613話 情報収集と行動指針1
「くそっ、ここもか! 皆、手分けして仕留めるぞ!」
「うん!」
冒険者ギルドへと向かう道すがら、俺は目の前の光景に腰の剣を引き抜いた。そこには宿の前と同じように、通行人を襲う魔物達の姿があったのだ。
ただ、幸いにも騎士や冒険者の姿もあり、幾らかの魔物は既に討伐されていた。残る魔物も、そう多くはない。
それから俺達は騎士や冒険者達と協力し、暴れる魔物を仕留めていく。魔物はどれもさほど強いものではなく、掃討するまでにはそれほどの時間はかからなかった。
魔物の討伐が終われば、負傷者の治療だ。俺はクリスティーネと共に、先程と同じように重傷者へと治癒術を施していく。
治療をしながら、俺は傍に居た冒険者へと問いかけた。
「なぁ、この魔物達はどこから来たんだ?」
「さあな。気が付いた時には、魔物の姿があったんだ。こいつらを仕留めながら走り回って、俺はここでもう三ヶ所目だぞ」
そう言って、男は溜息を吐き出す。
どうやらこちらの男も、俺達のように魔物を倒しながら町を駆けまわっているようだ。男の話によれば、ここ以外にも町の至る所に魔物が現れているらしい。もしかすると、町全体がそう言う状況なのかもしれないな。
だが、この男も魔物達がどこからやって来たのかは知らないようだ。男が外へと出てきたときには、既に魔物がいたという。
そこで、俺は質問を変えてみることにした。
「この空については、どうだ?」
優先すべきは魔物の対処だが、空の様子も無視は出来ない。王都の上空は、未だ半透明の黒い幕に覆われたままなのだ。
この空模様が、魔物達の出現にもかかわっているのだろうか。
しかし、俺も問いに男は首を横に振って見せる。
「いや、そっちもわからねぇな。お前達こそ、何か知らないか?」
「悪いな、俺達も全然知らないんだ」
「そうか」
俺の答えに、男は肩を落とす。
やはり、この空の様子については男も知らないようだ。俺は軽く礼を言い、男の元を離れる。
それから別の騎士や冒険者にも同じ質問をするものの、返ってくるのは似たような答えばかりだった。皆も、俺と同じように情報を集めているところらしい。
「ジーク、こっちは終わったよ! あとね、いろんな人に聞いてみたけど、やっぱり何もわからないみたい!」
「あぁ、ありがとう。こっちも同じだ」
半龍の少女の言葉に、俺は肩を竦めて見せる。他の娘達も聞き込みをしてくれたようだが、何れも空振りに終わったようだ。
それから俺達は、再び冒険者ギルドへと向けて駆けだした。向こうで情報が手に入ると良いのだが。
道行く先々に、魔物達の亡骸が目に入る。こちらの方では、既に戦闘は終わったようだ。時折、負傷者の治療を施しながら、俺達は先へと進む。
そうしてようやく、冒険者ギルドへと辿り着いた。
「人がいっぱいいるの」
フィリーネの言葉通り、冒険者ギルドには建物の外まで人が溢れていた。その多くは冒険者と思しき者達ばかりだが、その中にはいくらか一般人らしき姿も見える。
皆が口々に喋っているのでとても騒々しい。それらに耳を澄ませてみれば、どうやら彼らも俺達と同じように情報を求めてきた者達ばかりのようだ。
この状況を見るに、冒険者ギルド側も事態を正確には把握していないのだろうか。そのあたり、聞いてみればわかることだろう。
俺はざっと集まった人々の顔を見渡してみる。残念ながら、顔見知りはいないようだ。そもそも、俺達はこれまで長らく王都を離れていたからな。顔見知りにしたって、そう多くはない。
「皆、ここで少し待っていてくれ」
俺は少女達を人混みから少し離れたところに残すと、手近な冒険者らしき男へと歩み寄った。
「なぁ、少しいいか?」
「ん、なんだ?」
「ここにいる皆は、冒険者ギルドに説明を求めてきているのか?」
「そうだろうな。何しろ、この状況だろう?」
そう言って、男は天を指し示す。未だ空には黒い幕が掛かり、陽が遮られ町中には影が差している。時刻も夕方を迎え、闇はますます色濃くなり始めていた。
そう思ったところで、そこかしこに設置されている魔術具の街灯がぽつぽつと灯りを付け始めた。今宵は月明かりは拝めそうにないが、ひとまず町が闇に飲まれる心配はなさそうだ。
「それで、何かわかったことはあるか?」
「いや、まったくだ。何せ、こんなことは前代未聞だからな。ギルド側も混乱してるんだろ」
そう言って、男が冒険者ギルドの建物の方へと目を移す。そちらの方では、拡声の魔術具を片手に、必死に声を上げるギルド職員と思しき女性の姿があった。
「ですから、今はとにかく町中の魔物を減らしてください! 王都のあちこちに、魔物が現れているというお話です! 魔物と戦う力のある冒険者の方々は、どうか魔物の討伐に力を貸してください!」
やはりギルド側も、今の状況は把握できていないらしい。ただひたすらに、魔物の数を減らすようにと冒険者達に懇願している。それで事態が解決するのかはわからないが、それくらいしか今は手がないのだろう。
これだけの冒険者がこの一箇所に集まっているということは、その分他の場所は手薄になっているということだからな。
「魔物の討伐報酬はどうなるんだ!」
冒険者の一人から声が上がる。
冒険者の中には名誉を求めている者もいるが、多くは報酬目当てだからな。こういった状況ではあるものの、こういう意見が出るのも自然なことである。
普段であれば魔石なんかが買い取り対象になるわけだが、今は非常事態だ。悠長に剥ぎ取りなどしている暇はないし、俺達が倒した魔物もその場に放置してきている。
事態が収拾した後、そう言った魔物の剥ぎ取りだけをして利益を得ようとする者が出てくるだろうな。そのあたり、冒険者ギルドとしてはどう考えているのだろうか。
「討伐報酬に関しては、後ほど補填することを考えています! 今はとにかく、魔物を倒してください!」
ギルド側としては、現状ではそう告げるしかないのだろう。今を乗り切れるかもわからないのに、これからのことなど考えてはいられないはずだ。
そんなギルド職員の言葉に、少数の冒険者は不満の声を漏らすが、多くの者達は渋々といった様子でこの場を後にし始めた。
彼らにしても、王都の現状を放っておくわけにはいかないのだ。
もちろん自分のことが一番大切だろうし、素行の悪いものも多いのだが、大半はそれなりの正義感というものを持ち合わせている。王都で無抵抗に襲われる市民を見て、何もしないでいられるものは少ない。
そうして、冒険者ギルドの周囲からは結構な人が去った。今であれば、冒険者ギルド内に入ることも可能だろう。
「ジーク、私達はどうするの? 他の人達みたいに、魔物を狩って回る?」
「そうだな……」
アメリアの言葉に、俺は顎先へと手を当て考え込む。
情報を求めて冒険者ギルドに足を運んだわけだが、結局は空振りに終わってしまった。これ以上、ここに留まっても仕方がないだろう。
それならば、俺達に出来ることをするべきだ。俺達にはそれなりの実力があると自負している。俺達の行動次第で、救える人は増えるだろう。
そうして、俺が結論を出そうとした時だった。
「あれを見ろ!」
その場に残った数少ない冒険者が、何やら焦ったような声を上げる。その指差す先へと、俺は視線を向けた。
そこで飛び込んできた光景に、俺は思わず瞳を見開いた。
「なんだ、あれは……」
そこには、天に向かってその背を伸ばす、その身を黒く染めた塔があった。
次回の更新は2023/8/27(日)を予定しております。




