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84話 護衛依頼と襲撃者7

「ようやく帰ってこれたか……ここまで来れば、一安心だろう」


 そう言って、中年の男は大きく背伸びをした。今回俺達が受注した護衛依頼の護衛対象、ユリウスである。

 ユリウスは凝り固まった体を解すように、腕を曲げ伸ばしし、首をぐるりと一周させた。連日の馬車移動に、体が固まったのだろう。俺自身、腰に手を当てて大きく背筋を伸ばしている。


 俺達が今いるのは、オストベルクにあるユリウスの屋敷である。旅の二日目にオスヴァルトの関係者と思わしき男達に襲撃を受けたが、その後再び襲われるようなことはなく、目的地であるオストベルクまでは無事に辿り着くことが出来た。

 これで、ひとまず護衛依頼については完遂である。ただ、何やらユリウスがまだ話があるということで、俺達はこの後、屋敷の中へと案内される予定である。


 それから馬車をユリウス家の者に預け、セバスチャンの案内で屋敷の中を歩く。通された先は、前回アンネマリーの護衛後にも足を運んだ部屋だった。

 セバスチャンに勧められるままに、俺達は高級そうなソファーへと腰を下ろす。そうしてしばらく待てば、メイドの手により紅茶が振舞われた。


「さて、ひとまずは皆さん、ご苦労だった。君達の尽力のおかげで、私はこうして怪我一つなくオストベルクへと帰ってこられたよ」


 そう言って、ユリウスはやや大袈裟な仕草で両腕を広げて見せた。それに対し、俺は一つ頷きを返す。


「ユリウスさんに怪我がなくて何よりだ。俺達も、護衛をした甲斐がある」


 本当に、護衛対象に怪我一つなくて良かった。これで怪我などさせていたら、何のために護衛として雇われたのかわからない。冒険者としての面目躍如である。


「本当に、ジークハルト殿達が来てくれて助かったよ。皆さんを連れてきてくれたセバスにも感謝しないとな」


「旦那様、ジークハルト様達を護衛として雇うよう進言したのはお嬢様なので、是非お嬢様にも誉め言葉を掛けてあげてください」


「おっと、そうだったな。後で必ず伝えよう」


 ユリウスとセバスチャンの会話を尻目に、俺は襲撃の時のことを振り返る。

 結果的に死人は出なかったものの、結構ギリギリではあった。誰か一人でも欠けていたなら、襲撃者の刃がユリウスまで届いていたかもしれない。

 それを思えば、俺達が護衛について正解だったと言えるだろう。俺達が護衛として雇われ王都に戻らなかったら、ユリウスの連れる私兵は四名ではなく二名だったはずだ。

 その場合でも、おそらくユリウスは冒険者を護衛に雇っただろう。ただその場合、都合よく俺達以上の冒険者を雇えたかは謎である。


 自慢ではないが、俺達はそこそこの冒険者だと思う。何と言っても、俺とクリスティーネ、それに今回はフィリーネもだが、剣術での近距離戦と魔術での遠距離戦の両方が可能なのが大きかった。

 一般的な冒険者パーティは、前衛と後衛の役割がはっきりと分かれている。そのあたりを考えてバランスよくパーティを組むのだが、あの人数を前衛数人だけでは受け持てなかっただろう。後衛の元まで襲撃者が辿り着いた可能性は高く、犠牲が出てもおかしくはなかった。


「フィー、あんまり役に立たなかった。不甲斐ないの」


 声の方向へと顔を向ければ、少し落ち込んだ様子のフィリーネがいた。どうやらフィリーネは、俺やクリスティーネと比較してあまり戦力にならなかったと思っているらしい。

 確かに、俺が馬車の方の助力に向かっている間に、フィリーネが相手をしていた男達を倒したのはフィリーネの助けがあっての事だった。

 それでも、俺はフィリーネが役立たずだったなどとは思っていない。むしろ、フィリーネがいてくれたからこそ、犠牲が出なかったと思っている。


「そんなことないさ。魔術で一人倒していたし、その後も二人ほど引き付けてくれただろう。それだけでも十分だ」


 フィリーネがいなければ、その分俺達の負担が増えていたのだ。そのことを思えば、フィリーネが同行してくれて本当に助かった。一人減るだけでも、俺達に出る被害はもっと増えていたことだろう。


「ねぇジーク、私は、私は?」


 声を掛けてきたのはクリスティーネだ。何かを期待するように、その金の瞳を輝かせている。


「クリスの働きは十分すぎるほどだろう。これからも頼りにしてるぞ」


「えへへ、頼られてあげる!」


 俺の言葉に、クリスティーネはやや自慢げに胸を張って見せた。

 実際、クリスティーネは単独で四人の襲撃者を打ち倒し、その後でフィリーネの助力までしているのだ。その実力には文句のつけようがない。これからも俺の相棒として、何度も力を借りることだろう。

 俺はさらに、シャルロットへと視線を移した。二人に言及したのなら、シャルロットにも声を掛けた方が良いだろう。当日の夜にも話をしたが、信頼は何度口にしても減るようなものではない。


「もちろん、シャルも良くやったぞ。ユリウスさんに怪我がなかったのは、シャルの働きの結果だ」


「えっと……ありがとう、ございます」


 シャルロットは柔らかい微笑みを見せた。あの夜は少し、襲撃者を傷つけたことに思い悩んでいた様子だったが、時間が経過したことで落ち着いたようだ。

 人を傷つけることに慣れろとは言わないが、襲撃者を返り討ちにしても思い悩むことがないよう、今後もフォローをしてやるのがいいだろう。


「さて、ジークハルト殿。君達の腕を見込んで、一つ頼みがある」


「頼み?」


 俺達の話が一段落したところで、俺の正面に座るユリウスがテーブルの上で両手を組み、真剣な眼差しを向けてきた。どうやら本題に入るようだと、俺も背筋を伸ばす。


「あぁ、もちろんそれ相応の報酬は出すつもりだから、安心してくれたまえ」


「つまり、依頼と言うことだな。それなら、内容次第で受けることはできる」


 明日からも、金を稼ぐために冒険者ギルドで依頼を探す予定だったのだ。ここでユリウスから依頼を受けられるのであれば、わざわざ依頼を探す手間が省けるというものである。

 しかし、頼みたい依頼と言うのは何だろうか。アンネマリー、ユリウスの護衛依頼と来て、また護衛依頼と言うことはさすがにないだろう。いや、護衛依頼を続けて受けたことで、却って次も護衛依頼と言う可能性も考えられるだろうか。


 もしそうだとすると、少し考えものではある。さすがに、移動ばかりの日々には飽きが来ているところだ。訓練だってしばらくできていないし、つい昨日に襲撃者と戦ったところではあるが、魔物相手の戦いの勘も鈍らせるわけにはいかない。

 今回のような移動中の護衛依頼でなければいいな、などと考えていた俺の予想は、半分ほど当たることとなる。


「君達には、アンナの誕生日パーティに出席してほしいんだ」

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