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92話 貴族令嬢の誕生日パーティ5

 氷の刀身を持つ剣が、襲撃者の側頭部へと叩きこまれる。受けた男は昏倒し、その身を地へと倒れ伏せた。


「ふぅ……ひとまずは、何とかなったか」


 俺は一つ息を吐きだし、周囲を見渡した。煌びやかに彩られていたユリウス家の庭は、オスヴァルトの手の者の襲撃により今では変わり果てている。

 襲撃者は俺達とユリウス家の私兵、それに少数ながら参加していた騎士と思われる招待客によってすべて打ち倒されていた。

 ざっと周囲を確認し、他に敵が残っていないことを確認すると、俺は背後を振り返った。


「アンナ、あぁいや、アンナさん、無事か?」


「この際、呼び捨てでも構いませんよ? 皆様のおかげでこの通り、傷一つありませんわ」


 そう言って、アンネマリーは両手を広げて見せる。その言葉通り、アンネマリーに怪我はないようだ。

 その様子を確認し、俺はほっと息を吐く。それから、仲間達へと目線を移した。


「クリスもシャルも、無事か?」


 二人の方にも、それなりの数の襲撃者が向かっていた。時折、無事を確認していたためそこまで心配はしていないが、二人は大丈夫だっただろうか。


「もちろん! まだまだ余裕だよ!」


 拳を握り、元気よく答えたのはクリスティーネだ。多少汗を掻いているくらいで、怪我をした様子はない。その言葉通り、まだまだ余裕があるようだ。


「はい、なんとか」


 眉尻を下げながら答えたのはシャルロットである。シャルロットは俺やクリスティーネの影から魔術で援護をしてくれていた。クリスティーネ同様に怪我はないようだが、まだこういった戦闘には慣れていないのだろう。少し疲れが見えた。

 俺は三人の無事を確かめると、アンネマリーを連れてユリウスの元へと向かう。今後どうするかについては、俺達の雇い主であり屋敷の主でもあるユリウスの指示に従うのが良いだろう。


「アンナ!」


「お母様!」


 ユリウス達の傍まで辿り着いたところで、アンネマリーが母親のハイデマリーの元へと駆け寄った。そのまま二人して抱き合い、ハイデマリーはアンネマリーの頭を優しく撫でるのだった。

 ユリウス達は俺達から少し離れた屋敷の傍にいたのだが、執事であるセバスチャンを始めとしたユリウス家の私兵達に守られて無事だったようだ。私兵の中には怪我人も少々出たようだが、ユリウスやハイデマリー、セバスチャンには怪我一つ見当たらない。


 ユリウス家の私兵達は、手分けして怪我人に手を貸したり、生き残った襲撃者の捕縛をしている。俺達もそちらに手を貸したり、会場の片づけを手伝うなど出来ることがありそうだ。

 そう思っていると、アンネマリーの無事を確かめていたユリウスがこちらへと歩み寄ってきた。


「皆さん、娘を守ってくれてありがとうございます」


「構わない、そのためにここにいるんだからな。それで、どうすればいいだろうか? 当のオスヴァルトは逃げてしまったが……」


 襲撃者達に手間取ったため、オスヴァルト達が逃げ出してからそれなりの時間が経過してしまっている。今から屋敷の外へと向かったところで、その足取りを追うことはできないだろう。

 唯一の手掛かりとしてはフィリーネの存在だ。上手くオスヴァルト達の潜伏先を割り出し、無事にここへと戻ってきてくれれば良いのだが。

 そう考える俺の前で、ユリウスは一つ頷きを見せた。


「そのことだが、ジークハルト殿とクリスティーネ殿には、負傷者の治療を頼めるだろうか?」


「あぁ、それもそうだな」


 幸いにも重症者はいないようだが、襲撃者達の手によって少なくない数の負傷者が出ている。俺とクリスティーネを負傷者の治療に充てるのは妥当な判断だろう。

 早速手分けして事に当たろうと考える俺の隣で、シャルロットが片手を上げた。


「あ、あの、私は何をすれば」


 シャルロットは治癒術が使えないために、手持無沙汰となってしまう。俺達に頼まれたのはパーティでの護衛なので、今は何もしなくとも構わないのだが、それではシャルロットの気が済まないのだろう。

 俺としても、この状況で手伝えることがあれば手伝いたいと思う。それはオスヴァルトへの対処も含めてだ。


「そうだな……シャルロット殿が良ければ、会場の片づけを頼めないだろうか」


「わかりました!」


 ユリウスから役割を貰い、シャルロットは会場の片づけを行っているユリウス家の者達の元へと駆けて行った。

 俺とクリスティーネは、ユリウス達から少し離れた場所で負傷者の治療だ。負傷したユリウス家の私兵や招待客の誘導は、ユリウス家の者達が担ってくれている。


 それからしばらくして、負傷者全員の治療が完了した。その頃になると、会場の大まかな片付けも終わったようだ。今はメイド達の手により、細かな破片やゴミなどが取り除かれている。

 クリスティーネとシャルロットは、ドレス姿からいつもの冒険者衣装へと戻っていた。パーティはひとまず終了したし、これからどう動くことになるのかはまだわからない。出来るだけ、動きやすい恰好でいるべきだろう。


「何かわかったことは?」


 俺はユリウスの元へと歩み寄りながら話しかけた。ユリウスの前には、縄で縛られた襲撃者達が並べられている。先の戦闘で生き残った者達だ。

 俺達が負傷者の治療をしている間、ユリウスは生き残った襲撃者達から情報を聞き出していた。オスヴァルトの手の者であるなら、逃げたオスヴァルトの行先もわかるのではないだろうか。

 そんな期待も込めて声を掛けたのだが、ユリウスは首を横に振る。


「残念ながら、オスヴァルトの行先に心当たりはないそうだ」


「そうか……」


 これで、最大の手掛かりがなくなった。

 一応、ユリウス家の私兵が街中を捜索しているのだそうだが、今のところオスヴァルトの居場所を突き止めたという報告は上がっていない。もしや、街の外へ逃げてしまったのではないだろうか。もしそうだとすると、追跡はなかなかに困難である。

 後は、オスヴァルトを追って出ていったフィリーネが、何らかの手掛かりを持って戻ってくることを期待するくらいだろうか。今のところたよりはないが、あの白翼の少女が無事だと良いのだが。


 俺達がこれからの行動について話し合っていると、セバスチャンが走り寄ってきた。その様子はいつもの紳士然としたものではなく、やや焦りを含んでいた。

 そうして、ユリウスの前まで来たかと思うと、胸元に片手を当てて口を開くのだった。


「旦那様、緊急事態です!」

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