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602話 火兎の少女と待ち合わせ

「きょ、今日は、よ、よろしく……」


「大丈夫か、アメリア?」


 二日前に一緒に出掛けたシャルロットも緊張した様子ではあったが、今日のアメリアもそれと同じか、それ以上に緊張した様子で既に顔を赤くさせていた。

 まぁ、アメリアは何度か酒に酔ったことが原因で、俺に醜態を見せているからな。普段は皆と一緒なのでそこまで気にならないのだろうが、こうやって俺と二人というのは少し居心地が悪いのだろう。


 もしかすると、普段と違う服装をしているというのが原因かもしれないが。

 アメリアの本日の装いは、純白のワンピースという何とも清楚なものだった。少女の赤毛を引き立たせる色合いで、とても良く似合っている。普段は活発な印象の少女だが、今日ばかりは大人しい令嬢のように見えた。


「新しい服だな? 良く似合って――」


 言い掛け、俺はふと言葉を止めた。そう言えば昨日、イルムガルトからはもう少し具体的に褒めるようにと言われたところだった。

 アメリアはそこまで服装に頓着する方ではないと思うが、新しい服自体は気に入っているのだろう。俺としても、喜んでもらえるのであれば、その方がいい。


 改めて、俺は少女の服装をじっくりと眺めてから口を開いた。


「普段の服装も似合っているが、そう言う服も可愛いな。服の白さに、アメリアの赤い髪が良く映えて綺麗だ。今日のアメリアはお姫様みたいだぞ」


 我ながら口にしていて恥ずかしい言葉ではあるが、これでアメリアが喜ぶのならそれでいい。さて、少女の反応はどうだろうか。

 俺の言葉に、アメリアは一瞬、呆けたような様子を見せた。かと思えば、一瞬で顔を赤く染め、少し俯いて見せる。ううむ、少々大袈裟に褒め過ぎたらしい。


「こ、これは、クリス達が似合うって言うから……」


 少女は恥ずかしそうに服の裾を指で弄り始め、小さく声を漏らした。

 もちろんアメリア本人の希望でもあるのだろうが、クリスティーネ達から勧められたようだ。楽しそうに服を選ぶ光景が、目に浮かぶようである。


「あぁ、良く似合ってるぞ。靴も新しいんだな。だが、踵のある靴にはしなかったのか?」


 シャルロットは背伸びをせず普通の靴だったが、フィリーネもイルムガルトも踵のある靴を履いていたのだ。一緒に買い物をしたのであれば、同じような靴を選ぶのかと思ったのだが。

 そんな俺の言葉に、アメリアはとんとん、と靴で軽く地面を叩いて見せる。


「少し履かせてもらったけど、動き辛かったのよね……」


 どうやら靴屋で軽く試させてもらったようだが、合わなかったらしい。まぁ、見るからに歩き辛そうだからな。フィリーネやイルムガルトは、良く平気な顔で歩けていたものである。

 お洒落よりも実用性を重要視するところは、アメリアらしいと思うが。


 そんなことを考える俺を、アメリアが上目で見つめてくる。


「……ジークは、踵のある靴の方が好きなのかしら?」


「いや、そんなことはないぞ。今の靴も、アメリアに合ってると思う」


 そもそも靴にそこまで興味がないというのが本音だが、それは女性に対して言う言葉ではないだろう。おそらく今日のために服も靴も選んでくれたのだろうし、彼女達に対して失礼である。

 強いて言えば、踵のない靴の方が好きではあるな。単に動きやすいから、という理由でしかないのだが。


「そ、そう……それで、今日はどこに行くのかしら?」


「あぁ、アメリアはまだ王都も二回目だからな。今日はいろいろと町を回ってみようと思うんだが、どうだ?」


「えぇ、任せるわ」


 それから俺はアメリアに王都の案内をしようと足を踏み出すのだが、少女から腕を絡められ足を止める。これで相手がフィリーネであればいつものことだし、酒に酔ったアメリアも積極的ではあったが、素面のアメリアにしては珍しい行動である。

 思わず少女の方を振り向けば、アメリアは俄かに顔を赤らめた。


「で、出掛ける時はこうするものだって、フィナが言うから……」


「あぁ、別に構わないぞ」


 嫌なわけではないからな。アメリアがそうしたいというのであれば、好きにさせてやろう。

 ちなみに腕を絡められた感触は、フィリーネほどの柔らかさは感じなかった。アメリアの体型を思えば当たり前のことではあるが、口が裂けても言葉にはできない。


 それから俺はアメリアと共に、王都の街並みを見て回った。初めはぎこちない様子だったアメリアも、時間が経つにつれて慣れてきたようだ。昼が近くなるころには、普段と変わらない調子を取り戻していた。

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