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603話 大女と腕比べ1

 いつもの調子を取り戻したアメリアと、言葉を交わしながら歩くことしばらく。

 それは、そろそろ昼食を食べようかという頃だった。


「なぁガブリエラ! どうなってんだ、誰も来ないぞ!」


 突然、そんな大声が聞こえて来たものだから、俺はアメリアと共に思わず足を止めていた。そうして、声の聞こえた方へと顔を向ける。

 そこには、二人の女がいた。


 一人は、随分と体格のいい大女だった、

 下着に近いような薄着だが、正直、あまり色気は感じられない。曝け出された二の腕は、良く鍛えられていることが窺える太さだ。

 大きな木箱の前にどっかりと腰を下ろし、つまらなそうな顔で両腕を組んでいる。その後ろには、何やら『挑戦者求む!』と殴り書きのような文字が書かれた看板が掲げられていた。


 大女の斜め後ろにはもう一人、細身の女が立っていた。

 なかなか整った顔立ちをしており、頭の後ろで髪を一つに結んでいる。立ち姿は随分と姿勢が良く、身体の前で両手が揃えられていた。


「だから言ったではありませんか。デボラさんは有名ですから、挑戦する人なんていませんって」


「王都には冒険者も大勢いるだろう? あたしのことを知らない実力者だって、まだいると思うんだよなぁ!」


 溜息を吐く細身の女、先程の大女の言葉によるとガブリエラというのだろう。その言葉に、デボラと呼ばれた大女が大きな声を上げる。

 その様子に思わず目を止めていた俺だったが、それが気になったのだろう、アメリアが俺の顔を覗き込んできた。


「なに、ジーク、知り合いなの?」


「ん? いや、俺が一方的に知ってるだけだな。『爆裂ハンマーのデボラ』って言う、有名な冒険者なんだよ」


「爆……なんですって?」


「そう言う二つ名なんだよ」


 怪訝な顔をする少女へと、俺は詳しい説明をする。

 あのデボラという大女は、王都で活躍するSランク冒険者の一人だ。見ての通り恵まれた体格で、女でありながら剛腕として知られている。


 炎槌技の使い手、要はハンマーをぶち当てると同時に爆発を起こして、対象を破壊するのが得意だと聞く。その威力はSランク冒険者の中でも随一だそうだ。

 巨岩獣を一撃で粉々にしたとか、剣術大会にハンマーで出ようとしたとか、寝ぼけて家を爆発させたとか。どこまで本当の話なのかはわからないが、いろいろと噂話に事欠かない人物である。


 そんな話を聞かせてみれば、アメリアは興味深げな視線をデボラへと向けた。

 その視線が気になったのだろう、大女が「ん?」とこちらへと目を向ける。その錆色の目が俺のものと合うと同時、女は表情を明るくさせた。


「おぉっ? あんた、冒険者だな? あたしにはわかる! ちょっとこっちに来な!」


 その乱暴な物言いに、俺は思わずアメリアと目を合わせた。


「ジーク、呼ばれてるけど……」


「何だろうな……まぁ、聞けばわかるか」


 デボラの素行が特別悪いという話は聞かないが、その言葉には単純に迫力があった。Sランク冒険者に睨まれても面倒だし、ここは大人しく従っておいた方がいいだろう。白昼堂々とカツアゲされるようなこともあるまい。

 そうして俺は、アメリアを伴い大女の方へと歩み寄った。


「何か用か?」


「あんた、私と腕比べをしていきな!」


「腕比べか……」


 腕比べというのは、互いに片手を差し出して握りあい、純粋な力の強さを競うものだ。押し負け、手の甲がテーブルへと付いた方の負けである。

 どうしていきなり腕比べなのかと聞けば、単純に暇だったそうだ。どうやら、今はあまり目ぼしい依頼がないらしい。それで、暇つぶしに腕比べの相手を募っていたそうだ。


 しかし、デボラは有名な冒険者だ。その腕っぷしは広く知られており、挑戦者など皆無だったという。

 そこで、たまたま通りがかった俺に目を付けたというわけである。


「デボラさんに勝つことが出来たら、賞金をお渡しします」


「参加料を貰うけどな!」


 彼女達なりに挑戦者を募ろうと、最初から一定の金額と、それまでの挑戦者からせしめた参加料を賞金として渡すつもりだったらしい。

 参加者が増える度に賞金額が増え、それに伴い挑戦者も増える、という目論見だったそうだが、残念ながら失敗したようだ。


「あんたも男なら、彼女の前でいいところを見せようって思うだろう?」


「べ、別に彼女じゃ……」


 デボラの言葉に、アメリアが顔を赤くさせ小さく声を漏らす。

 どうやらデボラは、アメリアの事を冒険者だとは思っていないようだ。少女の今の格好では、とてもではないが冒険者になど見えないからな。デボラのような体格でもしていれば、また別なのだろうが。


「あたしはこれでもSランク冒険者なんだ。直接勝負が出来る機会なんて、滅多にないぞ」


 確かに、Sランク冒険者の実力を知るいい機会ではある。普段の戦う姿など、それこそ闘技大会くらいでしか目にすることはないからな。


「見たところあんた達も今は暇なんだろう? 少しあたしと遊ぼうじゃないか」


 随分と必死な様子である。余程、挑戦者が来ずに暇だったのだろう。断ったら言葉の代わりに拳が飛んできそうだ。

 俺は一つ溜息を吐くと、アメリアへと顔を向ける。


「アメリア、少し待っていてもらえるか?」


「いいけど……勝てるの? この人、かなり強いんでしょう?」


 初めてデボラを目にするアメリアからしても、只者ではないということはわかるようだ。その言葉に、俺は軽く首を横に振って見せた。


「正直、難しいとは思うが、やれるだけやってみようと思う」


 相手はSランク冒険者の中でも、特に腕力に優れたものだ。俺自身はどちらかというと力よりも技を重視する方なので、単純な力比べではまず敵わないと思う。

 しかし、ここまで食い下がられると断るのも悪い気がするし、Sランク冒険者の力の一端を見て見たいという気持ちもある。参加料というのも大した金額ではないしな。


 俺の言葉に、アメリアは小さく頷きを返す。

 それから俺は、大女へと向き直った。


「わかった、勝負を受けよう」


「そうこなくっちゃな!」


 俺の言葉に、デボラはカッと目を見開き、獰猛な笑みを浮かべて見せた。

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