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65話 貴族令嬢の護衛依頼4

 護衛依頼を受注した翌朝、俺達は再びユリウスの屋敷を訪問していた。本日から護衛依頼に携わるため、王都を離れることとなる。

 移動中の食料など、基本的なものは向こうで用意してくれているそうだ。それでも、オストベルクへの最短ルートには他の街などが存在しないため、野営が必須となってくる。そのため、野営に必要となる物資や、万が一の携帯食料などは昨日のうちに準備をしておいた。

 そうして迎えた今日、俺は前日のようにユリウスの屋敷の門を守る私兵へと話しかける。


「昨日も来た冒険者だ。こちらのユリウスさんの娘の護衛依頼を受けたんだが、通してもらえるだろうか?」


「冒険者の方ですね、お話は伺っております。こちらへどうぞ」


 私兵の男の案内により、屋敷を回って裏手へと案内される。そこには今回の度に使用するのだろう、一台の大型馬車が用意されていた。俺達冒険者が使用するような乗合馬車などとは異なる、如何にも貴族が使用するような二頭立ての豪華な馬車だ。体格の良い二頭の黒毛の馬が、既に馬具を装着され、いつでも走り出せるよう準備されている。

 馬車の傍では、昨日ユリウスの後ろに控えていた老紳士が待っていた。昨日と同じように、皴一つない執事服が良く似合っている。昨日と異なるのは、腰に一振りの剣を吊り下げているところだろうか。

 それとは別に、二人の私兵がそれぞれ馬を連れて待機していた。俺は少し迷った末、老紳士の方へと歩み寄る。


「すまない、遅れただろうか」


 俺が挨拶もそこそこに話しかけると、老紳士からは丁寧なお辞儀が返ってきた。


「皆さま、おはようございます。御覧の通り、馬車の準備は出来ておりますが、お嬢様のご準備がまだのため、少々お待ちください」


 どうやら、間に合ったようである。俺は内心で安堵しつつも、馬車の方へと目を向けた。大型の馬車は、話に聞いていた通りアンネマリーだけでなく俺達が同乗しても余裕がありそうだ。


「確か、俺達は馬車に同乗するんだったよな?」


 俺がそう問い返せば、老紳士からは首肯が返る。


「えぇ、皆様にはお嬢様と一緒に、馬車に乗って移動していただきます。御者は私が勤めさせていただき、脇を家の私兵が固めます」


 護衛をすると言っても、馬車の周りを歩いてついて行くわけではない。俺達は基本的に、アンネマリーと共に馬車の中にいるよう言われている。街道は見晴らしがいいため、基本的な周囲の警戒は馬車の左右を馬で並走する私兵が担当し、有事の際は俺達も出るという手筈である。

 しかし、そうなると車内は俺とクリスティーネとシャルロット、それにアンネマリーということになる。男が一人と言うことで、少々居心地の悪さを感じそうだ。

 そう思っていると、馬車の後方には人が座れるだけのスペースがあることに気付いた。そこに座れば、後方警戒もできてよいのではないだろうか。


「なぁ、俺は馬車の後ろに座らせてもらってもいいか? 護衛として雇われているんだし、後方警戒ぐらいは出来ると思うんだが」


「えぇ、構いませんよ。よろしくお願いします」


「ありがたい。えぇと……」


 老紳士へと呼びかけようとして、はたと俺は言葉を止めた。そう言えば、老紳士の名前を聞いていなかった。

 俺が老紳士へと名前を問いかける前に、老紳士の方から口を開いた。


「これはこれは、私としたことが、まだ名乗っておりませんでしたな。ユリウス様に仕えております、セバスチャンと申します。どうぞセバスとお呼びください」


 そう言って深々と腰を折り、見事な礼をしてくれる。俺も慌てて、応じるように軽く頭を下げた。


「よろしく頼む、セバスさん。俺は――」


「ジークハルト様ですよね。それに、クリスティーネ様とシャルロット様で間違いないでしょうか?」


「あ、あぁ、間違いない、合っている」


 俺の名乗りを遮り、セバスチャンはすらすらと俺達の名前を口にした。俺達が名乗ったのは昨日、ユリウスと対面した時のみだが、その一度でしっかりと記憶していたようである。

 さらにセバスチャンに対して旅程の確認をしようとしたところで、裏口の扉が開いたためにそちらへと視線が持っていかれる。中から出てきたのはユリウスと、昨日のドレスとは異なり余程動きやすそうな服に身を包んだアンネマリーだった。もっとも、何度も袖を通した様子はなく、高級そうな様相は相変わらずではあったが。


 ユリウスは俺達の方へと近寄ると、セバスチャンの前で立ち止まった。対してアンネマリーはセバスチャンの隣に立ち並ぶと、ユリウスに向かい合う形でその長身を見上げた。

 ユリウスはその場にしゃがみ込むと、アンネマリーと目線を合わせる。そうして、金に輝く頭に優しく片手を乗せた。


「いいかい、アンナ。あまり我が儘を言わず、セバスの言うことをよく聞くように」


「わかっておりますわ、お父様。ちゃんと良い子にしておきます」


「お前はお母様に似て、恐れ知らずなところがあるからなぁ……お父様は少し心配だよ」


 そうして立ち上がると、ユリウスは次にセバスチャンへと向き直った。アンネマリーに向けていた優しげな顔から、少し真剣な表情へと変わる。


「セバス、アンナを頼む」


「この身に変えましても」


 そう言ってセバスチャンが腰を折るのを見て、ユリウスはふっと表情を緩めた。


「まぁ、お前がいれば問題ないだろう。あぁ、そうだ、ハイデマリーにも、すぐに行くと伝えておいてくれ」


「承知しました」


 セバスチャンとの会話を終えたユリウスは、俺達へと向き直る。特に威圧されているというわけでもないが、貴族特有のやんわりとした圧力のようなものを感じ、思わず俺は少し身構えてしまう。


「ジークハルト殿、それにクリスティーネ殿、シャルロット殿。どうか娘を、よろしくお願い致します」


 そう言って、深く腰を折った礼を向けられる。俺から返せる答えなど、唯一つである。

 俺はユリウスの礼に応じるように、出来るだけ丁寧に見えるように腰を折って口を開いた。


「必ず、守ります」


 それからアンネマリーと共にクリスティーネとシャルロットが馬車に乗り込み、セバスチャンが御者台で手綱を手に取る。俺が馬車の後ろに腰掛け、馬車の両脇を馬に乗った私兵が固めると、馬車はゆるゆると動き出した。

 そうして大通りを抜け、門を潜り、俺達は王都を後にするのだった。

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