60話 剣術大会 四回戦2
「『閃光剣』!」
冒険者ギルド職員の合図とともに、対峙していたレオンハルトの姿が掻き消える。それと同時に俺は身の危険を感じた。肌をチリリと刺すような感覚に、咄嗟に剣を構える。
「くっ、『残光剣』!」
本能のまま、感じるままに右手側に剣を振れば、硬質な感覚が返った。いつの間にか俺の右側に現れたレオンハルトが、剣を振り切った体勢でいる。レオンハルトの振り下ろした剣に、俺は己の剣を合わせることが出来たのだろう。衝撃に、一歩、二歩と足を下げる。
レオンハルトに追撃するつもりはないようだ。その場に悠然と佇み、感心したような顔を見せた。
「いい反応だ。これまでの対戦相手は、今の攻撃で終わりだったんだけど……うん、楽しめそうだ」
そう言って、少し笑みを見せてくる。
手応えのある相手と戦えて心底嬉しい、といった様子だが、相手をする俺にはそんな余裕などない。今の一撃を防ぐことが出来たのも、半ば勘のようなものである。同じことをしろと言われても、出来る気などしない。
そんな俺の思いなど知らず、レオンハルトはこちらへと向かってくる。
「さぁ行くよ! 『紅蓮剣』!」
「くっ、『流水剣』!」
レオンハルトの炎を纏った剣技に対し、水属性の初級剣技で対抗する。剣と剣が衝突し合い、白い蒸気が立ち昇る。レオンハルトの操る炎の剣は熱量が相当なもので、長時間向かい合ってはいられない。このままでは、剣を握ってもいられないだろう。
俺はたまらず剣を弾き、レオンハルトから距離を取る。
しかし、ずっと防戦ではいられない。とにかく攻め込んで、少しでも隙を見出すべきだ。
俺は再び距離を詰めると、レオンハルトへと剣を突き立てる。大振りはせず、レオンハルトを翻弄するように小さな動作を繰り返して決定的な隙を探す。
しかし、どれだけ攻め込んでも隙など一つとして見つからない。レオンハルトの表情に焦りなどは欠片も見えず、涼しい顔のまま俺の剣を的確に捌いている。
「『絶氷剣』!」
膠着状態を打破するためにも、俺は属性剣技を行使する。斜めに振り下ろされた剣の軌跡を追うように、小さな氷の礫がレオンハルトへと襲い掛かる。
「甘いよ、『烈衝剣』!」
轟、という音と共に掬い上げるように振られた剣が、俺の剣だけでなくその身へと襲い掛かる氷の礫をまとめて薙ぎ払う。同じ中級剣技とは言っても、俺やヴォルフのそれよりも遥かに強い。その剣圧は凄まじく、俺は抗いきれずに大きく剣を弾かれ、無防備な胴体を晒すことになった。
「さらに、『風刃剣』!」
レオンハルトが、その手に持つ剣を真一文字に横へと振る。その速さは手の動きを目で追えないほどだ。
レオンハルトの剣は俺の体には届いていないはずだが、強い衝撃が俺を襲った。レオンハルトの放った不可視の風の刃が、俺の身を防具越しに叩いたのだ。衝撃に、肺の中の息を吐きだし、思わず体勢を崩す。
「終わりだ、『閃光剣』!」
再び、レオンハルトの姿が掻き消える。あれこれ考えている暇はない。俺は感覚を頼りに、半ば闇雲に剣を振るった。
「くそっ、『烈衝剣』!」
斬り上げる形で振るった大振りの剣は、勢いよく空を切り裂いたものの何の手ごたえも返らない。そうして体勢を立て直す前に、至近距離にレオンハルトの姿が現れた。その手に持つ剣は俺の首筋へとピタリと当てられ、俺は身じろぎ一つできない。
「まいった、降参だ」
俺は溜息と共に告げると、手に持つ剣を手放した。剣は音を立てて地面へと転がる。それを見届けて、レオンハルトはゆっくりと剣を引いた。
やはり、勝つことはできなかったか。思った通り、俺とレオンハルトの間には大きな実力の差があるらしい。それでも、多少は打ち合えたことを思えば、そこまで遠い背中ということはないのではないだろうか。
「思った通り、筋は悪くないみたいだ。君はこれからどんどん強くなるだろうし……う~ん、やっぱり、うちに欲しいなぁ」
「勧誘は諦めたんじゃなかったか?」
「そうは言うけどね。ギルドマスターとして、ギルドのためにも、有望な人材は確保しておきたいんだよ」
レオンハルトは心底残念そうにそう言った。そうは言われても、俺の心に変わりはない。
これ以上、ここにいても邪魔になるだけだ。俺は剣を拾うと、待機所の方へと足を向ける。
「俺が言うようなことじゃないかもしれないが、この後も頑張ってくれ」
「もちろんさ。優勝してみせるよ」
別れ際に声を掛ければ、レオンハルトは爽やかな笑顔を返してくれる。実際、俺を相手に全力を出している様子でもなかったので、きっとこの先も勝ち抜けることだろう。精々、戦いぶりを観察して参考にさせてもらうとしよう。
それから、俺は競技場の舞台を後にした。結局、俺の今年の剣術大会は四回戦敗退という結果に終わった。
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