表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

658/685

658話 巨大樹の森1

 王都を発ってから、大体二十日ほど経過しただろうか。俺は今、とある街の宿で一人、座卓の前に腰を下ろしていた。


 ここまでの道中は、特に語ることがないくらいには平和そのものだった。基本的には徒歩で、時折乗合馬車を利用する旅は魔物と遭遇することもほとんどなく、街道沿いをゆったりとした速度で進んできた。

 薬の副作用もすっかりと抜け落ちた体は、以前よりもむしろ調子がいいくらいである。ここらで一度、自身の全力を確かめておきたいところだが、幸か不幸かそのような機会は今のところ巡り合っていない。


 少し開けた窓から入り込む微風が頬を撫でる。そこに美味しそうな香りが混ざっているあたり、一階の食堂では夕食の調理が進んでいるのだろう。

 そろそろ、街へと出かけた少女達が帰ってくるころだろうか。そう考えた矢先、弾むような足音がこちらへと近付いてくる。


「ただいまジーくん!」


 扉が勢い良く開かれたかと思えば、直後に俺は柔らかな衝撃を受けた。わざわざ顔を向けて確認せずとも、フィリーネが飛びついて来たのだとわかる。勢いの割に衝撃が少ないのは流石と言うべきか、身体能力の無駄遣いと言うべきか。

 その後から、他の少女達が遅れて部屋へと入ってくる。


「フィナ、あなたまた……ちょっと羽を動かさないでよ!」


 アメリアが後ろに回り、俺からフィリーネを引き剥がしにかかる。しかし二人の間には体格差もあり、何よりも背中の白翼が邪魔なため苦戦しているようだ。

 軽くもみ合う二人を視界の端に捕らえながら、俺はひとまずクリスティーネへと目を向けた。


「皆、おかえり。街の様子はどうだった?」


「ん~、そんなに他の街と変わらないかな? 王都のお話も、知ってることばっかりだったし……あっ、あんまり見ない食べ物とかあったから、一通り買ってみたよ!」


 所感に食べ物の話題が混ざるところが実にクリスティーネらしいが、真新しい情報はないと見てよさそうだ。ここに至るまでも幾つかの街を経由してきたが、あれから王都がどうなったのかはわからない。

 ただ、王都で起きた事件については俺の思った以上に正確な事実が伝わっているようなので、もしあれから再び同じようなことがあったのなら、その話も伝わってくるだろう。そう言った話を聞かないあたり、少なくとも今のところは何も起きていないと考えてよさそうだ。


 何より気にかかるのは俺達が犯罪者として手配されていないのかということだが、今のところ町中に人相書きが貼り出されていたりはしない。ギルドで普通に話を聞けるあたり、特に捜索されているというわけでもなさそうだ。

 王都で探されていたのは純粋に話を聞きたかっただけで、街の外まで手を広げるつもりはなかったということか。それがわかっていれば話し合う機会を作ればよかったと思うが、王都にいた時点では状況がわからなかったので仕方がない。


「ジークは何見てたの? これって……このあたりの地図だよね?」


 座卓に広げた地図を覗き込みながら、クリスティーネが俺の隣へと腰を下ろす。反対隣りに膝立ちになったシャルロットが、その身を乗り出し小さな手を伸ばした。


「ここが今いる街ですよね? ここから西に向かうと……」


「森にぶつかっちゃうね?」


 シャルロットが指先で指し示した場所には、広大な森が広がっていた。地図上で見ると小さく感じるが、実際には果ての見えないほどの広さだろう。

 その森を抜けた先が、次の目的地となる街である。


「フィー達三人で飛ぶのが早いと思うの! ちょっと疲れるけど、頑張れば一日で抜けられると思うの!」


 俺の両肩に手を置いたフィリーネが、頭上から覗き込む。

 クリスティーネとフィリーネは自前の翼があるし、俺も魔術で翼を模すことが出来るようになったおかげで、空を飛ぶことは可能だ。三人でシャルロット、アメリア、イルムガルトの三人をそれぞれ抱えて飛ぶことが出来れば、地上の障害など無視して先へと進むことが出来る。


 とは言え、それはあくまで理論上の話だ。


「確かに多少飛べるようにはなったが、さすがに人を抱えて飛ぶのはまだ無理だ。魔力も持たないしな」


「あっ、そうだよね。私とフィナちゃんはそんなに魔力いらないんだけど……」


 二人は自前の翼があるため、そこまで魔力は必要ない。多少、飛行の補助に風の魔術を使用しているらしいが、どちらかと言うと体力の方が重要だろう。

 それに比べて、魔術で翼を形成する必要がある俺は、圧倒的に魔力が必要だ。それも半端なく魔力を消費するため、一日どころか半日すら持たないだろう。


「迂回するのはどうなの? 南にぐるっと回れば、森を抜ける必要ないわよね? その分、時間はかかるだろうけど……」


「私はそれでも全然かまわないわ。もちろん早く帰れるのは嬉しいけど、急ぐ理由はないから」


 アメリアの提案を、イルムガルトが支持する。

 確かに森の南側へと回ることでも、西の町に向かうことは可能だ。しかし、その間にはさらに二つの町を経由し、日数にして七、八日ほど余計に必要となる。


「いや、森を抜けていこう。直進すれば、大体二日で森を抜けられるはずだ」


「森の中で一晩過ごすところは気になるけど……ジークの土魔術があれば安心だよね!」


 クリスティーネの言葉に頷きを返す。

 帝国を旅している間に多用した、土魔術で簡易的な壁と天井を築く魔術。あの中で野営をすれば、たとえ森の中と言えども安全に夜を過ごすことが可能だ。


 いっそのこと、この機会により安全に過ごせるように構造を改良してしまおうか。壁を二重にするとか堀を作るとか、やりようはあるはずだ。その当たり、視認性との天秤だが。

 そんな風に改良策を考える俺の袖を、シャルロットが柔らかく握った。


「ジークさん、これだけ広い森だと、魔物とかもいますよね?」


「そうだな。ただほとんどはDランク、精々Cランクくらいの魔物しか出ないはずだ。他の地域の魔物と少し違うところは気を付ける必要があるが……」


「それくらいの強さなら、今の私達なら大丈夫だよね!」


 クリスティーネが自信あり気な笑みを見せた。

 彼女の言う通り、今の俺達であればBランクの魔物が相手なら余裕を持って倒せるし、Aランクの魔物でもしっかり連携すれば十分に討伐可能だ。例えイルムガルトを守りながらだとしても、Cランク以下の魔物であればほとんど危険はないだろう。


「他とは違うって、どう違うのよ?」


 アメリアが首を捻る。

 それを受け、俺は地図上へと手を伸ばした。そうして、西にある森を指差す。そこには小さく、文字が書かれていた。


「この森は巨大樹の森と言ってな。文字通り大きな木で出来た森なんだが、出てくる魔物もとにかくでかいそうなんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
上記リンクをクリックするとランキングサイトに投票されます。
是非投票をお願いします。

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ