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112 チビローパーの感情

「はぁ? 今なんて?」


 リアが堅い笑顔で確認を取ってくるので、俺はもう一度ここ最近あった話をしてあげた。


 ……。


「もう一度聞かせなさいって意味じゃないのよ! ゼンは自重を何処に置いてきちゃったの?」


 そりゃぁ。


「異世界日本」


 ルナが俺の代わりに答えていた。


 いやいや、俺だって自重する事はあるってば、てか日本にいる頃から自重って言葉は知っているわい。


「そうね、ルナちゃんの言う通り、ゼンに自重を求める方がおかしかったんだわ……ありがとうルナちゃん」

「どういたしまして」


 ……俺を抜きで会話するなよ、寂しいじゃんか。


 今俺はリアの本拠地ダンジョンである樹海ダンジョンの奥深く、地下にある、いつもの庭園に来ている。

 貿易港タタンタから帰る途中だが、荷馬車ごと〈ルーム〉に入ってキャラバンの真似事はお休み中。


 触れ合い魔物園のチビッ子魔物達は今日も元気に……ダイゴやアイリと芝生の上を一緒に駆けまわっている。

 セリィやローラは大人しい魔物達の毛づくろいやらを、芝生に直に座りながら手伝っている。


 そんな中で俺とルナは先日の漁村の件を、保護者であるリアを交えて話し合っているのだが。


「これでも自重したんだがなぁ……」


 俺がそれを言った瞬間、リアの頭の上のアホツル毛がビューンとこちらに伸びて、俺の頭を引っぱたいてきた。


「いたっ!」


「いたっ! じゃないわよゼン! ダンジョン転移を使った魔物の大量転移を見せるわ、大金貨を超える買取を余裕で払える財力を匂わせるわ、それにソースのレシピ? そういう情報はすっごいお金になるの! 下手したらその村人達から情報を吸い上げて村滅させるレベルの物なの! どこが自重しているのよ!」


 ええ……。


「まじで?」


「おおまじよ! ゼンはお金そのものや貴重な物じゃないからって油断したんだろうけど……はぁ……後で〈魔法狂い〉にフォローをお願いしておきなさい、あっちの国は〈魔法狂い〉の方が動きやすいから」


 あらま、その言い方ってさ、まるで国を簡単に動かせる……考えるのやめとこ。


「了解したよリア、しかしそうかぁ……情報も駄目かぁ、たかがソース擬きのレシピでなぁ……」


 なんかもう駄目な事が多すぎて忘れちゃうよね。


「それはびっくりだねマスター」

「そうだなルナ……フライやお好み焼きにはソースが必須だったから、細かい事を考えもしなかったな」


 イカフライ美味かったしな、あんまり後悔はしていない。

 反省はするけども。


「ルナちゃんは分からなくてもしょうがないわよね、まだ生まれたばかりだし、私がそういう事をじっっっっっくり教えてあげるから、今日はうちにお泊まりしましょう? ゼンは大人なんだから自分でどうにかしなさい」

「ごめんなさいリア姉様、今日の夜は街道に戻って野営訓練の予定」


「そんな! ぅぅぅ……」


 リアのアホツル毛がシナシナと萎れている、大丈夫か? 俺の異世界肥料いる?


 ルナがリアの側に座り直し頭をナデナデしたら、あっという間にアホツル毛が復活した。

 そしてリアはそのままルナと楽し気に雑談を始めている。


 なんとなく俺がその中に入るのは無粋な気がしたので、さてどうしたら……。


 おっと?


 俺の側にチビミミックが来ていた。


 追いかけっこに参加していないチビ魔物達は、皆セリィやローラの側にいるのだと思っていたよ。


「そうかそうか、お前は俺がいいのか、よーし、いつもみたいに磨いてやるからな! ……ん? どうした?」


 俺がミミックを磨くための道具を取り出そうとすると、ミミックがパカパカと蓋を開けて何かを訴えかける。

 んー? チビミミックの宝箱の中身がまた硬貨でいっぱいだな。


「もしかして両替して欲しいのか?」


 パカッパカッ!


 俺の問いかけに、チビミミックが嬉しそうに蓋を開け閉めさせている。


 ザラッと、俺の前の芝生に自身の箱の中身を出すチビミミック。

 銀貨に銅貨にビー玉に……なんだこれ、ピンク色の石か?


 あー確か天然石を買う時にこんなのを見た気がする……ローズマリーだっけ?

 いや……なんか違う気がするな……まいいや。


「銅貨を全部銀貨にする感じでいいか? 銀貨を大銀貨に出来るが、それだと一枚くらいになっちゃうしなぁ」


 チビミミックは左右にカッタカッタと体……箱を揺らして、たぶん考え事をしている。

 しばしの間、チビミミックの答えが出るのを待ってやる。


 ……。


 カタッカタッ……カタッカタッ……。


 ……。


 そして。


 ……カタッと動きを止めたチビミミックは、パカパカと二回蓋を開け閉めした。


 ふむ……。


「大銀貨にする方でいいんだな? 量はかなり減っちゃうけど」


 パカッ、チビミミックがもう一度蓋を開け閉めしたので、両替していく。


 あ、ちょっと目算誤ったな……銅貨980枚分くらいしかねぇや。

 ……うーん、仕方ない、少しおまけしてやるか。


 俺はそれらの硬貨を全部インベントリに仕舞うと、大銀貨を一枚取り出す。


「じゃ入れていくぞー」


 俺が大銀貨やビー玉やピンク色の石を入れ終わると、チビミミックは嬉しそうに俺の前を小さく何週も走り……ジャンプ移動して回っている。

 ……どうして箱がジャンプ出来るのか、いまだに謎だ。


「嬉しそうだな、んじゃいつものごとくグリースで磨いてやるぜ!」


 俺が布やらを準備しだすと……チビミミックはカタッと体をナナメにして、しばしそのまま動かなくなった……。

 どうした? 箱の角だけ接地してバランス取って立つとか、すごいなお前。


 そしてカタッと元の体勢に戻ると、ピョンピョンと、セリィやローラ達の美少女メイドゾーンへと走って……ジャンプ移動して行った。


 俺はチビミミックのために準備した布を片手で握りしめ……。


「俺との関係は金(両替)のためだけだったんだなぁぁ!」


 と、空いた片手をチビミミックに伸ばしながら嘆いてみせた。


「何やっているのよゼンは……」

「どんな時でも寸劇を忘れない、さすマス」


 リアとルナから突っ込みが入った。


 良かった見てくれている人がいて、誰も反応しなかったら恥ずかしかったわい。

 そりゃね、男より美少女に磨いて欲しいよな、俺でもそっちを選ぶわ。


 しかたない俺は昼寝でも……おろ、俺の前にチビローパーがウニョウニョと移動して来ていた。

 なのでまずは挨拶から。


「よお元気してるか」


 フルフルッ。


 うん何を言いたいのかさっぱり分からない。


 君には毛づくろいも必要ないし、なんか常に体表がヌルヌルしているから磨く必要もないし……。


「何しに来た?」


 プルプルッ。


 美少女フィギュアでも欲しいのかな?

 ……まぁそれをやったら絵面がピーな事になって、リアに怒られる未来しか見えないからやらないけども。


「うーむ分からん……」


 ポヨンッポヨンッ。


「俺のセリフによって反応が地味に違うのは分かるんだが」


 フニョフニョッ!


「音声反応の玩具みたいだな……」


 ニャカニャカッ。


 俺はチビローパーを連れて皆から少し離れた……そして。


 ギターを〈インベントリ〉から取り出し、一人だけの観客に向けて歌を歌う。


「それでは聞いてください、『ローパーの大冒険』、ある日一匹のローパーがぁ~、――」


 人間向けの勇者の大冒険というネタで作った歌を、ローパーに置き換えて歌ってあげる事にした。

 いやほら……俺の言葉に反応するのなら、歌にはどんな反応するのか気になったからさ……。


 ニュンニョンニャーン。


 ヒュンヒャンヒョーン。


 ウニウニウナー。


 ポヨポヨパワーン。


 ニャラニャラヌーン。


 ヒョイヒョイフー。


 うーん、音声反応の玩具よりもチビローパーの動きは多岐に渡り、その感情を表している……っぽいのだろうけど。

 うん、やっぱり何が言いたいかさっぱり分かんねぇや。


 ……。


 ……。


「ご清聴ありがとうございました」


 ウニョンウニョン。


 ただ一人の観客に向けてそう言うと、一応、一応ね、投げ銭用のザルを〈インベントリ〉から出して、チビローパーの前に出した。


 さぁ、どう出るチビローパー君! ワクワク。


 チビローパーはしばし動きを止め、左右にその体を揺らすと……そっとザルの中に入ってきた。

 お金がないから自分を払うってか!


 そのパターンは考えなかった、ナイス芸人だチビローパー君。

 俺は彼の体を張った芸を褒め――

 シュコーーーン、チビローパー君がザルの中から外へ吹き飛んで行った!


「チビローパーくーーーーーーーん!!!!!!」


 何だ! 何が起こった!?


 チャリンチャリンッ、そんな音がザルに響いたので、吹き飛ばされたチビローパー君の方からザルへと視線を戻す。

 そこには……大銅貨や銀貨が複数枚入っていて……視線を上げた俺の視界に入ってきたのは……。


 そこそこ遠い20メートル以上は離れた位置にいる、ローラとアイリが何かを投げるモーションを……あ、硬貨が飛んできた。


 チャリンッ、再度ザルの中で音が響くのであった。


 良いコントロールと肩をしているなぁ、野球ならショートかサードに入れたい所だね。


 ウニョウニョ。


 投げ込まれた硬貨に吹き飛ばされたっぽいチビローパーも無事戻ってきたし、まぁいいか。

 ザルの中の投げ銭はありがたく貰っておいた。


 その時、やはり少し離れた位置にいるルナが、俺に向けてポソっと囁いたように見えた。

 俺には〈聞き耳〉があるが、それでもかすかな音で分かり難かったが……。


『面白枠』


 ルナはそう言っていた気がする。

お読みいただき、ありがとうございます。


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