115 樹海ダンジョンの冒険者ギルド
「私は×××子爵の名代として来ているのですよ?」
「何度も言いますけど、もう街の中は何処もいっぱいなんですって、それに子爵家の名代? 王様や侯爵様の代理だって来ているんですから、貴方をその方々よりも優先しろと言うのですか?」
今日もいい天気な朝だ、冒険者街の入口は昨日と同じく馬車が渋滞を起こしていて、入口の警備兵と何処かの名代とやらが口論している。
俺達はそんな彼らを横目に見つつ、適当な荷物を担ぎつつ徒歩で冒険者街へと入っていく。
基本的に冒険者街の入口は、身分証明のタグをちらっと見せればスルーされるようなゆるい警備だったはずなんだけど……。
今はちゃんと対応してくるんだね。
なのでしっかりと警備兵にタグを見せる。
俺とルナは商業ギルドのタグと冒険者のタグやなんかを、そしてローラやアイリはドリル嬢が治めている街で作った商業ギルドのタグだ。
「えっと、冒険者であり商人か、もう雑魚寝する大部屋な宿屋くらいしか空いてないから、それが嫌なら外で寝るしかないぞ? 女性の多いパーティだと大部屋は厳しいから他の街に行った方がいいかもだな」
年嵩の警備兵がローブのフードを被った女性陣の様子を見ながら俺に忠告してくれた。
この年嵩の警備兵さんは意外に良い奴っぽいので、大銅貨を渡しながら情報を聞いてみる事にする。
「えっと、泊まる当てはあるので大丈夫なのですが、どうしてこんなに盛況なのか聞いても大丈夫ですか?」
俺が差し出した大銅貨をしっかりと受け取りながら、年嵩の警備兵が質問に答えてくれる。
「ん? ああ、少し前にあそこのダンジョンにドラゴンが舞い降りてな、まぁ果物を食べに来たみたいで、たらふく食ったらすぐいなくなったんだが……」
「ああ、あの時のドラゴンですか」
俺はその時にいた訳だしな、知らない降りをするのは悪手だよな?
「ん? お前さんあの時いたのか、それならまぁ、その後に生え代わりの鱗やらを大量に落としていったみたいなのは知っているだろ? それでだな、その鱗が何故か一枚ずつオークションに出されていてよ……」
あー、それって俺の頼んだ出品のやつか、あの時拾った分は全部で二百枚以上は軽くあったけど……オークションに出したのは50枚だし、もう終わっているはずなんだけどな。
それにホムラへの酒の代金として、火竜の鱗や牙や爪を貰うから、在庫が増えていくんだよな……。
そのうちドワーフ鍛冶屋のカンジさんに頼んで、火属性の武器でも作って貰うかねぇ?
「それってもう、オークションが終わっている予定ではなかったですか?」
「ああ、さすが商人だな、いやな、その日付をずらして出された鱗のほとんど全てを競り落とした商人がいてよ、それをまとめてこの街の現地限定でオークション出品するって話になってよぉ……そんなの王都とかでやりゃいいのにさ、そんな訳でもうすぐ開かれるオークションに向けて人が続々と集まっているって訳よ」
ありゃま、そういう事をするかもと思ったけど、相当な資金がないと難しくねぇ? しかも纏めてなら警備兵さんの言う通りに王都あたりでやった方が……。
「それで、ウロコをまとめて出品する商会の名前を聞いても大丈夫ですか?」
俺はさらに大銅貨を追加で渡しながら聞いていく。
「ああ、誰でも知っている情報だから大丈夫だ、ここらなら誰でも知っている……」
「知っている?」
警備兵は何故か少し溜めを作って来たので合わせてあげる。
驚く演技も用意しないとな。
「……デラン商会だよ」
「ええ! あのデラ……あいつらかよ!」
ラハさん……の体さんが指揮している商会じゃんか!
「おいおい、デラン商会をあいつらとか言うなよ、めっちゃやばい相手なんだからよ」
警備兵さんが忠告をくれたので大人しく聞く事にする。
どれだけアンタッチャブルな商会として見られているんだか……。
「ああ、そうですね……情報ありがとうございました、俺達は行きますね」
「おう、街中には貴族の使いとかも多いし、トラブルにならんよう気をつけてな」
いやぁ、良い人だなぁ、今まで旅で色々な街を通って来たけど、たまに賄賂を露骨に請求してくる警備兵とかいるからなぁ……そういう奴等はこの警備兵さんを見習えっての。
「ルナ達は先にお屋敷に行っといてくれ、俺はギルドに行ってオークションの売り上げを確認してくるからさ」
「了解、二人共こっち」
「畏まりましたご主人様、案内よろしくお願いしますルナさん」
「ふぁぁ……冒険者さんの多い街ですねぇ……」
周りをキョロキョロと見回しているアイリが危険だと思ったのか、ローラが横からアイリと腕を組んでお屋敷に向けて歩いて行った。
ありがとうローラ。
さって久しぶりのギルドだな。
この街は冒険者ギルドと商業ギルドの建物が合体しているので、ギルドと言えばそこを指すのだ。
……。
……。
さってと、茶髪お団子髪で秘書っぽい、そしてペッタンスレンダーなハーフエルフである、可憐なカレンさんはいるかなー。
あ、いたいた。
「こんちはーカレンさん」
今日は冒険者側の受付にいたカレンさんの前に辿り着くと、そう挨拶の声をかけていく。
カレンさんは俺の顔をマジマジと見ると、嬉しそうな笑顔を見せながら。
「ゼン君! あっと失礼しましたゼンさん、仕入れの旅から帰ってきたんですね、お帰りなさい!」
もうゼン君でも呼び捨てでも好きに呼んでいいのにな、カレンさんは真面目だから仕事中はさん付けなんだよなぁ。
「ええ、中々良い物を仕入れる事が出来ました、それで例のオークションの売り上げを確認したいのですが」
後半部分は小さな声でカレンさんに伝えると、彼女もコクリと頷くだけで俺に返事をし。
受け付けを他の人に代わって貰うと、俺を商談なんかに使う商業ギルド側の個室へと案内してくれた。
カレンさんが書類やらお金やらを取りに行ってくれているので、ソファーにどかっと座って待っている。
ここに来るのも久しぶりだなぁ。
しばらく待っていると、カレンさんが荷物を持って入ってくる。
そして俺の対面のソファーに座ると、間にあるテーブルに色々と置いていく。
「まずはこれがオークションの落札値を書いた書類です、お確かめください」
「ふんふん……なんか後半になるにつれて、すげぇ高くなってません?」
「ええ、実は鱗を買い占める商会が出てきまして、どうしても欲しいという他の商会が後のオークションになるにつれて入札値段を上げていったのですが……法外な値段を付けられた数件以外はすべて一つの商会が落札したんです」
「ああ……デラン商会ですね」
「もうお聞きになられているのですね、ルールを守った入札ですので、特に問題はないのですが……折角のゼンさんのお心遣いが蔑ろにされてしまったようで……」
「あーそれはどうでしょうかカレンさん、沢山落とした物を王都あたりに持っていくなら兎も角、ここで現地オークションに出すという事は、デラン商会も俺と同じように、この冒険者街が寂れるのを嫌ったって事なのではないかと思います」
「……そうなのでしょうか? ゼンさんが納得されるのなら私から言う事はありません、では、金額をご確認ください」
「ほいほい、えーっと火竜の鱗50枚出品で……金貨300枚以上って……俺が出品する前のオークションだと、鱗一枚が金貨一枚前後とかで落とされたりしていましたよねぇ?」
「やはり火竜の素材による武具は騎士の誉れという事で、お貴族様達の出入りの商人達が少々熱くなり過ぎたという所でしょうか?」
ああ、そりゃ俺が持っている火竜の剣程の物は出来なくても、火属性がついた剣や鎧くらいなら人族の職人でもいけちゃうしな、むしろ素材を持っていってドワーフに頼む方がいいか?
「まぁ確認の続きをしようかな、ひのふのみの……」
カレンさんが書類と一緒に持ってきたお金を数えていく、うん問題ないね、手数料も前に言っていた割合になっているし。
「金額おっけーですカレンさん、ここに受け取りのサインすればいいのかな?」
「はい、お願いします」
受け取りのサインを何カ所かに書き終わり、カレンさんがそれを確かめている。
「問題ありませんね、オークションの清算は以上です」
「ありがとうございました」
「ふふ、こちらこそゼンさんのおかげで冒険者街に活気が戻って嬉しい限りなんですよ、ギルドとしても感謝しております」
「あのまま寂れてしまうのは悲しかったですしね、えっと、あそうだこれカレンさんに」
俺は〈インベントリ〉から貿易港タタンタの市場で仕入れた異国産の絹のハンカチを取り出す。
色々な色を買ったんだけど……カレンさんはイメージ的に白い奴にしてみた。
「わぁ、絹のハンカチーフですか? 刺繍が異国産っぽいですねぇ……これを仕入れて来たって事ですか? うーん丁度貴族関係者もこの街にいるし売れますよ!」
おおう、商売品のサンプルと思われてしまっている。
「いえ、カレンさんに個人的に買ってきたお土産なんで、受け取ってください」
「え、えぇ! 私にですか!?」
「ええ、ここを出る時に、お土産を買って来るって言いませんでしたっけか?」
あれ、言ってなかったっけ?
「ううんと……その……食事会の約束の方はしっかり覚えているのですけど……ゼンさんは覚えていらっしゃいますか?」
ああ、それもあったっけ!
「はい、覚えていますよ、カレンさんとセシリーさんの三人での食事ですよね、しばらくこの街にいるつもりなので予定を合わせますよ、俺は明日にでも大丈夫ですので」
冒険者の色々な話をしながら食事しようってお誘いだったっけか、楽しみだね。
「あ! えっとその、デラン商会のオークションが終わってからでいいですか?」
「ああ、それまでは忙しいのですね、んーじゃぁ俺が仕入れてきた色々な物の出品もやめた方がいいかな?」
貿易港で買う物はそこそこの値段で売れるかなーっと思って、色々仕入れて来たんだけどね。
「あ、違うんです! 鱗オークションのせいでホテルは何処もいっぱいなんです、鱗オークションが終われば商人達もかなりの数がいなくなるので、そうしたら空きが出ると思うのでお待ち頂ければなと……」
あー食事処もいっぱいなのかぁ……あ、それなら。
「それならうちのお屋敷でやりますか? 実はルナ以外にも従業員も増えましたし、紹介がてら皆で宴でも」
「いえ! それは待ってくださいゼンさん! ……増えた人員の事も聞きたいですが、えっと……ホテルの……そう! もう高級ホテルに予約を入れているのでそちらでお食事しましょう!」
予約? 俺がいつ帰ってくるかも分からんのに……あー、そのうち使います的な予約方法が異世界には存在するのかもなぁ?
「あ、はぁ、まぁカレンさんがそうしたいと言うのなら? じゃぁそれで」
俺が賛成の返事をすると、カレンさんが長い長い安堵の溜息をついている、ふぬ?
「ホッ……あ、このお土産ありがとうございますゼン……君、大事に使うからね」
プライベートな話だから君付けなのかな? カレンさんも真面目だよね、まあセシリーさんみたく適当なのもどうかと思うけど。
「はい、どういたしましてカレンさん」
「ん、んん、コホンッ! ではゼンさん、先程おっしゃっていたオークションに出したい物の話をお伺いしましょう……今は商人や貴族の使いがたくさん来ているので高く競り落とされるチャンスですよ!」
お仕事モードに戻ったカレンさんだった。
んーお貴族様相手は考えていなかったからなぁ……。
「いや、冒険者相手のお店とかを考えていましたので、魚介類の干物がメインなんですよね」
そう言って俺は氷下魚っぽい物や、スルメや、貝柱の干物、他にもタコの干物やら何やら、色々出していく。
「成程、これはお酒のおつまみに良さそうですねぇ……この辺りは内陸なのでこういった物は珍しいかもです、私も買います」
酒のつまみと言っているのに欲しがるという事は、カレンさんって結構酒飲みなのかな?
「それはありがとうございますカレンさん、他にも他所の大陸からの輸入品でこんなのがですね」
そして、テーブル一つで足りないくらいの様々な仕入れのサンプルを取り出し。
その全ての出品を済ますのに、午前から夕方までかかってしまうとは思わなかった。
いやほら、今出すのがチャンスだと言われちゃったらさぁ……カレンさん話が上手いんだもん。
色々と話をしているうちに、オークションに出すつもりのなかった、俺の晩酌用に押さえておいた高級な魔物肉の燻製とかまで出しちゃったよ……。
そんな事はないとは思うんだけどさ……俺ってもしかして商売人の才能がない可能性がちょこっとあるかも?
まぁ帰ってリアに話を……いや体さんに鱗の件を聞いてみるかな。
っとその前にセシリーさんにも絹のハンカチをお土産に渡してから帰ろう。
セクシーなハーフ魔人族であるセシリーさんには、イメージ的に黒い奴がいいかな?
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