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107 龍の素材?

「それで漁をするための船が全滅と?」

「数隻残ってはいますが今までのような漁をするには足りません、新しい船を作るには木材を大量に買わないといけないですし……現状では漁にもいけないので……」


 なるほど、そりゃ大変だとは思うけどさぁ……。


「俺は商売人であって奴隷商じゃないんだよね」


 俺はこの村の中年村長さんにそう言いながら、彼の後ろに立ち並ぶ村民を見る。


 村の広場的な場所であるここには、下は5歳くらいから上は30くらい? まで男女問わずに数十人が立ち並んでいる。

 働き盛りの男がいないのは、働き手の中核がいなくなっては困るからだろう。


 後そういう人達の大半は出稼ぎに出ているみたいだしね。


 皆ちょっと痩せているけど、一定以上の歳を得た人達はこちらをしっかりと見て来ている。

 俺に気に入られれば家族や村の助けになるって事か……こういうの苦手なんだけどな。


「大きな街で奴隷として売る事も出来ますし、ちゃんと村長である私のサイン入りの書状も出しますので……いかがでしょうか?」

「村長さん、少し考えさせて貰えますか?」


 そう言って俺とルナは荷馬車に戻り、村長の提案を相談する。


 ……。


 ……。


 なんでこんな事になったかというと。


 いつものように海が見える街道を西に向けて進んでいたら、この漁村の側を通りかかったんだ。

 まぁ特に用事もないし、漁村を横目に街道をそのまま行こうとしたら、村長さんが街道の横から声をかけてきたって感じ。


 元気のなさそうな中年の男が一人だし、周りに襲撃の気配も感じなかったんで、荷馬車を止めて話を聞いたんだが……。

 ……その内容が、村民を奴隷として買ってくれないか? って話でさ。


 どうにも海に大きいイカの魔物が居座ってしまい。


 普段は小舟と網を使った沿岸漁業で生計を立てていた村なのだが、邪魔だとばかりに、大きなイカの魔物によって網や船を壊されてしまったらしい。


 大型魔物の発生報告は領主にしているが、救援なんていつ来るか分からないし。

 今は船も出せないと言う事で、先がないみたいなんだよね。


 まぁ岸辺からの釣りで魚を、そして浜辺では貝なんかは取れるから、それほど酷い飢えにはなっていないみたいだけども。


 内陸から麦やら野菜を買うための金を稼げなければじり貧……ってな訳だ。


 このあたりの海にはイカの魔物が多いみたいで。

 船をひっくり返せる程の大きさは、祖父母の頃の話で出て来た事があるだけだって村長さんが言ってたけども。

 小さいのは彼らも普通に漁獲出来て、魔石を取った後に干して内陸に売ったりしていたらしい。


「どう思うよルナ」


 今回の荷馬車には俺とルナだけが乗っていたので、隣にいるルナにそう聞いてみた。


 他の面々は……ルナ曰く『レベリングで張り切り過ぎちゃった』らしい、今は拠点島で皆寝ているとか。


「テンプレだとルートは三つ、まず幼女から若い未亡人まで、女性を全て全員お嫁さんハーレムに入れる、もしくは物的財産の買取現金化とか、そして最後が……なんと全員ゾンビだった!」

「最後のはないな! 〈気配感知〉で分かるだろうに……というか最初のもねーよ、さっきの顔見せで女性だけでも幼女から二十代まで20人以上いたじゃんかよ……」


「それなら迷う事はない、金目の物を見つけて買い上げてあげればいい」

「そういうのはもうやった後っぽいんだよな、全員の服装とかすっごい貧相だったし」


「むむ……、それならマスターが魚介類を買ってあげるとか?」

「浜辺で取れる量だと自分達で食うくらいしか取れないんじゃね? まぁ余っているかもか……ルナの意見を採用して、魚介類が余ってたら買い上げてもいいかもな」


「イカ魔物の一夜干しとか欲しい」

「それは話を聞いていて俺も思った」


 小さいイカ魔物はこの村の特産だったみたいでさ、イカ魔物の干物を七輪で炙って酒の肴にしてーわ。


「じゃ、ルナの二番目の提案を採用して、何か買い上げてあげる案でいこうか」

「了解、マスター」


 ……。


 ……。


「買い上げですか? 商人殿」

「ああ、魚介類とか海藻類とか貴金属とか、何でも買いますよ」


 俺はルナと相談した内容を漁村の中年村長に伝えてみた。

 さっきまで集まっていた村民は仕事に戻っている。


「ああはい……そういったお金になりそうな物は、村の男共が内陸の街に売りにいっていまして、御領主様も当てになるか分かりませんし、冒険者を雇って海に居座るイカの魔物を倒せないか冒険者ギルドに問い合わせに行ったのですが……金額的に折り合わず、なので男共は街に出稼ぎにいって資金を作るべく頑張ってはいるのですが……街での滞在費もありますし……」


 まぁ、美味しい仕事があったら街の人間がやるよね……街の宿とかに泊まっていたら、いくら稼いでも赤字になりそうだし……だからこそ纏まった金が必要と思ったんだろうかねぇ。


「魚介類も売る程は獲れませんか?」

「いえ、多少は余りもありますが、そういった物は、天候が崩れて浜辺での漁が出来ない時の食料にしますので……」


 こんな状況だものな、いざという時の備蓄分を売れとは言えないかぁ……。


「村長さん、ちょっと村内やら漁場を見せて貰ってもいいでしょうか?」

「はい、気に入った娘達がいたらおっしゃってください……」


 いやいや、そういう品定めをしたい訳じゃないからね!?

 ……言ってもしょうがないか。


 荷馬車の護衛としてウッドゴレームとウッドホースを置いておく。

 ゴーレムはごつくて大きいし、常に周囲を警戒させる動きをさせておけば、村人も下手な事は考えないだろう。

 まぁ荷馬車には空の木箱とか樽しか置いてないんだけどね。


 ……。


 ……。


 そうして俺はルナを連れて村内を歩いて行く。


 村民達は魚介類を干したりしているが、その干場の広さに比べると実際に干されている量は微々たる物のようだ。

 普段は網が沢山張られた干場に、たくさんの魚やイカが並んでいるのだろうと思うと、ちょっと寂しくなった。


 着ている服はぼろっちぃし、使っている包丁やらの道具も古臭い……良い物は売りに出してしまったのかもしれないな。

 ただまぁ、死が間近という程の状況という訳ではないのか、仕事を手伝えなさそうな小さな子供らは普通に遊び回っているね。


 一定以上の年齢で村の現状が理解出来ていそうな子らが、俺やルナにアピールしてくる。

 力持ちだったり仕事を頑張る姿だったりと……逞しいねこの世界の住民は。


 そうした村民のアピールを横目にしつつ、浜辺へとやって来た俺とルナ。


 そこで〈遠目〉を持つ俺とルナは、数百メートル先の海から一瞬出ていた触手や本体の一部を確認した。


「……思ったより大きくないな?」


 見えたのは一瞬だったが、俺が思っていた巨大クラーケンな魔物……という感じではなかった。


「海の戦闘の優位度を考えれば、あれでも人間には脅威かも?」


 まぁそうだよな、比較対象が近くになかったから詳しくは分からんけど……全長百メートルとかって感じには見えなかった。


「触手合わせて30メートルはなさげな感じがするんだがどうよ、俺らでやれそうじゃね?」

「魔物は体内に魔石がある分力強い……小舟の上で人が戦闘するには面倒くさそう……勿論陸上なら余裕」


 だよなぁ、村長の話を聞いて日本のゲームとかに出て来る巨大なのを想像しちまってたよ……。

 陸上なら余裕かもか……。


「イカの好物ってなんだろうな?」

「魚? 見た感じ遠浅の漁場は魚影が濃そうだから、食べ放題なのかも」


 周りに魚がいっぱいだと、イカをエサで誘き寄せるのは無理かね。


 そんな感じでルナと会話していると、浜辺で貝を獲っている10代前半の子供と、遊んでいる5歳前後のチビッ子たちがいた。

 子守りをしながら浜辺で貝堀か、大変だのう。


「何の貝が取れるんだろうな?」

「うちの島と獲れる貝の種類が違うかもしれない、見に行こうマスター、そして珍しいなら高値で買う、備蓄というならこちらからお金と一緒に食料も出せばいい」


 ルナの意見に賛成した俺は、子供らの側に近寄って行った。


 ……。


 平たい木の棒で砂浜を掘っている子供に近づいて質問する。


「どんな貝が取れるのか見せて貰ってもいいか?」

「あ……商人の人……どうぞ、これです」


 砂堀をしていた10代前半くらいな女の子が、自分の側に置いていた大きなザルの中身を見せてくれた。

 そこに並べられた貝は……。


「うちでも見かける貝ばかりか……」

「マナが薄いせいか小粒……残念」


 ルナが言うマナの話だが、動植物はマナが濃いほど成長が早いとされている。

 だが、マナが濃いと魔物が発生するので、人々はマナが薄い場所に住んでいる事が多い。

 なので木材なんかは魔物が住んでいる領域から取るのが、枯渇させないコツだと知られている。


 ちなみに、マナスポットのある拠点島の周囲は、魚介類が豊富で大き目だったりする。

 だから真珠も大きくて立派なのが取れるんだよな。


「見せてくれてありがとう……ん?」


 お礼を言って女の子から離れようとすると……甘い匂いがした。


 なんだろうと思って周囲を見回すと、少し離れた場所でチビッ子らが遊んでいる方からその匂いがする。

 気になって近づくと、彼らが小さな焚火を囲んで何かを炙っている?


「こんにちは子供達、それは何を焼いているのかな?」


 礼儀正しく声をかけるも、チビッ子達は答えない。

 俺を警戒しているのかもしれない……今日初めて会った人間だものな、その警戒心は大事だぞ。


 さっきの女の子は俺が彼女を買ってくれるかもとか思ったから、素直に相手をしてくれたのかもな。

 広場で村長の後ろに並んでいた中にあの子もいたしよ……。


「何を焼いていたのか教えてくれる?」


 俺の隣のメイド姿のルナが、同じ問いかけを子供達にしている。

 ルナよ……俺が駄目だったんだから、同じ問いかけでは意味が――

「これだよお姉ちゃん」

「良い匂いがするの」

「姉ちゃんも嗅ぐか?」


 あ……あれ? 子供達は随分と素直に答えてくれている……。


 俺の声かけが丁寧過ぎて、田舎のチビッ子には逆に怪しく感じたのかもしれん……。

 くそ! 俺の品の良さが邪魔するなんて!


 まぁいいや、ルナの目の前に差し出されたのは……白や茶や黒のまだら模様の石?

 いやでも細い枝が刺さっているから石程は堅くなさそ……ん?


 えっと、なんだっけ、昔どこかで……そうだ日本のTVで!


 ……え? まじか?


「なぁチビッ子ら、それってもしかして海に浮かんで運ばれて来た物か?」


 俺はそう聞きながら、〈インベントリ〉から塩煎餅を取り出して彼らの前に出す。

 だが塩煎餅を知らないせいか、子供達は首を傾げている。


 なので俺が一枚自分で食べて見せると、それが食べ物だと理解したのか、子供らが俺の手の中から塩煎餅を取っていった。


 パリパリと煎餅を食べた子供らは、途中から嬉しそうな笑顔を浮かべ。


「しょっぱくて美味しい」

「おいしいの」

「しょっぱい堅パン? うめぇ」


 うむうむ、そうだろう、そうだろう、美味かったのなら俺の質問に答えて?


「マスターが子供をお菓子で釣っている」


 ルナが横でボソっと呟いた。


 やめてくれ! 確かに字面にすると怪しいけども! これは子供とのコミュニケーションの一種だ!


「えっとそれでどうだろう? さっき俺が聞いたように、その石は海に浮かんで運ばれたものじゃないかな?」


 子供らは俺の質問を再度聞くと顔を見合わせ、笑顔で三人共が俺の前に手を出して来た……。

 ぬぬぬ……情報の価値を知っている子供めらが! 賢いなお前ら!


 俺は〈インベントリ〉から、さらに塩煎餅を9枚取り出し、一人三枚ずつ渡すのであった。


「ポリポリ、そうだよ兄ちゃん、これは良く浜辺に流れ着くんだ、モグモグ」

「同じ場所に流れ着くの、ポリポリモグモグ」

「バリバリッモグモグ、軽くて脆い石だから建築にも使えないゴミだけど、焼いたら良い匂いがするって発見したのは俺なんだぜへへ」


 ……そういう不思議な事を発見したのなら、大人に報告しなさいよ君ら……。


「マスターこの石がなんなの?」

「ん? ああ、コア鑑定してみないとあれだが……たぶん」


「たぶん?」

「龍涎香りゅうぜんこうと似た物じゃないかなって思うんだよね」


「龍?」




「ポリポリモグモグ……兄ちゃんお代わり」

「モグモグ……お代わり欲しいの」

「バリバリモグモグ、姉ちゃんにもあげたいからお代わり!」


 チビッ子らは俺とルナの会話を一切聞かずにお代わりを求めてくる……いや聞いとけよお前ら。

 お前らの発見が村を救うかもしれないんだぜ?

お読みいただき、ありがとうございます。


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