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79話 護衛依頼と襲撃者2

 オストベルクから王都へと帰り着いてから二日後、俺達は再び王都からオストベルクへと続く街道の真っ只中にいた。貴族であるユリウスをオストベルクへと護衛する、その道中である。

 依頼を受けた冒険者は俺の他にクリスティーネ、シャルロット、それにフィリーネの四人だ。これに加えて護衛対象であるユリウス、馬車の御者を務めるセバスチャン、その他にユリウス家の私兵が四人の計十名での旅となっている。


 元々ユリウスは新たに雇う冒険者と私兵を二名連れての旅を予定していた。そこにセバスチャンと俺達と共に王都へと戻った私兵が二名加わった形だ。その結果、馬車の両脇を馬に乗った私兵が二名ずつ固めることとなったため、前回よりも少々物々しい見た目である。

 そうして王都を発ったのが今朝の事で、今は夕食の時間である。見張りをユリウス家の私兵に任せ、主な料理をセバスチャンが担当し、俺が少々準備を手伝った形だ。一通りの食事は終わり、今は食後の茶を頂いている。暖かい茶の入った杯は、少し気温が下がり冷えた体へと熱を分け与えてくれていた。


 目線を前へと向ければ、雇い主であるユリウスがセバスチャンと道程について話しているのが目に入る。基本的に、旅の予定はセバスチャンが決めているために俺達は馬車に乗っているだけである。一応、アンネマリーを護衛した時と同様に馬車の後部に腰掛けて周囲の警戒などしているが、今のところ危険なものは見かけていない。


 そこから左へと視線を移せば、シャルロットの姿が目に入った。今は手に持つ杯へと息を吹きかけ、茶を冷ましているところのようだ。俺にとっては丁度良い温度だったのだが、シャルロットにとっては少々熱かったらしい。

 日中は馬車の中にいたシャルロットだったが、外に出ている間は周囲をきょろきょろと見渡し、少々落ち着かない様子だった。ユリウスが狙われていることから、道中がもっとも危険だと伝えたためだろう。


 実際、オスヴァルトがユリウスの事を狙っているのであれば、オストベルクへと向かう途中に襲撃するだろうと考えている。目撃者は限られ、襲撃のしやすさを考えても街中よりも遥かに簡単なのだ、狙わない手はないだろう。

 そう言った話を告げたがために、シャルロットは周囲を気にしているようだ。少し気にし過ぎている様子だが、護衛任務中であるために気を抜いてもらうというのも困る。オストベルクへ着くまではこのまま、周りに気を付けてもらうのが本人のためにも良いだろう。


 さらに右手へと視線を向ければ、もう一人のパーティメンバーであるクリスティーネの姿があった。クリスティーネは左手に茶の入った杯を持ち、右手には干し肉を握っている。いつものように美味しそうに干し肉を齧る姿からは、シャルロットとは反対に一切の緊張が感じられなかった。


「クリスは、いつも通りだな」


「ん? 何が?」


 声を掛ければ、俺の声に気が付いたクリスティーネがこちらへと振り返る。そうして小首を傾げて見せれば、長い銀髪がさらりと肩から滑り落ちた。

 そのまま、もごもごと口を動かしていたかと思うと、じっと右手に持つ干し肉へと視線を落とす。そのまま少し間を開けると「ん?」と言って干し肉を持つ右手をこちらへと突き出してきた。


 その様子からは、「ジークも食べる?」と言う声が聞こえてくるようだった。俺はクリスティーネの手から干し肉を一つ手に取ると、口元へと運んで小さく噛み千切る。

 保存のために塩漬けされた肉の塊は、塩分が多く塩辛い。俺は干し肉を飲み下すと、口の中をすすぐように茶を口に付けた。


「それで、どうしたの? ジークもご飯、足りなかった?」


「いや、クリスはいつも通りだなって思ってな」


 そう告げれば、クリスティーネは再び不思議そうに首を傾げるのだった。それから、何か思いついたようにシャルロットへと視線を移すと、納得したように一つ頷きを見せる。


「そっか、シャルちゃん、すっごく意識しちゃってるもんね」


 口元へと干し肉を持った片手を当てて、クリスティーネがそう告げてくる。クリスティーネの目から見ても、シャルロットの警戒っぷりは明らかなようだ。

 それからクリスティーネはまた一つ、右手に持つ干し肉を口へ入れる。そうしてしばらくもごもごと口元を動かし、再び口を開いた。


「ん~、私も警戒してないわけじゃないんだよ? これでも、目と耳はいいんだから!」


 そう言ってこちらへと顔を向け、干し肉を持った方の手の小指で己の右目を指し示した。実際、半龍族であるクリスティーネの感覚は、俺達人族のものよりもいくらか優れているようである。

 俺達へと近づく不審な影でもあれば、クリスティーネがいち早く気付いてくれることだろう。もっとも、日中は馬車の中にいるために、その機会はないのだが。

 そのいつもと変わらない雰囲気に、俺は小さく苦笑を返した。


「わかってるさ、頼りにしてるぞ。ただ、クリスはこういう依頼は慣れてないだろうから、緊張してるかと思ったんだがな」


「そうだね、護衛依頼なんて初めて……あっ、アンナちゃんを送ったのが初めてだから、今回が二回目だけど。今のところ、危ないこととかなかったからかな?」


 確かにクリスティーネの言う通り、護衛依頼中に危険な目には遭遇していない。精々、フィリーネに絡んでいた盗賊に出会ったくらいだが、その盗賊たちにしても俺とクリスティーネが牽制で放った魔術を一目見るや否や一目散に逃げていた。

 魔物などに遭遇しなければ、護衛依頼中のほどんとは穏やかな時間である。ずっと緊張感を維持しろと言うのも無理な話だろう。


「まぁ、自然体でいるのは悪いことじゃない。何かあったら声を掛けるから、よろしく頼むぞ」


「任せて! すぐに行くから!」


「あぁ、頼りにしてるぞ」


 魔物などが近くに来た場合、ユリウス家の私兵達はユリウスの身を守るために馬車の付近を固めることとなる。シャルロットに接近戦はまだ早いので、俺とクリスティーネで対応することになるのだ。

 敵の数と体調にもよるが、フィリーネにも手を貸してもらう事にもなるかもしれない。それでも、合わせて三人だ。一人一人の働きは大きいのである。

 それから、明日も早くに出発するために俺達は各々休むことになった。ユリウス家の私兵が二名追加されたことで、見張りの人数にも余裕がある。俺は最後の見張りに決まると、毛布に包まり横になるのだった。

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