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69話 白翼の少女2

 赤服の少女を襲っていた男達を退けてからしばらく後、俺達は街道のはずれで焚火を囲んで車座になっていた。俺達を見下ろす陽は高い位置にあり、昼食を頂くには丁度良い時間である。

 本日のメニューはパンと簡単なスープだ。食材にはある程度の余裕はあるため、助け出した少女にも振舞われていた。


 俺は改めて、助け出した少女の全体像を眺める。何よりも目を引くのは、やはりその背にある純白の大きな翼だろう。汚れ一つない真っ白な翼は、クリスティーネの持つ龍の翼とは異なり全体を羽に覆われており、触るとさぞふかふかなことだろう。

 助け出した時は、鳥の頭部を模したような模様の入ったフードを目深に被っていたものの、今は取り払われ背中側で小さくなっている。そのため、遠目では確認できなかった少女の表情も今は簡単に確認ができる。


 先程まで男達に襲われていたとは思えないような、緊張感の見えない眠たそうな目をした少女である。いや、顔立ちからして俺とほぼ同年代、クリスティーネよりは僅かに上だと思われるため、少女と言うより女性と言った方が適切かもしれない。身に纏った緋色と同じ色の目を、手元にあるスープの入っていた器へと注いでいた。

 少女の髪は、その身に持つ翼と同じ白色をしている。肩口あたりまで伸ばされており、クリスティーネのようなストレートとも、シャルロットのような緩いウェーブの掛かった髪とも異なる、綿のようにふわふわとした髪だ。


 その身に纏うものは緋色の外套の他は、黒い内服にショートパンツ、赤茶色のロングブーツだ。腰には短めの剣を二振りぶら下げており、ベルトなどの小物や背負い袋などを見る限り、冒険者のように見える。

 少女を助け出してから、未だ事情は聞けていない。休憩ついでに話を聞いてもいいかという俺の提案は、セバスチャンに快く受けてもらえたのだが、まずは腹を満たそうということになったのだ。


 そうして、そろそろ食事にも一段落付いたところで、俺がなんと声を掛けようかと思っていたところ、少女の方から先に口を開いた。


「さっきはフィーのことを助けてくれてありがとう。お陰で川の向こうのご先祖様達と感動の初対面を交わさずに済んだの」


「あ、あぁ、まぁ何だ、無事で何よりだ」


 あまり真剣に聞こえない台詞だが、その様子からは一応感謝をしているのだと窺えた。それから、少女の言った内容をよくよく思い返す。


「えぇと、フィーって言うのは、君の名前でいいのか?」


 そう問えば、少女からは首肯が返った。その動きに合わせ、綿のような白髪がふわふわと揺れる。


「そうなの。フィーの名前はフィリーネ。フィーのことを助けてくれたお兄さんには、特別にフィーの事をフィーちゃんと呼ぶ権利をあげる」


「いや、それは……せめて、フィナとかじゃダメか?」


 さすがに、出会ったばかりの少女の事を可愛らしく「ちゃん」付けで呼ぶのには抵抗がある。愛称で呼ぶにしても、それらしく縮めて呼ぶだけで勘弁してくれないだろうか。

 俺の言葉に少女、フィリーネはわかりやすく唇を尖らせる。


「むぅ、残念。それなら、フィナで勘弁するの。お兄さんには感謝してほしいの」


「あ、あぁ、ありがとう」


 礼を口にしながら、何故俺は礼を言っているのだろうかと頭を捻る。少々、会話のペースをフィリーネに握られてしまっている。

 このままではいけない。なんとなくそう思った俺は、フィリーネへと質問を投げかけた。


「それで、フィナは冒険者で合っているか?」


「そうなの。お兄さんも、私と同じ冒険者?」


 やはり、フィリーネはその見た目通り、冒険者で合っていたようだ。他に仲間はいないようだが、一人で活動する冒険者と言うのも別に珍しいことではない。もちろん、そうなると先程のように一人でいるところを、盗賊などに狙われるような機会も増えるのだが。

 続けて投げられたフィリーネの質問に、俺は一つ頷きを返した。


「あぁ、俺も冒険者だ。と、まだ名乗っていなかったな。俺はジークハルト。それから、同じく冒険者で俺とパーティを組んでいる、クリスティーネとシャルロットだ」


 俺の紹介に、二人は軽く頭を下げて見せる。それを受けて、フィリーネはほうほうと頷きを見せた。


「ジーくんに、クーちゃんとシーちゃんね。覚えたの」


「さすがにその呼び方は……まぁいいか。好きに呼んでくれ」


 呼び方など、この際どうでもいいだろう。それよりも話を聞かなければ、先に進めない。

 まず、何から聞いていくのが良いだろうか。やはり、フィリーネの目的についてだろうか。


「フィナは、冒険者として受けた依頼の最中だったのか?」


 単純に街から街への移動中ということも考えられるが、やはり冒険者として多いのは受注した依頼のために、魔物の討伐に向かっているか、素材採取のためだろう。

 そう思って問いかければ、フィリーネはふるふると首を横に振った。


「ん~ん、オストベルクっていう街に行くところ。人を探してるの」


「なるほどな。それで移動中に、あの盗賊たちに出会ったと」


 俺がそう言えば、フィリーネはこくりと一つ頷きを見せた。


「そうなの。突然現れて、お金を要求されたの。でも、フィーもそんなに持ってるわけじゃないし、もちろん断ったの。そうしたら囲まれて、あっちが剣を抜くからフィーも応戦しようとして……」


「そこに、俺達が通りかかった、と」


 俺の言葉に、再度フィリーネが頷きを見せる。状況を聞くに、俺達がフィリーネを発見したのは、フィリーネが盗賊達に囲まれてすぐの事だったようだ。あまり大事になる前に発見できたのは運が良かったと言えるだろう。

 フィリーネの実力がどのくらいかはわからないが、雰囲気的には三人の盗賊相手では劣勢であったと分析している。俺とクリスティーネが駆け付けただけで逃げ出すような男達ではあったが、一対三という状況はかなりの不利である。


 しかし、俺のような普通の人族とフィリーネとでは、一つ大きな違いがある。フィリーネの背には、大きく立派な白い翼があるのだ。俺達が助けに入らなくても、三人の男相手であれば、勝てはしなくとも逃げきることが出来たのではないだろうか。


「なぁフィナ、飛んで逃げれば良かったんじゃないか?」


 俺がそう問いかければ、フィリーネは後ろを振り返り、己の翼へと視線を向ける。そうして、その白い翼を少し広げて見せた。その翼は、思わず触りたくなるような白さをしている。


「むぅ。それが出来れば良かったんだけど、飛ぶのって結構疲れるんだよねぇ」


「……そういうものなのか?」


 翼を持たない俺にとっては、そのあたりの感覚はよくわからないものである。そのため、俺はこの場でもう一人の翼持ち、クリスティーネへと話を向けてみた。

 俺の目線を受けたクリスティーネは、「うん」と賛同を口にする。


「一度高く飛んじゃえば、後は滑空で距離も稼げるんだけど、それでも普通に歩くよりも疲れるかな? それから、何と言っても飛び始めが一番大変なの。風魔術も併用するんだけど、これが結構疲れるんだ~」


「そうなのか」


 俺としては単純に、翼があれば空が飛べて移動も楽々、どこに行くにも自由だなんて思っていたのだが、翼を持つ者には持つ者なりの苦労があるようである。


「特に、今はあまり体調も良くないの……しっかり休まないと、飛ぶのは無理かも?」


 そう言って、フィリーネは小首を傾げて見せる。疑問形で問われたところで、俺からはそうかとしか言いようがない。

 相変わらず眠たそうな表情で気怠げな様子を見せているフィリーネだが、その言葉通りにあまり体調が芳しくはないのかもしれない。

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