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674話 悪魔の種9

 オスヴァルトが一通り語り終えたところで、俺は熟考する。

 彼の口から語られた話の大半は、荒唐無稽な作り話のように思えた。だがその中には、無視できない情報も混ざっている。それは、人の体に根を張り樹木へと姿を変えたくだりだ。


 昨日、シャルロットの体に取り付いたあれは、まさしく根を張ると形容すべき様相だった。俺の手で焼き尽くしたためそれ以上の変化はなかったが、もしあのまま放置していたら、今聞いた話のようになっていた可能性はある。

 もっとも、俺はあれが普通の寄生樹のように、宿主に取り付くことを危惧していたわけだが……まぁ、木になろうがなるまいが、有害であることには変わらないか。


「んん、お話はわかったの。でも、それと昨日のことは関係あるの? フィー達、襲われたのは木じゃなくて人だし、襲ってきたあの男の人も、別に木に変わったりもしなかったの」


 そう、フィリーネの言うように疑問点はまだまだある。俺達は別に、木を切り倒そうとした覚えはないし、当然その報復のように木に襲われたりなんかもしていない。

 ただ、あの襲ってきた男……今にして思えば彼もまた、寄生されていたのだろう。先程の「傷を負いながら町へと逃れた町人も、その先で体に枝葉を咲かせた。」という一説に照らし合わせれば、寄生された後に昨日のあの場所まで辿り着き、そこで新たな寄生先、つまりシャルロットへと襲い掛かった、といった流れが想像出来る。


 しかし、あれがオスヴァルトの話と同じものであれば、あの男は完全に取り込まれ木へと姿を変えていたはずだ。だが実際には、彼は体中の水分を吸い尽くされたように、痩せ細った姿へと転じていた。

 この状況で、オスヴァルトの語った話と同じだと断定するのは、時期尚早と言えるだろう。せめてもう少し、情報が欲しいところだ。


「そこなんですが、あの男性――ギルドで身元を調べたところ、この町で酒屋を営んでいる方でした。その方の体内を調べたところ、魔石が見つからなかったんです」


「魔石がない、だと? 欠片もか?」


 俺の問いに、オスヴァルトは頷きを返す。それは妙な話だ。

 生き物というのは、多かれ少なかれ必ず魔力を持っている。そして死ぬと同時に体内の魔力がそれを生み出す器官へと集まり、魔石になるのだ。魔物と呼ばれない単なる小動物からでも、砂粒ほどの魔石が取れる。


 そしてそれは、人も例外ではない。魔術の使えない人であっても、潜在的には魔力を持っている。誰であれ、多少の身体強化が使えるのはそのためだ。

 そして人が死んだ際には、少なくとも小指の先ほどの魔石が残される。人の魔石も魔物から取れた魔石と同じ使い方は出来るが、人道的にも大きさ的にも使うことはできないということで、一般的には遺体と共に埋葬されることとなる。


 その魔石が見つからなかったとなれば、原因はただ一つだ。


「つまり、あの黒い植物のようなやつが、あの人の魔力を吸い尽くしたってことか」


「えぇ。しかし、成長するには魔力が足らなかったのでしょう。その結果、木に変わらなかったのではないかと」


 実際、他にも魔力で育つ植物というものは存在するからな。そしてそういった植物というのは、成長に必要な魔力が足らなければ育つことはない。それと同じだと考えればいいのだろう。

 いや、むしろ必要な魔力を得るために、他者へと寄生する生体をしているのだろうな。そこだけで言えば、寄生樹とよく似ている。


「だかラ、寄生樹の調査ヲしに行っタ俺も、話を聞きニ来たってわけサ」


「そういうことか」


 俺は昨夜フィリーネ達に、あれが寄生樹の変異種である可能性を告げていたが、ギルド側でも同様の予想を打ち立てていたらしい。その話をたまたまギルドで聞いていたオッドは、巨大樹の森に現れた寄生樹と何か関係があるのかと、ここに同行することにしたようだ。

 まぁ、ただ俺とギルドとの繋ぎ役として来るなど、余程暇でなければただ時間を浪費するだけだからな。こいつなりに情報を得ようとしているのだろう。


 それなら最初からそう言えばいいだろう、と考える俺の隣で、何やら考え込んでいたフィリーネが顔色を変えた。


「ねぇジーくん、あれが魔力を吸うなら、シーちゃんは――」


「安心しろ、フィナ。おそらくシャルの魔力はほぼ空になっただろうが、完全に吸い尽くされてたらその時点で死んでたはずだ」


「あっ……それもそうなの」


 俺の説明に、白翼の少女はほっと息を吐き出した。

 体内の魔力が完全に尽きてしまえば、その時点で命を失う。しかし通常、魔力が完全に尽きるようなことはない。それほどの魔力を使おうとしても、それよりも前に気を失うからだ。それは、強魔水のような薬を服用しても変わらない。

 だが、寄生樹に取りつかれた場合は別だ。あれは寄生先の魔力を吸い尽くし、次の獲物へと寄生先を変えるのである。


 もしも昨日、シャルロットの魔力を吸い尽くしていたのであれば、その時点であの子は命を落としていたはずだ。だが未だ意識が戻らないとはいえ、あの子はしっかりと鼓動を刻んでいるし、呼吸もしている。

 むしろ、魔力不足が原因であるのなら、あとは時間を置けば失った魔力も回復するはずだ。まだ確定はしていないものの、手掛かりを掴めて少し安心した。


「ひとまず、現時点でわかっているのはそんなところか」


 これと言った結論は出ないものの、一日と経たず手掛かりが得られたのは早いほうだろう。こっちから出せる情報はすべて出したし、ギルド側としてもわかっているのはここまでのようだ。情報の擦り合わせはこれで十分だろう。


「それで、ギルドとしてはこれからどう対応するんだ?」


「当面は悪魔の種……いえ、寄生樹の変異種と想定して、対策を練るつもりです。それから本日中に冒険者へ向けて、巨大樹の森への調査依頼を出す予定です」


「俺モ、もう一度調査ニ行く予定なノさ。お兄サン達はどうだい?」


「調べたい気持ちはあるが、何をするにしてもシャルが目覚めてからだな」


 この町は西に向かう途中で立ち寄っただけだから、無視して先へと進むというのも選択の一つだ。ただこうして巻き込まれた以上は、ある程度原因を把握したうえで、可能なら対処までしておきたい。帰りも同じ順路を取るのなら、どのみち避けては通れないからな。 ただ、何よりも優先すべきはシャルロットの体調だ。出来るだけ早く、目覚めてくれるといいのだが。


 そう考える俺の背後から、ぱたぱたと駆ける足音が近づいてきた。振り返ってみれば、数歩先の距離までイルムガルトが迫っていた。それを目にし、フィリーネが眠たげな眼を見開き立ち上がる。


「イーちゃん、何かあったの?」


「シャルが目を覚ましたわ!」


 その言葉を聞き、俺は音を立てて立ち上がった。

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