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74話 依頼の完了と新たな依頼2

 紅茶に口を付け喉を潤わせながら、俺は横目で皆の反応を窺った。

 俺と同じように、緊張しているように見えるのはシャルロットだ。その小柄な体で、ピンと背筋を伸ばしている。太ももの上で両の拳を握り、少し肩に力が入っているようだ。間違いなく、俺達の中で一番緊張しているだろう。先程から、ほとんど茶菓子にも手を付けていないのではないだろうか。


 その反面、緊張していなさそうなのはクリスティーネとフィリーネの二人である。クリスティーネは、先程から黙々と茶菓子のクッキーに手を伸ばしている。余程気に入ったのか、次から次へと口に運んでいた。その様子からは、欠片も緊張と言うものが見られない。出来れば、もう少しくらいは緊張感を持ってほしいところだ。

 もう一人、フィリーネは相変わらずの様子だ。眠たげな眼をしたまま、ぼんやりと紅茶の入ったカップに口を付けている。あまりそんな風には見えないが、意外と貴族相手の依頼などを受けた経験でもあるのだろうか。


「皆さん、この度はアンナの護衛を引き受けていただきありがとうございました」


「いえ、仕事ですから」


 女性の言葉に慌てて正面を向き、笑顔を取り繕う。実際、俺達は仕事として依頼を引き受けているため、殊更に礼を言われる必要はない。こんな風に茶を頂いているのだって、アンネマリーの好意によるものである。

 目の前の女性はアンネマリーの母親のようだが、ここで確認するのは自然なことだろう。適当に会話を繋ぐためにも、俺は口を開くことにした。


「えぇと、あなたはユリウスさんの奥様で、アンナさんの母親と言うことで間違いないでしょうか?」


 そう問えば、目の前の女性はおっとりと片手を頬へと当てた。


「あら、私としたことが、自己紹介がまだでしたね。その通りです、アンナの母親のハイデマリーと申します」


 そう言って軽く頭を下げるのに対し、俺も慌てて会釈を返す。

 相手が名乗った以上、こちらからも名乗るのが道理だろう。俺は片手を胸へと添えた。


「冒険者のジークハルトと申します。こちらは同じく冒険者のクリスティーネとシャルロット……と、フィリーネです」


 俺は少し迷ったが、フィリーネまでを紹介に含めた。フィリーネはクリスティーネとシャルロットとは異なり、俺達とパーティを組んでいるわけではなく、完全に成り行きで行動を共にしているだけだが、少し説明が面倒だ。フィリーネも冒険者なのだし、この説明で間違ってはいないだろう。

 俺の説明にシャルロットはおずおずと緊張した様子で、クリスティーネとフィリーネは自然と会釈を見せていた。


 俺達の様子を見ていたハイデマリーは一つ頷きを見せると、傍らのアンネマリーへと視線を移した。


「皆さんのおかげで、アンナも無事、こうして帰って来ることが出来ました」


 そう言うハイデマリーの目には慈愛の色が見て取れた。その様子からも、娘であるアンネマリーの事を愛しているのだということがよくわかる。言葉通り、娘の帰還を心底喜んでいる様子だ。

 その様子を見たクリスティーネが俺へと顔を向け、軽く小首を傾げて見せた。


「でも、何もなかったよね、ジーク?」


「まぁ、そうだな」


 実際には盗賊に襲われているフィリーネに遭遇したのだが、それも結局はほとんど争うことなどなかった。結果だけを見れば、何もなかったと言ってもいいだろう。少なくとも、アンネマリーに危険が及ぶようなことは何もなかった。


「安心してください、ハイデマリーさん。今回は何事もありませんでしたし、護衛をつけるといっても、何かあることなど滅多にありませんので」


 俺は殊更に笑顔を作ってそう告げた。

 実際、街から街へと移動するにあたって、魔物や盗賊に遭遇するような事態は稀である。魔物は街道付近で見かけることなどほとんどないし、盗賊だってわざわざ護衛の付いている馬車を襲うのはリスクがある。少なくとも今回の旅で襲われるようなことはなかったが、仮に盗賊がいたとしても馬車の脇を固める私兵の姿を見て諦めていたことだろう。


 もちろん、かと言って護衛を雇わなければ盗賊に襲われる可能性は上がるが、それでも絶対に遭遇するというわけではない。定期的に騎士団が領地の見回りをしているため、街道から外れなければ一定の安全性は確保されているのだ。そうでなければ、街から街へと移動する人の数は、今よりもずっと少ないだろう。

 しかし、ハイデマリーは俺の言葉に困ったような顔を浮かべた。


「もちろん、平時であればそうなのでしょうが、今は少々時期が悪いのです」


 何かあっただろうかと記憶を探るが、思い当たる節はない。魔物が人の領域にまで溢れ出ているとか、凶悪な盗賊団が現れたなどの事態があれば、間違いなく冒険者ギルドで小耳に挟んでいるはずだ。

 そうでないということは、ここオストベルク近辺での問題か、はたまた別に厄介な事情でも抱えているのだろうか。聞いてみたい気もするが、あまりこちらからズカズカと聞くことも憚られる。結果として、俺は紅茶に口を付けることで濁すのだった。

 そんな風にしていると、アンネマリーが首を傾げてハイデマリーへと顔を向けた。


「お母様、何かありましたか?」


 アンネマリーも疑問に思ったのだろう、ハイデマリーへと問いかけていた。どうやら、アンネマリーも知らない事情があるらしい。

 問われたハイデマリーは、困ったような顔のままでアンネマリーへと向き直る。


「実は、我が家は今、狙われているの」


 その言葉を皮切りに、ハイデマリーはユリウス家を取り巻く事情について語り始めた。

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