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642話 騒動の爪痕5

「ねぇクリス、フィナとイルマは、その……」


 躊躇いがちに口を開いたアメリアへとクリスティーネは小さく首を横に振った。


「そこまではわからないって。あの人たちが来た時には、もう怪我人は運ばれた後だったみたいだから」


「そう、だったわね……」


 クリスティーネの言葉に、アメリアが肩を落とす。俺も同じような気分だが、ここで足を止めてはいられない。

 むしろ、一刻も早く二人の無事を確かめたい。そう気は流行るのだが、ここまで酷使してきた体はいよいよ限界を迎えていた。


 ふらりと傾きかけた体を、すぐさまクリスティーネが支えてくれる。


「ジーク、大丈夫? やっぱり、もう少し休んでた方が……」


 そんな風にこちらを気遣う少女の気持ちを嬉しく思いつつも、俺は否定の動作を返す。


「目的地はすぐそこなんだ。もう少しくらい、頑張れるさ」


 そう言って笑顔を作ってみるが、こちらを窺う三人の顔は晴れない。


「……あんまり無理しちゃダメだよ? 掴まって、ね?」


「悪いな、クリス。助かるよ」


 俺を支えるように肩を貸すクリスティーネへと、軽く体を預ける。それだけでも、身に降りかかる重さが幾分か楽になった気がした。

 そうして歩くことしばらく、目的の倉庫へとやって来た。同じような青い屋根の建物が三つ、通りに面して立ち並んでいる。


 どの建物にも、慌しく人が出入りしていた。まだ中に入ってもいないというのに、すでに濃い血の匂いが漂ってくる。


「これ、まさか全部に怪我人がいるの?」


 唖然とした様子で、アメリアが言葉を溢した。


「うん、そうみたい。冒険者ギルドだけじゃなくって、この近くで出た怪我人も集めてるって話だから」


「あぁ、そうだったわね」


 クリスティーネの言葉に、納得したようにアメリアが頷いた。怪我人を一箇所にまとめるのは、治療の効率を考えれば当然の話だ。

 ただ、目下の問題は――


「フィナさんとイルマさん、ここにいるとしてもどの建物でしょうか?」


 シャルロットが建物を見比べるように左右へと目を向けた。二人がここに足を運んだとしても、三つの建物のどこにいるのかわからないのだ。

 クリスティーネは目を細め、倉庫の入口を注視するが、難し気に首を傾げた。建物はどれも似たような見た目で、外見から判別できるような手掛かりはない。


 時間が経てば負傷者のリストなんかも出来上がるだろうが、まだ事件から幾ばくもない現段階では、そのような期待は出来ない。


「とにかく、中を見て見ましょうよ」


 アメリアの言葉に揃って頷きを返し、俺達は向かって右側の建物へと足を向けた。そうして、出入りする人の邪魔にならないよう、入口の脇からそっと中を覗き込んだ。

 そうして見えた光景に、俺は思わず眉を顰めた。


「こいつは酷いな……」


 暗がりの倉庫の床には、夥しい数の負傷者が寝かされていた。間を人が通れるようにだろう、不揃いながらもほぼ等間隔で横になる人の姿がある。負傷者の下には、申し訳程度の布が敷かれていた。

 全員が全員、重傷と言うわけではないのが救いだろうか。それでも、忙しなく動く人間よりも、寝かされている者の方が圧倒的に多いことから、全く手が足りてないことがわかる。


「ここから二人を探し出すとなると大変ね……」


「見つかるでしょうか?」


「手分けして探せばすぐに見つかるさ。アメリアとシャルは、二人であっち側を探してもらえるか? 俺とクリスはこっち側を――」


「治癒士はまだ来ないの?!」


 不意に聞こえた覚えのある声に、俺は弾かれたように顔を向けた。その先には、冒険者ギルドの職員と思しき男に飛び掛かるばかりの勢いで迫る、青髪の女の姿があった。


「イルマちゃん! っとと、ごめんね、ジーク」


「いや、大丈夫だ」


 衝動的にイルムガルト元へと駆け出しかけたクリスティーネだったが、俺に肩を貸していたことを寸前で思い出したらしく、その場にとどまった。

 この娘が思い止まってくれなかった、俺は踏ん張れずに転倒していただろう。今の体力では、その衝撃で気絶しかねないため非常に有難い。


 クリスティーネの声が届いたのか、男に詰め寄っていたイルムガルトがこちらへと顔を向ける。その深い蒼の瞳が驚きに見開かれ、男の襟首をつかんでいた手を離すとこちらへと小走りにやって来た。


「クリス、ジークハルト! それにシャルもアメリアも、全員無事……ではなさそうね、大丈夫なの?」


 俺達の姿を目にしたイルムガルトが、案ずるように眉根を寄せた。シャルロットとアメリアはともかく、俺もクリスティーネも見た目は重傷だからな。

 イルムガルトの言葉に、クリスティーネが苦笑を見せる。


「一応、大丈夫だよ。ちょっと、いろいろとあってね」


「それくらいは見ればわかるわよ。とにかく、戻って来てくれて助かったわ。こっち、ついて来て」


 そう言うと、イルムガルトは俺達の返答も待たずに早足で倉庫の奥へと向かい始めた。焦りを隠さないその様子に、嫌な予感が募る。


「……フィナに、何かあったのか?」


 クリスティーネに肩を借りたまま、何とかイルムガルトの歩みに遅れないよう後を追いながら問いかける。この場にフィリーネの姿がなく、イルムガルトの様子を見れば、あの白翼の少女の身に何かあったことは容易に想像できた。

 先導するイルムガルトは振り返らないまま、負傷者たちの間を足早に進みながら小さく顎を引いた。


「詳しい説明は省くけど、かなりの重傷よ。この状況で手に入る薬だけじゃ、全然足りなくて……正直に言って、間に合わないかもしれない」


「そんなっ!」


 イルムガルトの言葉に、シャルロットが思わずといった様子で大声を上げる。少女の高い声は喧騒の中でも良く通ったようで、何事かと周囲の人々がこちらへと目を向けた。

 その目線を受け、シャルロットがハッとしたように口元を手で覆う。そうして周りへと軽く頭を下げれば、こちらを注視していた人たちも興味を失ったようで、こちらから目を逸らす。


「経緯はいいから、フィナの状態を詳しく教えてくれ」


「説明するよりも、見たほうが早いわ……ここよ」


 そう言ってイルムガルトが足を止めたのは、厚い布製の衝立の前だった。それも一つではなく、幾つも同じようなものが格子状に整然と並べられている。

 俺達の前にあるのは、そのうちの一つだ。どうやらこの格子状に区切られた一つ一つの内側に、負傷者が一人ずつ寝かされているらしい。


 ここに至るまでの負傷者たちとは、明らかに異なる扱いだ。おそらくは、そう易々と人目に晒せないような状態の者達が、この奥にいるのだろう。

 布の仕切りに隙間はなく、中の様子は窺えない。イルムガルトは布に手をかけると、慣れた様子で中へと足を踏み入れた。俺は肩を貸すクリスティーネと顔を見合わせ、共にその後へと続く。


 布に仕切られた空間は、外から見るよりも広く感じた。俺たち全員が入ってなお、肩を押し合うようなこともない。布に仕切られているためだろう、内側は先程よりも少し薄暗く見える。

 そんな空間の真ん中に、赤く染まった包帯を全身に巻き付けた、白翼の少女の姿があった。

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