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621話 黒染めの塔2

「相談だと? ……まぁいい、ひとまず聞かせろ」


 俺の言葉に、エアハルトがこちらを振り向く。それに対して、俺は一つ頷きを見せた。


「協力して塔の中へと入らないか?」


「協力? 俺とお前がか?」


「そうだ」


 俺は再度頷きを返し、天塔を囲む魔人達の方へと目線を戻す。

 俺とクリスティーネの二人だけでは、塔の中へと入るのは少々難しいだろう。しかし、エアハルトを加えた三人であれば、それも可能なはずだ。


 彼の実力を正確には知らないが、少なくともAランクの冒険者だということはレオンハルトの話で聞いている。それならば、多少なりとも魔人相手に渡り合うことは可能だろう。


「……具体的な案を聞かせろ」


「なに、簡単な話だ」


 そう言って、俺は肩を竦めて見せた。

 魔人達を全て打ち倒すような時間はない。一体ずつ相手取れば数を減らしていくことは出来るだろうが、それだとどれほどの時間を要することになるか。


 けれど、一当てするくらいであれば問題はないのだ。


「まず、俺とエアハルトで一体ずつ、魔人の攻撃を防ぐ。まさか出来ないとは言わないよな?」


「馬鹿にするな、その程度は造作もない」


 俺の言葉に、エアハルトは憮然とした様子で返してくる。少なくとも、自身の腕には自信がある様子だ。


「それならいい。そうやって二体の魔人を惹き付けた隙に――」


「私が闇の結界を壊せばいいんだね!」


 やる気十分といった様子で、クリスティーネが両手をぐっと握る。その言葉に、エアハルトが驚いた様子を見せた。


「壊せばいいなどと簡単に言うが、さっきも言ったように光属性の攻撃でないと……」


「平気だよ! 光属性は得意なの!」


「ついでに言うと、俺も使えるぞ」


 俺の言葉に、エアハルトは更に驚いた表情を作った。光属性の使い手は少ないにもかかわらず、俺達二人ともが使えるとは思わなかったのだろう。

 俺とクリスティーネ、どちらも光属性は扱えるので、闇の結界を斬るのはどちらでも構わない。とは言え、もう一人は魔人を相手取ることになるのだ。クリスティーネの実力を疑うわけではないが、俺自身が対応した方が安心できる。


 手筈としては話した通り、単純な方法だ。

 俺とエアハルトが二体の魔人を抑えている間に、その間をクリスティーネが抜け、光剣技で闇の結界に穴を空ける。先にクリスティーネが塔内へと飛び込み、それを俺とエアハルトが追うというわけだ。


「ん~、でもジーク、それなら他の冒険者さん達にも手伝ってもらった方が、もっと上手くいくんじゃないかな?」


 そう言いながら、クリスティーネが塔を囲む冒険者の方を片手で示す。その提案自体は、俺も考えなかったわけではないのだが。


「いや、やめておいたほうがいいな」


「どうして? いっせーので向かった方が、入りやすくない?」


 俺の言葉に、半龍の少女は首を傾げて見せる。

 確かに、人数が多い方が突入の機会は多いようにも思える。他の冒険者達に魔人を惹き付けてもらう間に、俺達が天塔の中に入るというのも出来なくはないだろう。


 しかし、こちらの人数が多くなれば、塔を囲む魔人達も黙ってはいないだろう。多くの冒険者が塔へと向かえば、それに応じて魔人達も集まって来てしまうはずだ。

 そうなれば、乱戦になってしまう。冒険者達が魔人達を圧倒できるほどの実力者揃いであればそれでも問題ないのだろうが、未だに魔人達が健在である以上は、そこまでの戦力が揃っていないのは明白だ。


 そんな中で大勢が戦いに身を投じれば、却って被害は拡大することになる。この非常事態に、イタズラに戦力を消耗させるわけにはいかない。

 俺達三人だけが動くのであれば、魔人達も過剰な反応はしないだろう。万が一、多くの魔人達が寄ってきた場合は策を練り直す必要があるが、試すだけの価値はあると思う。

 そう言った俺の説明を受け、クリスティーネは納得してくれたようだ。


「よし、早速試してみるか。クリスは少し後ろから来てくれ。いくぞ、エアハルト」


「俺に命令するな。いいか、仕方なく協力してやるだけだからな。まだお前を認めたわけじゃない」


 如何にも不本意だといった様子ながらも、エアハルトは俺に並んで剣を握る。肩を並べた俺達の後方、クリスティーネはいつでも動ける状態だ。

 そうして、天塔へと向けて同時に駆け出す。


 身体強化を纏った体は風となり、見る間に彼我の距離を縮めていく。エアハルトも、遅れることなく隣を並走している。

 天塔との間には、行く手を阻むように二体の魔人が位置していた。二体の魔人は迫る俺達に応じるように、両手に持つ黒剣を構え直す。


 周囲には他にも魔人達はいるものの、目線をこちらに振るだけで、その場から動く様子はない。やはり、少人数で動いたのが正解だったか。

 眼前の魔人が両の剣を振り上げる。応じるように、俺も走りながら剣へと力を込めた。


 掬い上げるように振るった長剣が、魔人の黒剣とぶつかり合う。

 ガツンという重い手応えが返った。


 並の魔物を優に上回るほどの衝撃。

 けれど、予想を超えるほどではない。

 俺の剣は魔人の振り下ろした剣を受け止め、その動きを封じていた。


 視界の端、エアハルトがもう一体の魔人が振るった剣を防いでいるのが見える。

 二体の魔人の動きが止まった。

 その隙を見逃さず、クリスティーネが俺とエアハルトの間を駆け抜ける。手に持つ剣からは、既に光が溢れ出ていた。


「『斬光剣』!」


 半龍の少女が剣を横薙ぎに振るえば、霧が晴れるように闇色の壁が霧散する。塔を覆い尽くす全体からすると極一部ではあるものの、確かにそこからは天塔の内部が窺えた。

 クリスティーネは突進の勢いを保ったままに、天塔の内部へと足を進める。俺は魔人の剣を弾くと、すぐさま少女の後を追って塔の中へと駆けこんだ。


 僅かに遅れて、エアハルトも駆け込んでくる。俺はすぐさま後ろを振り返り、たった今走ってきた塔の外へと向けて剣を構えた。

 それも束の間、見る見るうちに闇の結界が修復され、クリスティーネの作った通路が塞がってしまう。そこには塔の外から見たのと変わらない、黒色の壁が聳え立っていた。


 そのまま、闇の結界の前で剣を構えたまま警戒する。


「……あれ? 入ってこないね?」


 少し時が経過したところで、クリスティーネが首を傾げて見せる。彼女の言う通り、魔人が闇の結界を越えて入ってくる様子はない。


「どうやら魔人達も、闇の結界を越えてくることは出来ないようだな」


 そう口にしながら、俺は肩の力を抜いた。場合によっては、塔の中へと入ってきた魔人と一戦交える必要があるかとも考えていたのだが、要らぬ心配だったらしい。

 闇の結界から目を離し、塔の中へと向き直る。隣に立つエアハルトが、周囲を観察するように顔を動かした。


「……特に変わった様子はないな?」


 拍子抜けといった様子で、エアハルトが言葉を溢す。俺としても、似たような感想を抱いた。

 天塔の内部は照明の魔術具に照らされており、中の様子を見るのは苦もない。そこには日中にクリスティーネと足を運んだ時と、寸分違わぬ景色が広がっていた。


 違いと言えば、俺達以外に動く者が存在しないことだろうか。それ以外には荒らされた形跡もなく、これと言って王都を襲った異変の手掛かりらしきものも見当たらない。

 少なくとも、魔物の数匹程度はいることを想定していたのだが。さすがに塔内が魔人で溢れていたら踏み込まずに別の策を考えるところだったが、現実にはもぬけの殻である。


「ん~、ここが原因じゃなかったのかな?」


「いや、そんなはずはないと思うんだが……」


 首を傾げるクリスティーネへと、俺は否定の動作を返す。

 この天塔の周囲では、冒険者達が中へと入れないように魔人達が守っていたのだ。明らかに、他の魔物とは違って統率された動きである。


 あれでは、ここに何かあると言っているようなものである。あまりにもわかりやすすぎて、何かの罠ではないかと思うほどだ。それだけ、ここが重要な場所だということだろう。


「ふん、この場だけ見て判断するのは早合点と言うものだろう」


「そうだな。何かあるとすれば……上か」


 上方へと目を向ける。視線の先にあるのは石造りの天井ばかり、当然ながらその先を見通すことは出来ない。

 天塔はいくつもの階層が重なる建物だ。上階へと上がっていけば、何らかの手掛かりを掴むことが出来るに違いない。


「よし、上がってみよう。まだ何があるかわからないからな、クリス……と、エアハルトも気を付けてくれ」


「誰に向かって言っている。お前こそ、くれぐれも足を引っ張るなよ」


 そう言って、エアハルトは前に立ち階段を上がり始める。俺は軽く肩を竦め、クリスティーネと共にその後へと続き始めた。

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