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85話 護衛依頼と襲撃者8

「アンナさんの、誕生日パーティ……だって?」


 言葉を繰り返しただけの俺の問いに、ユリウスは深い頷きを以て答える。

 いまいち、話の流れが見えない。俺達に頼みたいこと、依頼があるということだったが、何故アンナさんの誕生日パーティに出席することになるのだろうか。

 疑問に思う俺の前で、ユリウスはさらに口を開く。


「より正確に言うと、パーティでの護衛をしてほしい」


「なるほど、護衛依頼か」


 それで合点がいった。護衛依頼であれば、立派な依頼の名目である。俺達、冒険者に依頼をするというのも、自然な話だろう。

 もちろんユリウス家の私兵などもいるのだろうが、それとは別にパーティに護衛を付けるなど、なかなか物々しい雰囲気である。だが、ユリウスがそう考えるのも無理はない。理由はやはり――


「オスヴァルトか」


「そうだ。うちを狙っている者達が、昨日の襲撃で諦めるとは思えない」


 どうやら、俺とユリウスの考えは一致しているようだ。ユリウス達を狙っている者がいることは間違いなく、呪術と言う希少な力を持つオスヴァルトと言う男が首謀者である。

 昨日の襲撃者達を口封じのために呪術で殺したことから、襲撃が失敗したことは向こうもわかっているのだろう。これでオスヴァルトが諦めてくれればいいが、おそらくはそうではない。第二、第三の手を繰り出してくることだろう。


「それで、誕生日パーティを狙ってくると?」


 オスヴァルトが、わざわざその日を選ぶだろうか。俺としては、通常よりも警備が強化され、侵入し辛い印象を受ける。そんな特別な日よりも、普通の日を選んだ方が成功率は高いのではないだろうか。

 そんな風に考えていると、ユリウスが注目を集めるように右手の指を三本程立てて見せた。


「パーティが狙われるのではないかと考える理由が、三つほどある。一つは、私が確実に屋敷にいることだ」


 オストベルクの領主であるユリウスは、当然のことながらそのことに関連した仕事をこなしている。大半は屋敷内にいるユリウスだが、外出することも少なくないという。

 標的が屋敷にいないにもかかわらず襲撃をかけ、空振りに終わるのは向こうも避けたいことだろう。それを思えば、今回の王都からオストベルクへの移動中というのは、向こうにとっては絶好の機会であったわけだ。


「二つ目は、パーティが屋敷の庭で行われることだ」


 ユリウス邸の庭は、広大な敷地面積を誇っている。そこにテーブルを設置し、立食形式のパーティを行う予定だという。

 必然的に、襲撃者から狙われる可能性が格段に上がることになる。屋敷の中であればオスヴァルトが侵入したとしても、どこかで屋敷内に不審者がいるとユリウス家の者に見つかるはずだ。そうなれば私兵達が集まり、侵入は失敗に終わる。

 だが、屋敷の庭で開催するのであれば見つかる前に、標的へと近づくことも可能かもしれない。


「そして三つ目だが、何と言っても招待客の存在だな」


 パーティには当然、部外者を招くこととなる。それも、それなりの人数にはなるようだ。そうなれば当然、人混みに不審者が紛れ込んだとしても見つけるのは少々難しくなる。ユリウスは、オスヴァルトが招待客を隠れ蓑としてパーティに潜り込むことを危険視しているようだ。

 もちろん、オスヴァルトは現れず、パーティはつつがなく行われるという可能性も十分に考えられる。かといって、対策を疎かにするわけにもいかないだろう。


「そこで、君達には招待客を装って、密かに私達の警護を頼みたい」


 ユリウスが言うには、俺達には普段の冒険者の格好ではなく、正装をしてパーティの出席者の振りをしてほしいそうだ。もちろん、パーティ会場には私兵を配置するらしいが、出席者の中に俺達冒険者が紛れ込んでいれば、より安全と言うわけである。


「この依頼を受けてくれれば、パーティ当日までは皆さんを我が家で持て成す用意がある。依頼を受けなかった場合でも、今夜くらいは泊まって行ってくれ」


 つまり、宿に泊まる必要がないということだ。宿代が浮くのは、地味に助かる。宿に泊まるよりもユリウス邸でお世話になる方が寝床も食事も上等なので、その点を取ってもうれしい提案である。

 ユリウス側にとっても、俺達が屋敷に滞在するうちは警備が強化されることになるわけで、あちらにも利点があるのだろう。


「もちろん、パーティ当日は周囲に気を配ってくれれば、ある程度自由にしてくれていい。料理にも力を入れているので、是非楽しんでくれ」


 ユリウスの説明に、俺はほうほうと頷いて見せる。宿の心配はなく、報酬もあり、上手い飯もつくとなれば受けない理由はないだろう。

 ただ、俺の独断で決めるわけにはいかない。二人も依頼を受けるのに賛成かどうか、聞いておく必要はあるだろう。


「クリス、シャル、俺は依頼を受けたいと思うんだが、二人は――」


「受けよう、ジーク!」


 隣へと顔を向けたところで、やや前のめりになったクリスティーネと目が合った。その瞳は、何やら期待に輝いている。

 そんなにこの依頼が気に入ったのだろうか。いや、違う。クリスティーネとはそれなりの付き合いになってきた。そのため、クリスティーネの考えがそれなりにわかるようになってきている。

 このクリスティーネの目は、食事を前にした時のそれである。それも、とびきりのご馳走を前にした時のものだ。おそらく、前回の護衛依頼で泊まった際にユリウス家で振舞われた食事と、パーティの料理に心惹かれているのだろう。


 俺ははっとしてユリウスへと視線を移した。もしや、ユリウスはこのクリスティーネの性格を見抜いた上で、泊まることやパーティの料理について説明したのだろうか。この短い間にクリスティーネの性格を見抜き、そこまで考えて説明していたとすると、ユリウスはなかなかの策士である。

 ひとまず、クリスティーネの意向は確認できた。残るはシャルロットである。


「クリスは賛成と……シャルも、それでいいか?」


「えっと、ジークさんがそれでいいなら」


 シャルロットはこちらを見上げ、頷きながら口にする。どうやらシャルロットは、俺の意見に従うらしい。まぁ、シャルロットはまだ冒険者になって日が浅い。依頼の判断基準もまだあやふやだろう。もうしばらくは、俺がしっかりと判断すればいい。

 俺は最後の一人、フィリーネへと視線を移す。厳密にはフィリーネは俺達のパーティメンバーではないのだが、同じ冒険者ではある。フィリーネはどうするのだろうか。いや、そもそもこの依頼の対象に、フィリーネは入っているのだろうか。


「ちなみにユリウスさん、この依頼はフィリーネも対象に入っているのか?」


 そう問えば、ユリウスからは首肯が返る。


「もちろんだ。フィリーネ殿もよければ、護衛依頼を受けてほしい」


「と言うことらしいが、フィリーネはどうする?」


 俺の問いに、紅茶のカップから顔を上げたフィリーネの目が俺を捉える。いつもと変わらず、あまり表情の読み取れない眠たそうな顔だ。

 個人的な意見を言わせてもらえれば、是非フィリーネにも受けてもらいたいところだ。そうすれば、単純に人手が増えるので依頼の成功率が上がる。第一、オスヴァルトの顔を知っているのがフィリーネだけなので、そのフィリーネがいるのといないのとでは大違いだろう。

 そんな思いで見ていれば、フィリーネは二、三度瞬きの後、首をカクンと前に倒した。


「ん、受けるの。その方が、オスヴァルトを捕まえられる確率は高そうなの」


「あぁ、そう言えばフィリーネはオスヴァルトを探しているんだったか」


 前回、オストベルクのユリウス邸に来た際に聞いた話では、フィリーネはオスヴァルトを追って来たと言っていた。未だ詳しい事情は聴いていないが、この広い街でオスヴァルトを探し出すには、オスヴァルトが狙っているというユリウス家に係わりを持つのが早いだろう。


「では、フィリーネも含めた四人で依頼を受けさせてもらう」


「よし、交渉成立だ。では皆さん、よろしく頼む」


 こうして俺達は、三日後に開催されるというアンネマリーの誕生日パーティの護衛依頼を引き受けることとなった。

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