様? その……私のもでしょうか?」
「ああ、勿論セリィのも知りたいな」
セリィも現地の女性だしな、知らねばなるまいて。
が、俺がセリィに答えた瞬間、横から振られたドリアードのリアのアホツル毛に吹っ飛ばされた。
そして、そのままゴロゴロと触れ合い魔物園な芝生の上を転がっていく俺。
「『知りたいな』じゃないわよゼン! 急に何を言い出すかと思ったら配下の下着を見せなさいなんて……ルナちゃんやセリィちゃんに手を出したらぶっ飛ばすわよ?」
すでにぶっ飛ばされているのですが、それは?
立ち上がって皆の側へと戻る俺。
「いや、この世界の下着事情を知るためなんだから、ルナのは必要ないだろ?」
「はぁ? ……うん? えーと……えっと……ゼン、どういう事?」
リアが俺にそう質問をぶつけてくる。
何故か自分のメイドスカートを掴んで捲り上げようとして途中で止まっているローラや。
同じく、何故かリアの背後側に確保されているセリィも首を傾げて不思議がっている。
むむ? ……どういう事とはどういう事だ? ホワット?
そうしてリアの言っている事がよく分からなくて、俺が首を傾げていると。
「マスターの説明が不足している、さっきのは穿いている下着を見せろと聞こえた」
この場で唯一いつもと変わらない様子のルナが、俺に説明してくれた訳だが……。
……。
……。
あー……成程!
「確かに説明不足だったかもしれないな、すまんすまん」
俺はそう言って皆に謝ると、商業ギルドで可憐なハーフエルフのカレンさんとの商談で言われた事の一部を説明する。
その結果、この世界の女性の下着事情を、もっときっちり知っておくべきだと判断した事を伝えた。
男性用下着はDP節約で冒険者街のお店とかで買っていた時期もあるから知っていて。
腰をヒモで締めるトランクスみたいな奴とか、フンドシっぽい物が多かったっけか。
「つまりご主人様は……今私が穿いている下着に興味があった訳ではなく……」
「ゼン兄さ……ゼン様の常識のなさを埋めるお話だったんですね……ほっとしました」
「まったくゼンは……言い方って物を考えなさいよ!」
「それがマスターの味」
むーん、でもさぁ『ローラの下着がどんなものか知りたい』と言ったら、その人が今穿いている下着の事になるのか?
そんなエッチな話を、こんな場所でするはずなくねぇ?
とそこに〈ルーム〉の〈入口〉からアイリが駆け戻ってきて、俺の側に到達すると。
「はぁはぁ……急いで着替えてきました、で、では……見せます……ね?」
そう言って俺の側に立ったまま、メイドスカートを捲り上げ始め……スパンッ!
ルナがインベントリから出した紙製のハリセンが、アイリの頭の上で良い音を鳴らした。
ルナが〈調理〉を教えているマーメイドにも、よくあれで突っ込みを入れているっけか……。
いまだにあのマーメイドの子は料理酒をつまみ飲みするんだよなぁ……。
「いたっ! ルナさん一体何を……」
メイドスカートから手を離して、ハリセンで叩かれた自分の頭を涙目で撫でているアイリ。
そこにルナが俺の言いたかった事を説明してくれる。
それを全て聞いたアイリは芝生の上で四つん這いになると。
「推しがデレたと思ったのにぃ! ……ひどいですゼン様! ……でもそんなドキドキな勘違いをさせる推しも大好きです……」
うん……良く分からんがアイリは少し放置しよう。
「で、だ、この世界の女性の下着事情を教えて欲しい」
俺が改めてそうやって質問を皆にぶつけると、まずはローラが一歩前に出てきて。
「ではまず私から、うちはそれなりの稼ぎがあったので基本はドロワーズを穿いていますね、胸はサラシを巻く感じでしょうか?」
ローラは中流階級代表みたいなもんだしな、ドロワーズってあれだろ、ダボっとしたショートパンツみたいな?
しかしなるほど、中流階級はそんなもんか、てかブラジャーがなさげ?
ローラが一歩下がり、次に口を開いたのはリアの背後から前に出てきたセリィだった。
「えっと……両親がいる頃はお金もあったのでローラさんと同じでしたが……貧しいというか一般の人達はその……穿いてない事も多いです……」
セリィから衝撃的な話が飛び出した。
え? ノーパン女性とかいるの!? そういう文化なのか?
ローラにも確認したが、庶民は下着を穿いていない人も多いっぽい……そっかぁ……。
これは格安の女性用ショーツを普及させねばいけないか?
「貴族はコルセットも着けますね、まぁ私は病気がちだったのでほとんどドロワーズだけでしたけど」
アイリが立ち上がりながら、貴族の事情を教えてくれる。
コルセットってあれだろ? 腰を細く見せるための拷問器具だよな?
まぁなんつーか、この世界の女性用下着の事情が分かったというか……取り敢えずだ。
「ルナ」
「何?」
「配下には下着を福利厚生費で買ってあげていいから、日本の女性用下着の知識をルナが教えつつ、皆に一揃い買ってあげてくれ……ダイゴには俺が男物の奴を適当に買っておくからさ」
この世界の下着だと着心地悪そうだしな、配下には日本産の物を揃えちゃおうと思った。
「了解マスター、それで予算は? 女性用は高いから最低でも5万DPは欲しい」
は? ……え?
「待てルナ! ……高すぎないか? 俺が前にオークションに出品した男性用ボクサーパンツが3千枚以上軽く買えてしまう値段なのだが!?」
「ふぅ……マスターは分かっていない、女性は見えない所にもお金をかける生き物、良い男は黙って出すべき値段」
「そういうものなのか?」
「そういうもの」
ルナがそう言い切るのなら、そうなのかもしれんのだが……。
最近支出が多くて予備費もヘソクリも吹っ飛んだんだよなぁ……。
今あるのはダンジョンからの収入である2万DPと少しだ……それで足りると思っていたんだが……まさか女性下着がそんなに高いとは。
ふむ……。
俺はリアの方を向くと視線をリアに合わせる。
「ん? 何よゼン、私に下着はいらないわよ?」
違うそうじゃない、お前は葉っぱが服だろ? って俺が言いたいのはだ。
「DP足りないのでお小遣いください!」
そうリアに対して頭を下げてお願いするのみだ。
「……えらく直球できたわね、まぁね、ゼンに魔石の一個や二個あげるのは別に構わないのだけど……どうせならお小遣いをあげたくなる気にさせてみなさいよゼン」
リアがそう言って俺を挑発してくる。
ふぅ……仕方ないなぁ……俺はダンジョンコアのメニュー画面を第三者に見えるモードにしてリアに見せる……俺の対面にいるリアにも文字が反転せずに普通に見せる事が出来る有能なメニューさんだ。
「コアメニューがどうかしたの?」
俺はリアのセリフを無視して、女性用下着を検索して商品情報をずらっと並べて見せる。
「俺の配下に下着を買ってあげるという事は、ルナの分も買うという事だ、今ならリアの好きな下着をルナに買ってプレゼントする権利を――」
「買うわ! 魔石ならたくさんあるのよ!」
食い気味にドリアードのダンジョンマスターが釣れてしまう。
そうしてリアから貰った複数の魔石をコアに吸収させたら33万DPになった……予算の5万DPを抜いてもかなり余るなーと喜んだのも束の間。
リアが選ぶのは超超超お高いブランド品で……既製品とはいえ一つで一万DPを軽く超える物とか普通にありやんの……。
俺は……女性服ブランドの値段の高さを舐めていたかもしれない……。
ルナにそんな高いのを渡すのならば……他の配下にもそれなりの物を、という事で予算が数倍にされた。
そして、ワイワイキャイキャイとした女性陣のショッピングは5時間後にやっと終わって、俺のコアにあるDPは残りが三桁になった。
ダンジョンメニューが、コアか俺の側じゃないと使えないってのもあって、俺が動く訳にもいかず。
それでも彼女らが選んでいる間は昼寝でもしようかと思っていたのだが、毎回どれが似合いますかと皆に質問され……さすがの俺も最後の方は自分でもなんて答えていたか覚えてないくらい消耗した……。
まぁ何故か買い物が終わった時に俺のポケットに銀貨が複数枚入っていたんだが……正直誰がくれたのかよく覚えていない……。
ダイゴ? あいつは厄介事の気配を感じて飯時以外は逃げていたよ……その勘は正しいね。
……それとまぁ男性用もお高いのはあるんだろうけど、確認すらする気がねぇので分からんのです。
一枚15DPのボクサーパンツを履き、十分なフィット感で満足できる俺は安い男なのだろうか。
あ、それとマリー達マーメイドの〈人化〉出来る奴等が、たまに下着を履いてないのは、この世界の文化のせいだった?
……んな訳ねぇか……後で確認して、なんなら下着一式もプレゼントしておくか……。
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