110 攻守逆転
さて。
俺はこの世界に来てから目立たないように生きてきた……つもりだ。
それは何故かって言うと、魔法があって奴隷制度もあるような世界で、弱い頃に目立つのが怖かったから。
でも今はどうだ?
俺にはアホみたいな強さの保護者が三人いるし。
彼女らからのお小遣いで買ったスキルで個人での強さもそこそこ得る事が出来た。
もうさ、ルールを守らないで一般人とかを捕まえる違法奴隷商とか。
ヒャッハーと襲い掛かってくる野盗とかなら余裕で勝てる訳ですよ。
さらに人世界のお偉いお貴族様とも良い縁が出来ちゃっている訳で……。
バラしたらまずいのは、俺のダンジョンメニューで購入出来る物の特異性とか、ユニークスキルの〈ルーム〉の仕様であって。
強さとかは多少バレても……むしろ強さを示して悪党に手を出させないという事も視野に入れて良い頃だと思うんだよね。
ドリアードのリアが抱えるデラン商会が、世の中でアンタッチャブル化しているようにさ。
まぁ結局のところ、コソコソするのが面倒臭くなったっていう話なんだけどね。
新たに配下というか預かったお貴族様であるアイリーンさんが言うには、俺の存在が長命種の特異存在なのではと予想を立てられているらしいし。
ホムラとも取引だけの関係じゃないと思われているのなら……そこまで必死に隠す意味がもうないよな?
……と言う感じの言い訳を後でリアにしておこう、うんそうしよう。
……。
……。
村民達が浜辺から陸地側に少し離れた地点に並んで、こちらを見ながらザワザワと会話している。
こっそり夜中にでもイカ魔物の退治をやろうと思っていたんだが、ルナが俺の覚醒回とか言って見せつける事を希望するんだもの……仕方ないよね。
覚醒も何も俺は変わっておらんのだがな、どんなアニメや小説を見ているのやら……。
ルナがコア部屋に隣接している台所で料理している時は、アニメを視聴しながらやってたりするから、俺も知らんアニメを見ていたりするんだよね。
それとさすがに〈思考分割〉とか〈並列思考〉とかをルナが欲しがった時に、その理由を聞いて突っ込みを入れたよ。
アニメや漫画を同時に見たいからとか言われてもなぁ……。
次に俺がリア達からたくさんお小遣い貰うまでは我慢しなさい、って言ってやったわ。
それでまぁ現在は午前中で天気は晴れ、浜辺には海の方を向いた俺だけがいる。
背後の少し離れた所にはルナや村民がずらりって状況だ。
さて、ではでは、波打ち際まで進んでコアメニューを呼び出す。
俺が設定しない限り、コアメニューは第三者には見えないのでバレる事はない。
波打ち際から海の中のそれなりの範囲をダンジョン化。
そして。
インベントリから魔法の杖を取り出す!
冒険者として魔法を使うなら見た目って大事だからね!
さっき異世界日本の玩具である魔法の杖を、ダンジョンメニューで買ったんだよね。
いわゆる魔法少女が戦う奴のシリーズの中でも、ガチの戦闘が売りの奴で。
その杖で近接戦の鍔迫り合いとかもするんで、形状が地味目で、パステルカラーのキラキラした感じの杖ではない。
青銅製っぽい見た目で長さが4尺くらいの本体。
そして杖の一番先に大人の拳より大きい細長い蒼い水晶が付いていて、本体部分には細かな意匠が施されている。
金属に見えるがめっちゃ軽い、ただし、玩具と言えど一番高い奴を選んだので……エグイ魔法効果が付与されてました。
〈変身(少女限定)〉と〈初級魔法(全)〉と〈飛翔〉と〈身体強化〉と〈戦闘術〉がついていました。
……やべぇ……これやべぇ奴だよ……。
後でどうせルナからリア達に話が漏れるだろう時に、この杖を見せたら……怒られそうだな。
……明日の事は……明後日の俺にまかせよう、てことで、俺しーらない。
そして玩具でも高い奴を買うとこんな効果が出るって事を、ダイゴに知られてはいけないと思った。
あいつ絶対に戦隊ヒーロー物の装備をねだってきそうだしな。
その杖を海に向けて……適当な呪文を唱える。
「我が呼び声に答えよ契約者」
とかなんとか、そしてダンジョンメニューからダンジョン内配下移動機能を使い。
準備万端のマーメイド族を呼び寄せる!
ずらっと現れたのは、マリー率いるマーメイド族のレベルが高い順に30人程。
武器はまだ一本しか出来てない鍛冶屋のカンジ作で〈水中適応〉〈刺突+〉〈水魔法+〉効果のついた〈蛇竜の水槍〉をマリーが使い。
ほかの子達にはドワーフ作だが店売りの槍で、今回はこれでやって貰う。
〈蛇竜の水槍〉ってのは、良い素材を使った武器には名付けをするものだって、ドワーフのカンジさんに言われたので。
スイレンさんの素材が良い仕事をしたって事で、この名前にした。
いつかお金が出来たらまたカンジさんに水中用の槍は頼むと言ってある。
ウッドゴーレムの装備はサイズが特注だからまだ出来ていない。
マリーはセリィ達が強くなっていく事を気にしていたからレベリングもさせているし、ダンジョンコアメニューでレベルの上がらない固定スキルをいくつか覚えさせてあげた。
ホムラやスイレンさんにも頼んで火山島でのパワーレベリングも一回やったし。
おかげでマリーのレベルはレベル23まで上がり。
スキルも〈水中機動〉〈水魔法〉〈槍術〉を取得したり、又はレベルが上がっていた。
今付けている固定付与は確か〈インベントリ極小〉〈身体強化〉〈魔力強化〉〈気配感知〉〈悪意感知〉だったかな? 他にも付けたかも? ……正直全部覚えていられない。
マーメイド達にも戦闘系レベル固定スキルを色々バラまいたよ……そしてDP貯蓄はまたからっぽ……なんでDPって溜まらないんだろうね?
マリーは、もう何回かレベリングしてレベル30を超えたら、個人で中ボスと言える存在になるだろう。
今はまだマーメイド族全体で中ボスって感じだね……それなら指揮能力が上がるスキルも付与しておけば良かったな……後で付与しておこう。
昔巨大クラーケンの魔物に狙われて逃げ出した事のある彼女らだ。
今回の話を持ち掛けたらすごいやる気を見せている。
まぁ相手のイカがそこまで大きくないからね、実は俺の〈光魔法〉でも水上付近に出てきたら倒せちゃうと思っている。
マリー達が波打ち際から少し海に入った場所で、俺に向けて頭を下げている。
その光景を見ている村民達から感嘆の声があがる。
「じゃ、マリー、レベリングの成果を見せてくれ、敵はあそこに見えるイカの魔物だ」
俺が指で示す先を見るためにマーメイド達は振り返る。
そこには数百メートル先に本体を海上に見せているイカが見えた。
マーメイドに気付いているのかもね……彼女らがエサに見えるのだろうか?
警戒もせずに海上に姿を現すイカの魔物、まぁイメージより小さいがクラーケンと呼ぶか、その姿はマーメイド達を侮り馬鹿にしているようにも見える。
うーん、俺とルナの目測で予想していたより少し大きいか?
本体が20の……足を含めると全長で40メートルって所かね。
「やれるか? マリー」
俺が沖を見ている彼女の背中に向けてそう問いかけると。
見た目が小学生な美少女であるマリーは振り返り、笑顔を零しながら。
「お任せくださいゼン様! ……火山島のサラマンダーよりは弱いでしょうし……」
そう自信のある声で返答してきた。
ああうん、あの火を纏った皮膚が厄介な上に堅かった、でっかいトカゲよりは楽に思えるね……。
大きさだけならイカのが上なんだろうけどな……あのトカゲの唐揚げ……すげぇ美味かったなぁ……。
「まぁ、住処を追われたのは個体違いで、あいつが原因じゃないのだろうけど、同種の魔物だ、八つ当たりで昔の恨みをぶつけてこい! マーメイド族の力を見せてやれ!」
「「「「「「「「「はいゼン様!」」」」」」」」」
マリーだけでなくマーメイド族全員がそう声を揃えると、海へと飛び込んでいくのであった。
……。
……。
……。
うん……今日の海は静かだな……見た目が地味というか……水中で戦っているんだろうな……。
……。
俺の背後からくる村民の視線が痛い。
……。
今時点の彼らから見えるのは、足が少し波につかる地点で海の方を見て立っている俺だけだものな。
……。
おっ、沖の海上にマーメイドが飛び上がった。
まるでイルカショーのイルカみたいだ、そして……その後をクラーケンの触手が追ってたんで、彼女は囮か何かだったのかな?
その時だけ背後から『おおぉ』という村民達の声が聞こえたが、また沖合の海は静かになった。
きっと水中では派手な戦いが繰り広げられているのだろう! そうに違いない!
だが、村民からはまったく分からないだろうけどな! 俺も分からんし!
あっちまでダンジョンを伸ばしたくなる誘惑にかられる……そうすれば様子が分かるんだが……さすがにDPが勿体ないか。
俺も小舟か何かで沖に行った方が良かったかね?
……でも水中に落ちたらなぁ……俺が持っている〈水泳〉スキルくらいだと、マーメイド相手の水中鬼ごっこで勝ち目がなかったしな。
〈水中機動〉は俺が覚えても、体の形的に十全に使えない可能性が高いとかなんとか。
むーん……お!
沖の海上に白いクラーケンの体が浮いて来たか、おー。
浮かんできたクラーケンの上にマリーが座って……下半身魚部分を嬉しそうにピョコピョコ動かしながら横座って〈蛇竜の水槍〉を持っていない方の手をこちらに向けて元気よく振っている。
どうやら終わったようだ。
背後の村民達もそれを理解したのだろう、大きな歓声があがった。
沖合からマーメイド達がクラーケンを引っ張って来ているのが分かる。
中には水中の戦いで切り落としたのか、クラーケンの足をトロフィーのように頭上に掲げながら泳いでくるマーメイドもいる。
器用なもんだな、獲物を持って両手が使えない状態でも上半身を海上に出したまま泳げるんだから。
……。
「ゼン様、やり遂げました! 周囲を一応索敵しましたが、大きな獲物はこれだけでした」
「ご苦労様マリー、どうだ強くなった感想は」
「これもすべてゼン様のお陰ですので……我らマーメイド族はゼン様のためなら全てを捧げる所存です、なんなりとお申し付けください!」
オーバーだなぁマリーは、周りのマーメイド達も一緒に頷いているしさ。
「命を賭ける必要ないからな? やばかったら逃げていい、無事に帰って来る事が一番だと思え」
俺はそう言って安心させてあげるのだが……。
マリーとマーメイド族の子達は、お互いに顔を見合わせ苦笑している、なんだ?
そしてしばらくして、マーメイド全員が再度俺を見つめる表情が笑顔に変わり。
「ゼン様のお望みのままに」
全員で頭を下げてくるのであった。
ふむ? まぁいいか、彼女らが運んできたクラーケンを〈インベントリ〉に仕舞い込み、マーメイド達をダンジョンの配下移動機能を使って帰還させる。
「また後でなマリー」
「はい、ゼン様」
そう答えたマリー共々マーメイド達は、本拠ダンジョン島へと帰っていった。
あ、召喚魔法って事にするために最初は適当な呪文を唱えたのに、帰還の呪文を唱えるの忘れてたかも……。
まいいや、帰還は無詠唱で出来るって事にしよう。
どうせ細かい所には突っ込んでこないだろうさ。
そうして俺は、海に少しつかっている足を陸へと向けるのだった。
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