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7話 冒険者ギルド1

 ネーベンベルクの街に着いた翌朝、宿屋でクリスティーネと朝食を済ませた俺は冒険者ギルドへと足を運んでいた。時間帯は食事時を少し過ぎた頃の、それほど早くもない時間帯だ。

 当初は朝一に冒険者ギルドを訪れようと考えていたのだが、早い時間帯は混雑するためトラブルを避けたのだ。まだこの街の冒険者ギルドは覗いたことがないため、まずは様子を見たほうがいいだろう。街によっては、ガラの悪い冒険者たちの溜まり場になっていることがあるのだから。


 クリスティーネを伴って訪れた冒険者ギルドは、やはりというべきか王都グロースベルクのものと同じくらいに大きかった。木造の建物には二階があり、年季を感じさせるやや古びた外観だ。


「わぁ~、大きな建物だね。ここが冒険者ギルドなの?」


「あぁ、それなりの規模の町にはたいてい、こういった冒険者ギルドがあるぞ。どれどれ、こっちが入口だな」


 一度に大勢が通れるようにという配慮だろう、大きな両開きの扉を開けて中へと進む。扉は俺達を歓迎するように、軽い音を立てて開いた。

 中を見渡せば、正面に依頼の受諾や素材の買取をする際に利用する受付が、左手には依頼を貼り出す掲示板が置かれている。


 さらに右手に目を向ければ、広々とした空間にいくつもテーブルが設置してあり、数人の冒険者達が朝から酒を飲んでいた。酒など飲まずに仕事をしろと言いたくなるが、わざわざ絡む必要はないな。


 右手側を無視し、正面の受付へと足を進める。受付自体は五つほど用意されているのだが、向こうに人が座っているのはそのうち三つだけだ。少し時間を遅らせたおかげか、一つだけ空いている受付があったためそちらへ向かう。

 受付に座っていたのは20歳前後だと思われる、明るい茶髪の綺麗なお姉さんだった。誰もいないにもかかわらず微笑みを浮かべていたのは、プロ意識の表れだろう。


「おはようございます。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 笑顔と聞き取りやすい明るい声での対応に、俺も少し笑みを浮かべる。基本的に、冒険者ギルドの関係者とは良い関係を築いておきたい。


「あぁ、おはよう。この子の冒険者ライセンスを作りたいんだが……」


 そう言って隣へと目を向けたのだが、そこにクリスティーネの姿はない。どこにいったのかと振り返ってみれば、クリスティーネはまだ入口のあたりにいた。

 どうやら冒険者ギルド内が物珍しいのか、きょろきょろと周囲を見渡していたようだ。手招きをすれば、こちらに気付いたクリスティーネが小走りで近寄ってきた。

 そうして駆け寄ってきたクリスティーネは受付へと身を乗り出すように前のめりになる。


「クリスティーネです! 冒険者ライセンスをください!」


 クリスティーネが見るからに元気いっぱいですといった様子で告げる。

 冒険者を希望して冒険者ギルドにやってくる者達の中でも、年若い者達は今のクリスティーネと同じような感じなのだろう。目の前に座る女性は慣れた様子で対応を続ける。


「冒険者ライセンスの発行ですね。それではこちらにお名前の記入をお願いします。文字が書けない場合は代筆させていただきますが……」


「大丈夫!」


 ペンを受け取ったクリスティーネが、用紙にさらさらと名前を記入する。その様子と字の美しさからは、文字を書き慣れている様子が伺えた。


「へぇ、綺麗だな」


「こう見えても、字を書くのは得意なんだよ?」


 少し得意そうな様子でクリスティーネは言う。

 文字の書けない冒険者も結構いるのだが、クリスティーネは何かしらの教育を受けていたのだろう。これなら、冒険者以外になる道もあったと思うのだが。

 ちなみに俺自身はというと、両親の教えで読み書きは一通りできる。


 書き終わったクリスティーネはペンと用紙を受付の女性へと渡す。受け取った女性は一度奥へと引っ込むと、何やら作業をしているようだ。ほどなくして、手に一枚のカードを持って女性が受付へと戻ってきた。


「はい、これがあなたの冒険者ライセンスです。これであなたも晴れて冒険者ですよ」


 女性から冒険者ライセンスを受け取ったクリスティーネは、両手で掲げたカードに目を輝かせていた。

 その気持ちは俺にもわかる。二年前に俺が冒険者になった時も、感動のあまりカードを見つめていたものだった。


「冒険者ライセンスの説明をさせていただきますね。こちらがあなたの名前で、こちらが現在の冒険者ランクになります」


「冒険者ランクって?」


 女性がカードの一部を指差すのに対し、クリスティーネは小首を傾げて見せた。別に俺から説明してもいいのだが、ギルド職員である女性から説明があるだろう。

 クリスティーネのような反応にも慣れているようで、女性は「はい」と言って言葉を続ける。


「冒険者の階級を現した制度です。FランクからAランク、その上がSランクとなっておりまして、ランクの高い依頼はそのランク以上の冒険者でないと受けられません」


 女性の説明をほうほうと聞いていたクリスティーネは、自身の冒険者ライセンスへと視線を落とした。


「私は冒険者になったばかりだから、Fランクになるんだね……そうだ、ジークの冒険者ランクは?」


「俺か? 俺はDランクだな」


 そう言って、取り出した冒険者ライセンスをクリスティーネが見えるようにと差し出す。クリスティーネは自身の冒険者ライセンスと俺の冒険者ライセンスとを交互に見比べた。もっとも、そんなに見比べたところで、大した違いなどないと思うのだが。

 せいぜい、カードに書かれている文字や数字が多少異なるくらいである。これが、AランクやSランクになってくると、冒険者ライセンスの材質自体が異なるらしいのだが、生憎と目にする機会はなかった。


「依頼を達成して実績を積めば冒険者ランクは上がっていきますから、是非上のランクを目指してくださいね」


 女性が笑顔で告げた言葉に、クリスティーネは目を輝かせて何度も頷いた。

 言葉で言うのは簡単だが、実際にはそこまで簡単に冒険者ランクは上がらない。俺のようにDランクあたりまでは割とすぐに上がるのだが、そこから段々と上がりにくくなっていくのだ。


 俺も半年ほど前にDランクに上がったところだが、Cランクに上がるのはまだまだ先の話だろう。

 それからいくつか細かい注意点を話し、冒険者ライセンスに関しての説明は終わった。女性の言葉にしっかりと頷きを返し、クリスティーネは受け取ったライセンスを大事そうに懐へと仕舞っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、登場人物(クリスティーネ)を応援したくなるような、良い場面ですね。これから二人の冒険が始まっていくのが楽しみです。
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