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615話 王都と巨岩獣1

「『石の槍(フェルズ・ランツェ)』!」


 右手に握った剣で魔物を切り裂きながら、練り上げた魔力で左手から魔術を放つ。時間差で血飛沫が上がり、二匹の魔物が地へと倒れ伏した。

 それを確認し、俺は息を吐き出し肩から力を抜く。


 天塔へと向かう道すがら、行く手を阻むように魔物達が現れたのだった。一匹一匹は大したことがなくとも、数が増えるとそれなりの脅威になる。今は、それをようやく退けたところだ。

 俺は顔を上げ、前方を見据えた。眼前には、先程見たよりも大きく見える天塔の姿があった。


 それでも、まだ道半ばと言ったところだろうか。あそこに辿り着くまでには、今しばらくの時間が必要そうだ。

 それを確認し、俺は背後を振り返った。


「皆、怪我はないか?」


「平気だよ! 急ごう、ジーク!」


 俺の言葉に、クリスティーネが元気よく答える。その姿は少し服が汚れた程度で、平時と変わらない様子だ。

 その両隣に立つシャルロットとアメリアについても、負傷などはなさそうである。


「よし、それなら――」


「きゃっ」


 俺の言葉を遮るように氷精の少女が小さく悲鳴を漏らし、思わずといった様子でクリスティーネへとしがみつく。半龍の少女も、咄嗟にその小柄な体を支えた。

 悲鳴の理由は明白だ。突如として、地面が大きく揺れたのである。


 また地震かと、俺は身を低くする。それと同時、何か破砕音のようなものが聞こえてきた。どこかで建物でも壊れたのだろうか。


「ジーク、あれ!」


 警戒を込めた声で、アメリアが鋭く俺の背後を指差す。その様子に、俺は腰に収めた剣を素早く引き抜き後ろを振り返った。

 見れば前方、ニ十歩ほど先の地面が割れていた。それも蜘蛛の巣状に地面がひび割れ、石畳が凹凸を形作っている。


 ただ地面が割れたにしては、不自然な形状だ。何か違うと、俺は地割れの中心を注視する。

 そこで、地面が蠢いた。


 隆起した石畳が、ガタガタと音を立てる。俺達の足元は揺れていないので、極めて局所的な地震だと言えるだろう。まるで、地面の下に何かがいるようだ。

 そう考えた瞬間、地面が爆ぜた。


 石畳が宙を舞い、土埃が風に舞い上がる。俺は咄嗟に、少女達を庇うように立ち位置を変えた。

 拭き上がる土砂は俺の背丈を悠々と超え、見上げるほどの高さまで到っている。その土煙の向こうで、何かが蠢いた。


 土砂のカーテンを越えて現れたのは、巨大な岩塊だった。地に打ち付けられるように振り下ろされたそれは、地面を抉り轟音を立てる。

 現れたのは、小山のような巨体の魔物だった。


「これ、岩獣?!」


「でも、大きさが全然違います!」


 クリスティーネの疑問の声に、シャルロットが怯んだように俺の服の裾を握った。

 黒龍やヴァルヴェルヴィルクを彷彿とさせるような、巨体の魔物だ。恐怖感を覚えるのも無理はない。


「違うな、こいつは巨岩獣だ!」


 少女の問いに応えながら、俺は剣を握り直した。

 目の前に現れたのは、岩獣をそっくりそのまま大きくしたような魔物だった。名前もそのまま、巨岩獣と呼ばれている。


 岩の塊で出来た四肢を持ち、二足で歩行する魔物だ。岩獣と同じく岩山に生息すると聞くが、こいつまで出てきたのか。


「どこが違うのよ?! 親子じゃないの?!」


「厳密に言うと違うんだが……まぁ、似たようなものだ」


 アメリアの言葉に、俺は肩を竦めて見せる。

 俺も最初にこの魔物を知った時は、アメリアのように巨岩獣の子が岩獣だと思っていた。だが、魔物の専門家によると違うらしい。岩獣は何年経っても岩獣でしかないし、巨岩獣は生まれた時から巨岩獣だそうだ。


 とは言え、冒険者からすれば特に関係のない話だ。どちらも岩のような魔物ということに変わりはない。

 これまで王都に現れた魔物と比較すると、巨岩獣は強力な魔物だ。とは言え、龍はもちろんヴァルヴェルヴィルクほどの危険性ではない。


 その身は硬く力も強いが、動きは遅いので有効的な攻撃さえできれば、Bランク以上の冒険者であれば時間をかければ討伐が可能だとされている。もっとも、有効な攻撃が出来なければ歯が立たないという一面もあるのだが。

 ここで問題になるのは、その数だ。


「こんなに大きな魔物が二匹も……ううん、もう一匹出てきた!」


 巨岩獣は俺達の前方に一匹、そこから少し離れたところにもう一匹現れていた。さらに、クリスティーネの指差す先から、地面を引き裂き三匹目が姿を現したところだ。

 総勢で三匹、俺達だけではさすがに手に余る数である。


 しかし、ここにいるのは何も俺達だけではない。


「巨岩獣か、面倒だな……お前達、やれるか?」


 そこに居合わせた冒険者が、俺へと声を掛けてくる。先程、横目で少し目にした程度だが、この男もそれなりの力量を有しているようだ。少なくとも、巨岩獣に立ち向かえる程度の実力はあるだろう。

 男の問いに、俺は顎を引いて見せる。


「あぁ、一匹は引き受けよう」


「よし、手前の奴は任せた! 野郎ども、奥の奴を狩るぞ!」


 男の声に、周囲の冒険者達から声が上がり、二手に分かれて奥の巨岩獣へと向かう。それを尻目に、俺は正面の巨岩獣へと向き直った。その俺の左右へと、少女達が立ち並ぶ。


「皆、天塔へ行く前にこいつを倒すぞ! 力を貸してくれ!」


「もちろんだよ!」


「早く倒して、先を急ぎましょう!!」


 クリスティーネが剣を構えて空へと舞い上がり、アメリアがナイフを抜いて駆け出す。その様子を視界の端に捕らえながら、俺は魔物へと向けて駆けだした。

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