612話 紛れ込んだ魔物4
「よし、ひとまずこんなものだな」
一つ息を吐きだし、俺は剣を一振りし鞘へと納めた。周囲には、無数の魔物達の死骸が転がっている。
とりあえず、見える範囲の魔物はすべて片付いたようだ。
それを確認したところで、たたた、という足音に俺は振り返った。
「ジーク、こっちも終わったよ!」
クリスティーネを始めとした少女達が、俺の方へと駆け寄ってくる。どうやら手分けして魔物の討伐にあたっていた皆も、無事に魔物を掃討したようだ。
そんな声へと俺は片手を上げて応えながら、少女達の様子を眺める。
「あぁ、お疲れ。皆、怪我はないか?」
「平気だよ!」
「余裕なの!」
俺の問いに、少女達は口々に無事を伝えてくれる。やはり、現れた魔物達はそれほどの危険性ではなかったために、皆怪我一つすることなく無事に済ませられたようだ。
見る限りでは、そこまで疲弊している様子も見当たらない。皆、日頃から訓練を欠かしていないからな。まだまだ余裕はありそうだ。
「こいつら、どこから来たのかしら?」
「さて、な」
傍らに倒れる魔物の亡骸を見下ろしながらのアメリアの言葉に返しながら、俺は周囲を見渡す。
俺達の周りには、数多くの魔物の死骸が散乱していた。その魔物達が、どこからやって来たのかは未だ謎のままである。
これが町の端であれば、外壁の一部に穴が空いているといったことが考えられるのだが。王都の外壁は堅牢ではあるものの、古いものだ。一部が老朽化して崩れたとしても、可笑しくはない。
しかし、今俺達がいるのはどちらかと言えば町の中心地に近い方だ。これだけの数の魔物達が、騎士や冒険者に討伐されずにここまで入り込むとは考え辛い。
王都のどこかに、俺の知らない地下通路でも存在するのだろうか。とは言え、王都の地下に空間が広がっているなど、噂話にも聞いたことがない。
この魔物達は、一体どこから現れたのだろうか。
「ジーク、それよりも!」
「そうだな、負傷者の手当てをしよう」
クリスティーネの声に、俺は頷きを返した。
俺達が宿から飛び出してからは、大半の魔物の注意を引くことが出来たが、それでも全てというわけではない。それに、俺達が駆け付けるよりも前に、町の人々は魔物に襲われていたのだ。
道のそこかしこには、魔物に襲われた人々が倒れている。彼らの治療が最優先だ。
「俺とクリスで負傷者の治療をする。クリス、軽傷者は置いて重傷者を優先だ。それも、完全に治す必要はない。何が起こるかわからないからな、ある程度は魔力を温存するんだ」
「うん、わかったよ!」
俺の言葉に、クリスティーネは素直に首を縦に振った。
出来るだけ多くの負傷者を助けてやりたい気持ちはあるものの、今は状況がどう変化するのかわからないのだ。そんな中で治癒術を大盤振る舞いし、魔力を枯渇させてしまうわけにはいかない。
少なくとも、重傷者が命を落とさないくらいまでの治療で済ませるべきだろう。軽傷者には、申し訳ないが自分で何とかしてもらうことになる。教会に行けば、正規の値段で治療を受けられるからな。
「他の皆は、手分けして町の人の状態を確認してくれ。それで重傷者がいるようなら、俺かクリスを呼んでくれ」
「わかったの!」
俺の言葉に、少女達は頷きを返すと四方へと散っていく。その姿を尻目に、俺は手近な通行人へと駆け寄った。
道に倒れていたのは、一人の男性だ。胸を大きく切り裂かれ、仰向けに空を仰いでいる。その顔からは血の気が失せ、既に意識はないようだ。
それでも、まだその男は生きていた。僅かにだが、呼吸により胸が上下している様子が見て取れる。まだ間に合うと、俺は魔力を練り上げ治癒術を行使した。
そうして治療を施し、しばらくしてから魔術を止めた。普段であれば完治するまで治療するところだが、今は命を落とさない程度で十分だ。魔力を節約したいし、何よりほかの重傷者を救う時間が必要だからな。
それから俺は、フィリーネ達から報告を受けながら、重傷者の治療をして回った。残念ながら、治療が間に合わなかった者達も数人いる。俺達が来るよりも先に襲われた者達は、さすがに救うことは出来なかった。
それでも多くの重傷者を救うことが出来たので、俺達が動いたことには意味があったと言えるだろう。
「……これで終わりか」
最後の一名の治療を終え、俺は息を吐きだし腰を上げる。目の前には、若干の傷が残る男性が道に寝転がっていた。痛みは多少残るだろうが、少なくとも命を落とすことはないだろう。
そんな俺の周りへと、クリスティーネを始めとした少女達が再び集まってきた。
「ジーク、これからどうしよっか?」
「一度、お部屋に戻りますか? それとも……」
「……そう、だな」
少女達の問いに、俺はこれからの行動について考える。
このまま外に留まるよりは、室内の方が安全だろう。しかし、町中に魔物が現れるような状況を見て、俺達だけが助かればいいなどとは思わない。
未だ、空は半透明の黒い幕に覆われたままだ。それと関連しているのかはまだはっきりとしてはいないものの、ここ以外にも魔物が姿を見せている可能性は十分にある。
そう言った場所に足を運び、魔物を討伐して回るというのは手の一つだろう。少なくとも、俺達が赴く場所の被害は抑えられるはずだ。
しかし、それで事態が解決するかはわからない。
「……冒険者ギルドに行こう」
「んんっ、冒険者ギルドに行くの?」
「あぁ、冒険者ギルドなら、何か今の状況について情報が集まっているかもしれない」
「そっか、何かわかるかもしれないよね?」
半龍の少女の言葉に、俺は同意を示すように頷きを返す。
冒険者ギルドには、多くの人の出入りがあり様々な情報が集まってくる。今のこの状況についても、何かわかっていることがあるかもしれない。
今はとにかく、情報が必要だ。冒険者ギルドに向かい、これからどうするのか、事態を解決できる手立てがあるのなら助力するべきだろう。
そんな俺の言葉に、少女達も同意をしてくれる。そうして、俺達は冒険者ギルドへと向かい始めた。




