91話 貴族令嬢の誕生日パーティ4
大きな破裂音が辺りへと響き渡る。オスヴァルトが地面へと叩きつけたのは、大きな音を立てる魔術具か何かだろうか。
それ以外に炎や衝撃が発生するわけではないのを見るに、攻撃用の魔術具ではないのだろう。それでは、オスヴァルトは何のためにそんな魔術具を使用したのだろうか。
その理由は、すぐに判明することとなった。ユリウス家の門を破り、黒衣に身を包んだ男達が庭へと踏み込んできた。
その男達は例外なく、鼻から下を布で隠している。丁度、ユリウスの護衛依頼でオストベルクへと向かっていた際に出会った、襲撃者達と同じような格好だ。
突如として現れた男達は、手に手に剣を携えている。それに対するはユリウス家の私兵達だ。招待客達を守るべき、男達の前へと立ち塞がる。
俺達の元へも、黒衣の男達が駆け寄ってきた。
「アンナ! 俺の傍から離れるなよ!」
「は、はい!」
俺はアンネマリーへと声を掛ける。今最も優先すべきは、アンネマリー達の身の安全である。
後ろ目で確認すれば、ユリウスとハイデマリーはセバスチャンを始めとしたユリウス家の者達に守られているようだ。あちらは心配しなくても問題ないだろう。
俺は襲い掛かる男の剣を弾くと、袈裟懸けに斬り返す。右手側では同じようにクリスティーネが襲撃者に向かい合い、シャルロットはアンネマリーの傍で剣を片手に魔術で援護をする形だ。
出来ればこの場でオスヴァルトを捕らえたいのだが、当のオスヴァルトはローブの女と共にじりじりと後退している。このまま、この場を離脱する腹積もりのようだ。
俺はアンネマリーを守るためにもこの場を動くことが出来ない。この場を後にするオスヴァルトを見送ることしかできず歯噛みしていると、一つの影が飛びだした。
フィリーネだ。
フィリーネが両の剣を構え、オスヴァルトへと襲い掛かった。
「逃がさない、の!」
上段から振るわれた体重の乗った一撃を、オスヴァルトは己の剣で受け止める。力任せに剣を横薙ぎに振るい、フィリーネは堪らず距離を取る。
「邪魔だ、『呪刻剣』!」
オスヴァルトの振るった長剣は、フィリーネの二刀に塞がれる。しかし、剣を止められたオスヴァルトはにやりと唇の端を持ち上げた。
オスヴァルトの剣の刀身から、黒い霧がぶわりと噴き出した。
霧は意思を持っているかのように蠢くと、フィリーネへと襲い掛かった。
フィリーネは剣を振り払うと、霧から逃れるようにステップを踏み後退する。しかし、黒い霧は尚もフィリーネへと追い縋った。
霧の速度は速く、瞬く間のうちにフィリーネの体を突き抜けた。その途端、フィリーネは崩れ落ちるようにその場に膝を付いた。
呼吸は浅く、剣から片手を放して苦しむように胸元を抑える。
今のが、話に聞く『呪術』と言うものだろう。フィリーネやハイデマリーから聞いた黒い霧と言う特徴と一致している。
範囲も広く、速度も決して遅くはないという厄介な攻撃だ。至近距離で対峙するとなると、俺も苦戦を強いられるだろう。
膝をつくフィリーネの前で、オスヴァルトはどこか訝しむような表情を浮かべた。
「むっ? この手応え……貴様、さては既にその身に呪いを受けているな?」
「何っ? どういうことだ?」
聞き捨てならない台詞だ。少なくとも、フィリーネ本人からはそのような話を聞いていない。
だが、と俺はこれまでのフィリーネの様子を思い出す。
継続する体調不良。
怪我もしていないのに包帯を巻いた体。
呪いを受けた身は体を重く感じ、痛みに蝕まれるという。フィリーネは度々体調不良を訴えていた。それが呪いに起因するものであったのならば、治らないのも納得のいく話だ。
体に巻いた包帯は、呪術によって付けられた黒い痣を隠すためのものだろう。
ずっと呪いを受けていたのか。
そしてそれをずっと隠していたというのか。
何故呪いを受けていたのを隠していたのかは、本人に聞く意外には知る方法がない。
しかし、今はその時間がない。
「まぁいい。その痛みすら、感じるのはこれで最後だ!」
オスヴァルトが長剣を振り上げる。
フィリーネは痛みのためか、その場から立ち上がることすら出来ない。
「くっ、どけっ!」
俺は手近に迫る襲撃者の胴体を蹴り飛ばし、オスヴァルトへと左手を翳す。
「『石の槍』!『炎の槍』!」
俺は立て続けに初級魔術を打ち放つ。放たれた魔術は角度を変えてオスヴァルトへと迫った。
「むっ?!」
オスヴァルトがそのまま剣を振り下ろせば、魔術を受けながらもフィリーネへ致命傷を負わせることには成功しただろう。
だが、オスヴァルトは魔術への対処を選択した。
己の長剣の軌道を変え、迫る岩塊を弾き飛ばす。
さらに、フィリーネの体を回り込むようにして飛来する炎弾を、後方へと飛び退ることで回避する。
オスヴァルトの脚を狙って放たれた炎弾は地面へと着弾し、小さな焦げ跡を作った。
魔術は躱されてしまったが、フィリーネから距離を取らせることには成功した。その間に、フィリーネは足を震わせながらもその場に立ち上がる。
「オスヴァルト殿、これ以上は無理ですよ」
「わかっている……仕方ない、最終手段だ!」
オスヴァルトは踵を返すと、ローブの女と共に門の方へと走り始めた。追いかけたいが、俺達の周囲にはまだ襲撃者の男達がいる。
俺はアンネマリーの元を離れられず、オスヴァルト達が門の向こうへと消えていくのをただ見送ることしかできなかった。
「フィナ、待て!」
唯一人、それを追ったのはフィリーネだ。その背から白翼を露わにし、猛然と門へと駆け出した。まだ呪いの影響があるのか、その動きは普段よりもどこかぎこちないものだ。
一人で行かせるのは危険だが、かと言って追いかけることもできない。俺が周囲の襲撃者の対処をしているうちに、フィリーネの姿は門の向こうへと消えていった。
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