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611話 紛れ込んだ魔物3

「どうした、イルマ!」


 言葉を返しながら、俺は青髪の女の方へと駆け寄った。

 今の声からすると、何か問題が起こったのだろう。女の視線は、窓の外へと注がれている。それなら、宿の外で何か事態が変化したということだ。


 そうして俺はイルムガルトの隣へと並び、窓枠に手をかけ外へと目を向ける。その光景を目にしたと同時、俺は驚愕に目を見開くこととなった。


「町中に魔物が?!」


 そこには、町の人々へと襲い掛かる魔物達の姿があった。

 俺が先程倒した岩獣の他、ワイルドウルフやワイルドボアと言った馴染みのある魔物がそこにはいる。中には角兎のような無害な魔物も、何やらぴょこぴょこと跳ねていた。


「さっきのだけじゃなかったのか?!」


 てっきり、先程の岩獣はどこからか町へと迷い込んだ逸れの魔物だとばかり思っていた。しかし、この光景を見ればそうではないことは一目でわかる。

 先程宿屋に入り込んでいたのは、この魔物達のうちの一匹に過ぎないということだ。


 何れも俺達の手にかかれば敵ではない魔物達ではあるものの、町の人々にとっては十分な脅威である。町を離れることも考えてはいたが、さすがにこの状況を見過ごすことは出来ない。


「助けに行かなくっちゃ!」


 俺の隣で外の様子を見たクリスティーネが、踵を返し部屋の入口へと向かう。


「待てクリス、こっちの方が早い!」


 その背中へと声を掛けながら、俺は窓を開け放った。階段を降りるよりも、窓から飛び降りたほうが断然早い。

 俺達のいる部屋は宿屋の二階だ。身体強化があれば、二階から飛び降りたところでどうということはないからな。


「皆、行くぞ! ……と、イルマはどうする? ここに残るか?」


 窓枠に足をかけ、飛び出しかけた体を寸前で止めた。

 この中で唯一、明確に非戦闘員と言えるのがイルムガルトだ。彼女には一通り身を守れるだけの訓練を施したものの、進んで魔物と戦うことを強要するつもりはない。


 外に魔物がいる以上、一緒に行くとなれば少なからず危険に身を置くことになる。それよりは、ここで一人部屋に残る方が安全だろう。

 イルムガルトが希望するのであれば連れていくが、本人はどう考えているのだろうか。


 そんな俺の問いに、青髪の女は一瞬考え込むような表情を見せ、すぐに軽く首を横に振って見せた。


「いえ、ついて行くわ。ジークハルト達の傍の方が安全そうだし、今は何が起きるかわからないもの。少しくらいなら、私も力になれると思うし」


 イルムガルトの言葉に、俺は頷きを返す。

 確かに、今は王都の空が黒い幕に覆われ、町中に魔物が姿を現わすなどという異常事態の真っ只中だ。宿の部屋に残ったところで、また別の危険に巻き込まれる可能性も否定は出来ない。


 それならば、俺達の傍に居る方が危険は少ないかもしれないな。もし何か起こったとしても、近くにいてくれれば何らかの対処は可能だろう。


「ただ、さすがに飛び降りるのは、ね……私は階段から行くわ」


「それならイルマさん、一緒に行きましょう。私もちょっと怖いですから」


 窓から出ることを躊躇するイルムガルトに、シャルロットが付き添いを申し出る。

 二人の身体強化の練度であれば、二階から飛び降りるくらいは訳がないはずだが、とは言えそれなりに高さがあるからな。尻込みする気持ちも、わからなくない。


「わかった、それなら二人は後から来てくれ。クリス、フィナ、アメリア、行くぞ!」


 俺の言葉に、三人はすぐさま頷きを返した。クリスティーネもフィリーネも、翼があるから空が飛べるために高さの問題などなく、アメリアも身体能力は高いからな。この程度の高さであれば、障害にもならない。

 そうして俺は窓を乗り越え、宿の外へと躍り出た。軽い浮遊感を覚え、次いで衝撃が足裏へと伝わる。


 軽く膝を曲げて衝撃を逃した俺は、すぐさま起き上がり剣を引き抜いた。それに次いで、クリスティーネ達が俺の左右へと軽い音と共に降り立つ。


「手分けして魔物の数を減らすぞ!」


「うん!」


 短い返事を返し、少女達がそれぞれ別方向へと駆け出す。俺自身も、正面の男性へと右手から向かって突進するワイルドボアの方へと走り出した。


「『光の盾(リヒト・シルト)』!」


 身を硬くし、頭部を腕で覆い防御態勢を取る男性の前へと、俺は光の盾を生み出した。その盾へと、ワイルドボアが頭から思い切り衝突する。

 ガツンという衝撃音と共に、ワイルドボアの歩みが止まる。光の盾は割れることなく、男性を完全に守って見せた。


 強力な魔物相手にはなかなか通じず、近頃は頼りない印象を受ける魔術ではあるものの、この程度の魔物には打ち破れない程度には堅牢だ。ワイルドボアが苛立ったように二度、三度と光の盾に頭を打ち付けるが、盾には傷一つはいる様子はない。

 そんな風に足を止めた魔物へと俺は駆け寄り、上段から剣を勢いよく振り下ろす。するりと抵抗なく振り切られた剣は、魔物の首を一撃の下に撥ね飛ばした。


 力を失った魔物が、ぐらりとその体を揺らす。それが地面へと倒れ込むよりも先に、俺は次の獲物へと目を移した。

 魔物はまだまだ数多い。落ち着くのは、周囲の魔物を全て片付けてからだ。

次回の更新は2023/8/13(日)を予定しております。

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