62話 貴族令嬢の護衛依頼1
剣術大会を終えた翌朝、俺達はいつものように冒険者ギルドを訪れていた。ここ最近は、毎朝冒険者ギルドで目ぼしい依頼を受注し、王都から南にある森へと出掛けるのが習慣化している。
受ける依頼の大半はオーク肉の納品依頼である。それも、一度の要求量が多いものが掲示板には良く残っていた。オーク肉は様々な料理に使用されるために需要が多いが、マジックバック持ちでもなければ一度に大量に持ち帰ることはできない。
オークを相手する冒険者としてはEランクからDランクが適性だが、そのくらいの冒険者だとマジックバックを持っているものは少ない。そのため、オーク肉の要求量が多い依頼は必然的に余ることになる。
そう言った依頼を、俺達は優先的に受注しているわけである。俺もクリスティーネもシャルロットも、俺が自作したマジックバックを持っているため運搬の手には事欠かない。しかも全員が中級魔術を使用できるため、オークは稼ぐには絶好の獲物なのだ。
「ジーク、今日もオーク狩り?」
「さて、どうするかな……」
クリスティーネから投げかけられた問いに、どちらとも言えない答えを返す。オーク狩りは稼ぎがいい。何度も倒すことで、より効率化され、狩りやすくなってもいる。続けること自体には、何の問題もない。
しかし、毎日が同じ繰り返しだと些か飽きも来る。一応気を付けてはいるものの、日に日に緊張感がなくなってきているのは事実だろう。冒険者として強さを求めるのであれば、様々な依頼を受けて経験を積む方がより効率的なはずだ。
それを思えば、ここらで一ついつもとは違った依頼を受けてみるのも手だろう。さすがに、以前のようにフォレストスネイク討伐のような依頼は受けないとしても、何か面白そうな依頼はないだろうか。
そんな思いで依頼掲示板を順番に見ていると、中段辺りに貼り出された依頼で目が留まった。その内容は、王都から見て東に存在する街、オストベルクへの護衛を冒険者に依頼するものだった。
護衛依頼が貼り出されること自体は、何も珍しいことではない。魔物が跋扈するこの御時世である。街から街へ移動する際に冒険者を護衛として雇うのは、良くある話だ。特に貴族や商人といった者は、魔物だけでなく盗賊にも警戒する必要がある。街道は比較的安全とは言え、備えないというわけにもいかないのだ。
では、護衛依頼が普通に貼り出されるというのに、何故その依頼だけが俺の目に留まったのか。それは、依頼票に記された条件だ。
「女性冒険者一名以上?」
俺は依頼票に書かれた文字を読み上げる。そこには確かに、『女性冒険者一名以上』の文字があった。
「えっと……本当だ、書いてあるね。これって、珍しいことなの?」
「まぁ、あまりない条件だな」
俺自身、冒険者になって一年と少しだが、その間でもほとんど目にしたことのない条件だった。護衛依頼に書いてあるのは大抵、推奨人数と想定所要日数、それに一人当たりの報酬額だ。他にも細かい条件が記載されていることもあるが、わざわざ性別を条件に入れてあるのは稀である。
何か理由でもあるのだろうか。そんな俺の思いを汲み取ったのか、傍らで同じように依頼を見上げていたシャルロットが小首を傾げる。
「ジークさん、この条件って、どうして付けられたのかわかりますか?」
シャルロットの問いに、俺は腕を組み頭を捻る。思いつく理由としては、そう多くない。ぱっと頭に思い浮かんだ二つの理由のうち、一つを口にする。
「一つは、護衛対象が女性の場合だろうな」
護衛対象が女性であれば、護衛する冒険者に同性である女性を指定するのはわからないでもない。冒険者の中には粗暴なものも結構存在し、そしてそのほとんどは男である。異性である男性ばかりに囲まれて数日過ごすよりも、一人でも女性がいる方が、護衛対象は安心するだろう。
条件に女性だけのパーティを指定しなかったのは、その条件の厳しさを知っているからだろう。女性冒険者の数は男性冒険者の数に比べて圧倒的に少ない。それでも男性と女性の混合パーティならそれなりの数存在するが、女性だけのパーティとなると王都でも数えるほどだろう。
そうした説明を加えれば、シャルロットがさらに疑問を上げる。
「あの、すごく納得できたんですが……他の理由も考えられるんですか?」
「あぁ。依頼主……護衛対象が女好きの場合だ」
「女性好き……ですか?」
シャルロットが目を丸くするのに対し、俺は一つ頷きを返す。
俺自身は護衛依頼を受けた経験などほとんどなく、噂で聞いたくらいだが、女好きの依頼者が護衛対象に女性を指定したことがあったそうだ。その依頼者は雇い主と言う立場を利用し、護衛任務中に護衛する女性冒険者へと近付き何度も体を触り、執拗に迫ったそうだ。
最終的にキレた女性冒険者が依頼者を殴り飛ばし、ついでに止めなかったパーティの男性冒険者にも蹴りを入れパーティを抜けていったそうだ。
お前も気を付けろよ、と冒険者仲間から言われたことを思い出す。そう言った冒険者の背中に、なんとなく哀愁が漂っているように見えたのは気のせいだろうか。
改めてクリスティーネとシャルロットの姿を目に入れる。この護衛依頼を受けた場合、万が一依頼主が話に聞く女好きだった時はこの上なく面倒なことになりそうである。
しかし、いくら何でも話に聞いたような自体に遭遇することは稀だろう。そんな依頼者が数多く存在するのであれば、冒険者ギルドが何かしら対策を取っているはずである。そうなっていないということは、まだ世界は平和だということだ。
この護衛依頼に人数指定はなく、俺達三人でも受けることが可能だ。移動には馬車を使うらしく、目的地であるオストベルクには順調にいけば三日ほどで辿り着くことだろう。
街道を進むのであれば、さほどの危険はないだろう。オーク狩りの気分転換としても、受けるのには丁度良い。俺は依頼票を手にすると、受付のカウンターへと足を進めた。
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