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105/158

105 思ったよりも多かった(人物紹介にもなっている回)

 ガタゴトと港町タタンタから離れて行く荷馬車が一台。


「見送りもなくて寂しいですか? アイリ様」

「私はもう只のメイドですから、敬語も様付けもなしでお願いしますゼン様」


「了解アイリ、寂しいというのならいつでもドリル様の所へ帰っていいからね」


 守秘義務的な魔法契約はもう結んだからね。


「大丈夫です……お父様は色々と理由を付けていましたが、何年も寝込んだり起きたりを繰り返していた私を心配しているんだと思います、理由は判明すれども記憶に残っている死にそうな私の事は忘れられないのでしょう、故に……高レベルの光魔法持ちのゼン様の御側に置いておきたいのではないかな……と」


 あー、そういう意味もあったかも?


 確かにいくら勉強が遅れていたり馬鹿王子との悪縁があれど、平民の商人に娘を託すのはおかしいもんな……ん?

 あれ? もしかして高レベル〈光魔法〉持ちの俺と縁を結ぼうとかそういう意味も……?


 ……良し、深く考えない事にしよう、嫌な性格の相手じゃなければアイリのご家族を回復するくらいは別に構わんしな。


「まぁのんびり行こうかアイリ」

「はいゼン様!」


 ゴトゴトと音を立てる荷馬車の御者席に並んで座る俺とアイリ、家族の側を離れて不安になっていないかと思って、隣り合って座りながらしばらく会話してみたが大丈夫そうだ。


 ちなみにこの荷馬車はローラの父親に紹介して貰った行商人御用達のお店で買った物で、見た目はローラと一緒に旅をしていた時のと同じ、というか量産品。


 それをマジョリーさんにお願いして、全体的に頑丈にする固定魔法付与やら何やら色々として貰い、さらに風除けと日除けに幌を付けて貰った。


 馬は……ウッドゴーレムを馬型にして召喚をした物にした。

 この馬型ゴーレムはレベリング済みで、低レベルのオークくらいなら蹴散らせるくらいの力はある。


 荷馬車にいるのはルナとローラで、セリィとダイゴは冒険者街のお屋敷だ。

 たまに人が訪ねて来るから扉越しに対応して貰っている。


 今回は内陸の道ではなくて海沿いの道を西に行ってから国境を越えて、そして北上して樹海ダンジョンへと戻る事にした。


 特に操る必要のないウッドゴーレム馬だが、回りから見て御者席に誰もいないのはまずいだろうという事で座っている。

 会話が途切れてなんとなく静かになった時に、アイリが俺の肩に頭を乗せ……。


「そこまでですアイリさん」


 ローラが荷馬車から上半身を出して、俺とアイリの間に手を入れて来た。


「えっと何でしょうかローラさん?」


 アイリは心底不思議そうにローラを見ているが……なんだろう、お互いに優しい口調なのに何故か緊張感が漂っている?


 ローラがアイリの体を、子供を持ち上げるがごとくに引っこ抜いて荷馬車へと持って行った。

 ローラのレベルも15になったって言ってたっけ……着々と上がってんなぁ。


 そして聞こえる荷馬車からの話声。


 ◇◇◇


『いいですかローラさん、推しとの握手は最長30秒までです!』

『いえ……握手ではなく頭を肩に乗せようとしただけなんですけども……』


『それなら猶更です、ちゃんと投げ銭はしましたか?』

『あ! そういえばしてません……忘れてました……ごめんなさい』


『いえ、覚えていたのならいいのです、推しと交流するのならきちんと投げ銭をするべきなのです……アイリさんは硬貨を……あれ、そういえばまだお給料貰ってないから無理か……お給料日まで我慢出来ますか?』

『だ、大丈夫ですローラさん! ちゃんと家を出る時にドリーちゃんにお小遣いを貰ってきたので! 魔法のお財布にいっぱい入ってます!』


『それは良かった、ではアイリさん、推しへの投げ銭相場ですが……――』

『な、なるほどー、勉強になりますローラさん! ……――』


 ◇◇◇


 背後からの会話が聞こえつつ荷馬車を操っていると、ルナが御者席に来て俺の隣に座った。


「面白い人材ゲットだね、マスター」

「面白いは褒め言葉になるのか微妙な線だな」


「つまらないマスターと言われるのと、面白いマスターと言われるのは?」

「ああうん、その二択なら確かにな」


「これでマスターの周りにまた女性が増えた、さすが転生冒険者、こないだ読んだ小説より多い12人目」

「まてルナ……」


「何? マスター」

「その数だとあいつらが入っている気がするのだが……女性と表現しても良いのだろうか?」


「マスターがそう言っていたと姉様達に伝える」

「ごめんなさい! 何でもするのでそれはやめてください!」


「リア姉様は美人だし優しい」

「俺に来る優しさはルナへの半分だけどな、まぁ……美人だし? ツル毛や体に咲いている花とかすっごい奇麗なのは認めるけどよ」


「ラハ姉様は格好良い美人で男気がある」

「それは褒めているのか微妙だが否定はしない、女子高で同性からモテそうな美人だよな、宴の余興で相方にしていつか漫才をやりいとは思っている人だ」


「ホムラ姉様は――」

「待てルナ! 体さんの事を忘れるなんてとんでもない! てことは……12人はルナ抜きの数字ではなかったのか、ルナを入れるなら13人と表現しなさい、あんなに良い体なんて中々いないぞ?」


「そうだった……ごめんなさいマスター、体さんはいつも頭を撫でてくれるし、困った事がないか心配してくれる……良いお母さんになりそうなびじ……ナイスバディさん」

「うむ! 体さんは良い女……いや良い体だよな、毎回余計な肉がついたとか言って……表現しているがセクシーで可愛い体さんだ、嫁にしたいランキングなら常にトップスリーに入るね」


「ホムラ姉様はゴージャス美人で頼りがいがある、背中に乗って飛ぶのも好き」

「あいつの背中にはシートベルトがないのが難点だな、自由に歩ける柵無しの高層ビルの屋上って感じだ……美人なのは認める、黙って立っていたら世界に通じるモデルにすらなれるだろうさ」


「スイレン姉様は子供みたいで可愛い、見た目の清楚美人とのギャップが最強」

「育ての親があれだとな……最初に比べてルナ達とも会話するようになってて安心しているんだよ……ってなんで俺がスイレンさんの親みたいな心配をしないといけないんだ? まぁ初見のイメージで言うと乙姫様っぽい美人だよな……鯛や平目が舞い踊らずに生でバリバリ食ってそうだけど……」


「マリーは見た目が美少女である事に加えて……最近マスターへの接し方が変わった、理解のある大人の女性の目をマスターに向けている」

「マリーの見た目はルナやセリィ達と同じだものな、年齢は教えてくれないんだよなあいつ……まぁそれなりの大人なんだろうけど……接し方? ……そういえば会話する時に俺の体に触れながらするようになったかも? 仲間意識が上がったのなら良い事だね」


「マジョリー姉様は……まだよく分からない、美人だけどマスターを見る目が捕食者」

「そういや魔女達との交流はほとんど俺だけがしているか、前に一回向こうで飯を食ったくらいか? ……突っ込まないよ? 捕食者の部分に突っ込まないからな? フラグは立てたくないんだよ」


「クロ姉様は……人型になるんだよね? 一度見たいかも」

「ルナ達を呼んだ時には黒猫に戻ってたからなぁ……見た目は幼いんだが、姉様呼びでも間違いはないか……ルナと同じくらいの年齢に見える黒猫耳日本人形をゴスロリにした感じで可愛いかったぜ?」


「イクスさんは、今度箒に乗せて欲しいかも、マスターだけずるい、あの椅子も座ってみたかった、もちもちふんわりしてそう……大きな目が優しげで奇麗だった……」

「箒の飛行訓練の時に今度一緒に行こうか、あれは酔っぱらってたからしたことで……もうあんな事は……いや……イクスさん怒ってなかったからなぁ……宴で酒飲んだ時にまた頼んでみよう、うん、最高の椅子だったぜ? あの目はずっと見ていられるよなぁ」


「セリィは遠慮がまだあるのが残念、早くマスターが何とかするべき」

「あーそうなんだよなぁ……責任感が強いんだろうな、兄様呼びをさせたりして心を解そうとしているんだけどなぁ……まぁちょいちょい話をしながら心の距離を縮めていくしかねーな、ダイゴは最初から遠慮がなくて良かったかも? ……いややっぱりあいつには礼儀とかそういう教育がそろそろ必要かもしれん」


「ローラは――」

「待てルナ」


 俺はルナの口を手で押さえて言葉を止めさせた。


 何故なら背後から聞こえてきていた、やれ『握手なら銀貨一枚』だの『歌を頼むならいくら』だのな会話が聞こえなくなり、こっちに聞き耳を立てている二人がいるからだ。


 ルナが俺の行為の意味を理解したのか、口を塞いでいた俺の手を離すと。


「二人飛ばして、最後に私は……マスターの最高のパートナーでありナビである、他に何か言う事ある?」

「ルナが俺の最高のナビである事に間違いはないな、そして付け足すのなら、超絶美少女で料理も最高に上手い子だ」


「ふふり」


 ルナが口元に笑みを浮かべて嬉しそうにしているので、そのサラサラの銀髪ロングの頭を撫でてあげる、ナデリコナデリコ。


「ルナさんにご主人様!? 私の! 私の番が飛ばされたんですけど!?」

「聞いた事ない人の名がいっぱいでした、さすが私の推しには女性がたくさん寄って来るのでしょうか、そしてメイドの『アイリちゃん』をどう思うのかも聞きたいのです……」


 荷馬車の荷台から二人の女性が乗り出し気味に声をかけてくる。


 そういやアイリにはまだ皆を紹介してないな、魔法契約はもう結んだし、今度ダンジョンに連れていって宴に参加させるかね。


 荷台から身を乗り出しているローラとアイリを邪魔そうに見ながらルナがぽつりと一言。


「ローラと新人のアイリは、面白一号と二号」

「なるほど?」


「もっとこう可愛いとか愛らしいとか嫁にしたいとかないんですか……」

「私これでも公爵家の秘めたる宝なんて呼ばれていた美少女なんですけど……」


 俺はちょっとがっかりしている二人を見る……ふむ。


「確かにローラはその茶髪をポニーテールにしているのもあって、健康的で活発な可愛らしさがある事は認めよう、化粧水や俺の光魔法のおかげでお肌もピチピチで透き通った美しさになったしな、さらに16歳にしては商才もすごく、商人と交渉させている時の真剣な表情も格好良くて尊敬の念すら感じる」


「はうっ!」


 こちらに上半身を乗り出していたローラが、何故か荷台に向けて倒れていった。

 どごっという結構重めの音が聞こえてきたけど、大丈夫か?


 まぁいいや、そしてアイリだな。


「んでアイリ、いやメイドの『アイリちゃん』は、ルナの食事のおかげか体はすっかり健康的になってスラっとしたスタイルの良さは見惚れちゃうよね、それとサラサラの金髪といいその整った鼻や口や眉の形といい、ルナを知らなかったら出会った中で一番と表現していたかもしれない美少女だ、今は15歳だったか? もう少し歳を重ねたら文句なしの美人と表現するだろうね」


「はひゅぅ!」


 おろ、アイリまで胸を押さえて荷台に沈んで行った……大丈夫? 光魔法いる?


 と心配したら二人はゾンビのごとくのそっと起き上がると、二人して俺に向けて手を差し伸べて来た。


「胸がドキドキしたので投げ銭です! 受け取ってくださいご主人様!」

「推しが尊過ぎて辛いとはこういう事なのでしょうか? えっと受け取ってくださいゼン様」


 俺の手の平に二人が落とした銀貨のぶつかる音が響く。


 チャリンッ。


 ありがとうございまーす。

 くれるというのなら素直に受けるのが良いよね。


 ローラとアイリは二人してキャイキャイと会話しつつ、また荷台の奥に戻って行った。


 そこでルナが一言。


「やっぱり面白コンビ」


 樹海ダンジョンまでの旅路は始まったばかりである。

お読みいただき、ありがとうございます。


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