104 身内の緩い会議 ルナ強化
「とまぁそんな感じらしいんだが、皆はどう思う?」
今俺は、ドリル嬢に借りたお屋敷の応接間兼居間的な場所で食後のお話し中だ。
議題はメイドの『アイリちゃん』を受け入れるか? という物である。
テーブルを囲んだ四方向にあるソファーにそれぞれが座りながらの話合いだな。
そして今はドリル嬢に聞いた事前情報を話し終わった所で。
俺の身内とは魔法契約しているので、他の人には内緒だよっと前置きした話を他所に漏らす事は魔法契約的に難しくなる。
「ゼン様のお決めになった事なら従います」
「ゼン兄ちゃんが決めればいいんじゃない?」
セリィとダイゴは真っ先に棄権、というかあんまりアイリーン様と交流してなかったもんな、よく分からないのかもしれない。
じゃぁローラはと視線を向けてみると、彼女は泣きそうな表情で口を開いた。
「アイリーン……アイリ様はご苦労なされていたのですね……私としては……同推し仲間には不幸になって欲しくないです、けれどご主人様におまかせします、優先するべきは推しの意向なので」
そう言って口を閉ざしたローラは座っていたソファーから立ちあがり、お茶のお代わりを用意しに行った。
意見は言い終わったので、もう会話に参加はしないという事なのだろう。
「ルナはどう思う?」
「お馬鹿王子に狙われるお姫様、そしてそれを助ける転生冒険者……新たなテンプレがやってきた」
何を嬉しそうにしているんだこやつは……。
「いや、『どう思う?』ってのはそういう事じゃなくてだな……」
最近のルナは、漫画やアニメに留まらずライトノベルにも手を出しているからなぁ……。
「お馬鹿王族とかは物語にしかいないと思ってた」
「ああ、うん、それは俺も思った、末端の貴族とかならまだしも王族ははちゃんと教育されるよなぁって」
ドリル嬢から聞いた第三王子だっけ? の所業は本当にお馬鹿な物で、権力を持ったガキ大将といった感じで、しかも最近はそれが18禁な方向にもなって来ているようでさ……。
婚約者がいる貴族のお嬢様に手を出すとかアホだよなぁ、場合によっちゃぁ内乱とか国から離反とか起こされるだろうに。
ドリル嬢からの情報では、王様は長男だけはしっかり見ているが次男三男は他に丸投げっぽい。
下手に下の子が優秀だとお家騒動とかが起きるからかな?
王侯貴族ってのは個人ではなく家の存続が基本となるらしく、平民の家族とは感覚が違う場合も多いんだってさ。
まぁ公爵家は家族愛も有る方だとドリル様は言ってたけども……。
アイリーン様が可哀想だからってだけでなく、下手に馬鹿王子と繋がって連座で罪を被るのが嫌なんだろうとも言ってたね……ああうん、お貴族様だなぁと思った。
病気を治そうとはしていたんだし、家族に対する愛情はあるけども、自分が貴族である事は忘れないって所だね。
会った事がないけどドリル嬢の父親である公爵様ってのは、クセのありそうなお人だね。
「テンプレで行くと、マスターと馬鹿王子で決闘になるはず、ワクワク」
「ならねーよ、ってかそれはもう受け入れるのは構わないって事か?」
「魔法契約すれば秘密も漏れない、リア姉様だって貴族とは魔法契約を元に取引や密約もしているらしい、マスターもそろそろ、その世界に足を踏み入れる時期?」
リアやマジョリーさんはなぁ……裏で色々やっているみたいだが、俺はどっちかというとホムラみたいに我知らずの方向で行きたいんだがね。
「お断りだ、俺が迎え入れるのはあくまでメイドの『アイリちゃん』だ、お貴族のご令嬢なんて知らん」
「ゼン様、リア様達にはお伺いしなくて良いのですか?」
お茶を各人に出し終わったローラが、俺に質問をしながら自分がいたソファーに座り直した。
「ああ、それはもうだいたい聞いたよ」
セリィ姉弟やローラと違って今回の話は相手がお貴族様だからな、自称、俺の保護者達にも意見は聞いたんだよな。
ローラたちにその時の事を話しつつ、あいつらとの会話を思い出す……。
◇◇◇
『好きにすりゃええんじゃないかの? それよりも酒が切れてしまったんでまた売ってくれんかのう、対価は先日北の方で大量に獲って来た火角牛でどうじゃ?』
『新しい人が加わるならまた宴でしょうか? ゼン様の横で乾杯しながら飲むのが待ち遠しいです、それでいつ宴をやりますか?』
『んー? 魔法契約でしっかり縛るのならいいんじゃない? それよりゼン! たまには島の露天風呂ばかりじゃなくて、うちの泉で水浴びしましょうってルナちゃんやセリィちゃんに言っておいてくれない? お小遣いあげるからさ』
『ぬぬ、また女子が増えるのですか、そろそろ私の番だと思ってデートのお誘いを首を長くして待っているのですけど、いつ誘って頂けるのでしょうか?』
『……』『ッ……! ……』『!!……っ……』
ボディランゲージを翻訳すると『いつでも相談に乗るので気軽に会いに来てください!』だ、ほんと良い体さんだよな……。
『魔法契約だけで怖かったら魅了のお薬とか出しましょうか? 勿論対価はたー---っぷり頂くけどね、うふふふふ』
『ナァ~』テシテシッ。
◇◇◇
といった感じで、まぁ誰が何と言ったかまでは詳しく説明しないが、概ね否定的な意見はなかった。
というか好きにしろという感じで、ダンマス三人に共通する話として、問題があっても国一つくらいなら最悪滅ぼしてしまえばいいじゃない、という言葉で締めくくられていたのが共通していた。
俺は思った……なるほど、シンプルで分かりやすいなって……んな訳あるか!
そう簡単に国が……あれ? いけちゃうか? ……いやでもまだ……。
……俺の手持ちの戦力じゃ国相手はまだちょっときついから……いざとなったら保護者に泣きつこうと思いました。
そんな有意義な意見も聞けたんで……。
「じゃまぁメイドが一人増えるかもって事でよろしくな、まだ本人からは何も聞いてないから来ない事もあるかもだしな、そういう訳で解散だ!」
そう締めくくって会議を終わらせた。
「私は火角牛を使った料理の下ごしらえをしてくる、マスター食べたい物ある?」
ルナが最初にソファーから立って希望を聞いて来たので少し考える。
北の寒い地方で育つ、角に火属性を宿す牛は寒さで肉がしまっていて美味しいという話だったな……ジュルリッ……。
「食べたい物か? うーん……それならローストビーフとヒレカツを頼む!」
「了解、このあいだマスターのへそくりで上げて貰った〈調理レベル6〉が唸る」
そう言って謎の中二病的な格好いいポーズをしながら宣言をしたルナに〈ルーム〉を開いてあげると、意気揚々と〈入口〉から入って行った。
そうなんだよ、ルナがどー--しても欲しいって言うので、俺のヘソクリもダンジョンコアのDPもすっからかんになったが〈調理レベル6〉にしたんだよ。
ルナもさすがに半日以上光る繭の中だったね。
俺の〈光魔法レベル6〉に続く二つ目のレベル6だ。
今のルナなら技術力だけなら大国の宮廷調理人の筆頭にすら並ぶはずだ……。
戦場に行かないので戦死の可能性が低い生産系スキル持ちは、長命種であれば高レベル持ちがいたりするらしい。
それでもレベル6は一流の上の超一流って所で、人間で至れるのはそれこそ人生をそれ一つに捧げた人で、尚且つその方面の才能があれば中年以降くらいにやっと至れる? ってレベルだ。
まぁ人より長生きなドワーフ達とかだと……〈鍛冶レベル6〉くらいは普通にいるって話だけどな。
そんなこんなで会議が終わればいつものごとく。
セリィはダイゴに勉強を教え始め。
ローラと俺は暇つぶしにリバーシの対戦を始める。
ちなみに何故か勝っても負けても銀貨をくれる。
といったのんびりまったりな、いつもの日常が始まる。
ルナに働かせすぎじゃね? って思うかもしれないが、美味しい物を食べて貰う事が趣味だと言い切るんだよなルナは。
つまり調理中のルナは働いているというよりも趣味を楽しんでいるという気持ちらしい。
このあたりはちゃんと何度も聞いて確認しているから安心してくれ。
さすがに子供を働かせて自分が遊んでるというのはあり得ないからな……。
その代わりご飯の感想はきっちり言っていくよ、美味しい時はしっかり最高に美味しいと伝える!
普段は無表情な事の多いルナだけど、俺が褒めるとほんのり口元に笑みを浮かべるんだよな……まったく可愛らしいったらありゃしない!
うちのルナが、超絶美少女で可愛いくて性格も良い子なのは自明の理なんで今更の話だけどな。
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