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616話 王都と巨岩獣2

 眼前に聳え立つ巨大な影へと、俺は身を低くして駆け寄る。対する巨岩獣はゆったりとした足取りで、やや右手方向へと歩み始めていた。

 その動きは緩慢で、ここが町中でもなければ放っておいても害はなさそうに見えた。


 しかし、ここは王都の中心地だ。この場でこいつのような巨大な魔物を放置しては、どれだけの被害が出るかもわからない。少し可哀相にも思えるが、ここで討伐させてもらおう。

 まずは小手調べだと、俺は駆け寄る勢いのままに巨岩獣の右脚へと長剣を叩き付ける。巨岩獣の足はそれだけで俺の身長を越えるほどで、万が一にも狙いを外す心配はない。


 俺の剣が巨岩獣の膝――ごつごつとしていて正直よくわからないが、多分膝だ――を打ち抜く。途端、甲高い音を立てて剣が弾かれた。同時に、腕に痺れが走る。

 どうやら、ただ剣を叩きつけただけでは巨岩獣の堅牢な体を切り裂くことは出来ないらしい。岩獣であれば容易く切り捨てられたので、少なくとも巨岩獣はあれ以上の硬度だと言う事だろう。


 一当てだけして、俺はすぐさま後方へと下がる。幸いと言うべきか、巨岩獣は足元の俺に気が付いた様子はない。


「うぅ、硬いなぁ……無理に叩いたら剣が折れちゃいそう」


 上空から舞い降りたクリスティーネが、俺の隣へと並ぶ。彼女は巨岩獣の頭上から剣戟を浴びせたようだが、やはり俺と同じように弾かれてしまっていた。


「蹴ってもビクともしないし、炎が効くとも思えないんだけど」


「まぁ、岩の塊だからな」


 アメリアはアメリアで、巨岩獣を蹴り砕けないかと蹴撃を浴びせたようだが、さすがにそこまでは無理だったようだ。

 得意とする炎の魔術も、巨岩獣が相手では効果が薄い。単純な話、岩は燃えないからな。超高温であれば溶解するかもしれないが、そこまでするには少なくとも上級魔術が必要だろう。アメリアには陽動に回ってもらう他になさそうだ。


「水に沈めたり、氷に閉じ込めたりすればいいんでしょうか?」


「こいつ、息してないらしいんだよなぁ」


 シャルロットの提案に、俺は首を振って見せる。

 ゴブリンやオークのような魔物が相手であれば、そういった魔術も有効だろう。しかし、巨岩獣相手には意味をなさない。話によると、この魔物は呼吸を必要としないそうなのだ。


 そもそも、どういう生態をしているのかも謎の多い魔物だ。食事については岩を食べる姿が目撃されているものの、精々それくらいである。睡眠も必要ないそうだ。本当に生物なのか。


「それよりは、質量のある打撃が効果的だろうな」


 あくまで理論上の話になるが、巨岩獣と同程度の質量かつ硬度の岩塊でもぶつけてみれば、両者ともに砕ける結果となるだろう。さすがに魔術でそれだけのものを生み出すのはなかなか難しいが、近いことは出来るはずだ。

 武器でどうにかしようとするのなら、剣よりも大槌のような重量のある武器が適しているだろうな。とは言え、生憎とそちらの持ち合わせはない。


「ひとまず俺達で注意を引くから、シャルは魔術で攻撃してみてくれ」


 俺達の中で巨岩獣に有効な魔術を使えるとすれば、俺かシャルロットのどちらかだろう。アメリアの炎魔術では、巨岩獣のような魔物には相性が悪い。

 クリスティーネの光魔術はある程度効くだろうが、それだって小さな穴を穿つのが精々だろう。それよりは、普段通り剣技を使ってもらった方が優位に事を運べるはずだ。


 二人に注意を引きつけてもらい、俺もシャルロットと共に魔術を使用するという案もある。

 しかし、俺達が巨岩獣と戦うのはこれが初めてのことだ。その動きを見るのも初めてなので、どの程度の危険性なのかはいまいち把握出来てはいない。


 そんな中、二人に任せて万が一のことがあれば取り返しがつかないことになる。それよりは、戦い慣れた俺が巨岩獣の正面に立つ方が、周囲の被害は抑えられるはずだ。

 じっくりと魔物の動きを観察し、クリスティーネとアメリアだけで前線を支えられることがわかれば、俺も後方へと下がって魔術を使うこととしよう。


「わかりました、気を付けてください!」


 シャルロットをその場へと残し、俺達は再び巨岩獣へと向かう。重低音と共に踏み出した足へと、俺は狙いを定めた。


「『裂衝剣』!」


 掬い上げるように、剣を勢いよく振り抜く。

 がつんと強い手応えが返った。並の魔物程度であれば、一振りで屠れる程度の一撃だ。

 しかしそれも、巨岩獣の足の岩肌を少し削った程度の結果を残した。


 俺は一つ舌打ちを漏らす。やはり、斬るよりも叩くような攻撃の方が有効的だろう。


「それなら、『巨岩剣』!」


 魔力を練り上げ、頭身を覆う岩塊を生み出す。剣の長さは通常の倍程度、ヴァルヴェルヴィルクと戦う際に使った時よりは短いものだ。

 何しろ、今は緊急時だからな。これから先、どれだけの戦闘があるかわからない以上、全魔力を注ぎ込むわけにはいかない。


 俺は握った岩剣で、大振りの一撃を再び巨岩獣の脛へと浴びせかけた。

 先程よりも強い手応えを感じる。

 その一撃で、巨岩獣の動きが止まった。


 多少は効いたかと、俺は剣を引き頭上を仰ぎ見る。

 巨岩獣の目、空洞のようになった部分が、俺の方へと向いていた。

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