597話 王都の散策
「それじゃジーク、行ってくるね!」
「夕食までには帰ってくるの」
そう言って手を振る少女達へと、俺は手を振り返す。王都へと帰ってきた翌日の朝、軽い訓練と朝食を終えた少し後のことだ。
今日は俺を除いた少女達だけで、王都に買い物に行くらしい。何でも、服を買いに行くそうだ。
女物の服の良し悪しなど、俺には点でわからない。あまりにも奇抜な服であれば別だが、精々似合う似合わないくらいで、二つの服を比べてどっちがいい、などと聞かれてもどっちもいいとしか答えられない程度の感性だ。
しかも、クリスティーネ達だと大抵何を着ても似合ってしまうので、なおさら俺からの意見など必要ないのだった。
もちろん着飾る少女達を眺めるのは、それはそれで目の保養にはなるだろう。しかし彼女達が服を選ぶとなると、かなりの時間がかかることが予想される。
その間、俺は一人で女物の服が並ぶ場所に滞在しなければならないとなると、かなり居心地が悪い思いをすることになるだろう。
男物の服売り場が併設されていればまだマシだが、俺自身、そこまで服に拘りはないし、既に手持ちの分で間に合っている。すぐに飽きて手持ち無沙汰になることだろうな。
そんなわけで、今日のところは一人で行動することにしたのだった。
「さて、どうするかな……」
普段は何をするにも予定を立てて行動する俺だが、今日のところは全くの白紙、無計画であった。特に一人でやりたいこともないからな。
宿の部屋で過ごしても良いのだが、折角王都に帰ってきたのだ。町の様子でも見てこようと、俺は一人宿を後にする。
今日の天気はカラッと晴れており、微風が緩やかに頬を撫でる。外出するには絶好の環境だ。
当ても無く足を勧めていれば、歓声を上げながら駆ける子供達と擦れ違った。今日の王都も実に平和そうである。
町の様子を眺めながら、明日からのことに思いを馳せる。明日からは五日間、少女達と二人で町へと出かけることになるのだ。
そう、五日間もだ。一体どこを回るのが良いのだろうか。
イルムガルトはまだ予定を立てやすい。王都が初めてなのであれば、有名な観光スポットなんかを回るのが良いだろう。有名なだけに、それなりの見応えは保障されている。
しかし、他の四人に関しては王都が初めてというわけではないのだ。主要な施設は一度見て回ったことがあるので、もう一度と言うわけにはいかない。
悩みながら歩みを進める俺の方へと、良い匂いが漂ってくる。目を向ければ、いつの間にやら屋台の並んだ一角へと足を踏み入れていたようだ。湯気を立てる鉄板を前に、太った男が客引きの声を上げている。
クリスティーネと出掛けるのであれば、やはり食べ歩きが良いだろうか。ややワンパターンな気がするものの、間違いなく喜んでくれるので、どうしても候補に挙がって来てしまうのだ。
「シャルとフィナとアメリアはどうするかな……」
王都は広く、選択肢は多い。特に好みを考慮しなければ、いくらでも候補は挙げられるのだ。
とは言え、出来れば楽しんで欲しいからな。あまり興味のないところへ連れて行っても、つまらないだろう。
例えば三人とも、美術品なんかには興味がなさそうなので、美術館などに行っても仕方がない。俺自身、綺麗な絵とかならまだしも、壺の良し悪しなどわからないからな。昔の魔物の化石なんかは、大いに興味をそそられるのだが。
王都の外れには結構大きな動物園というものがあって、そこでは様々な動物を見ることが出来る。確か、無害な魔物なんかもいたはずだ。
あそこであれば、シャルロットも喜んでくれるかもしれない。たまに町で見かける犬や猫なんかを、触りたそうにしているからな。
他には、演劇を見に行くのがいいかもしれないな。王都の劇場では、毎日何らかの演劇が行われているはずだ。あまり見たことはないが、結構評判がいいと聞いている。二人で見るのも、きっと楽しめるだろう。
「他にはコロシアムと、天の塔と、青林公園と――」
目的地の候補を、指折り数えて挙げていく。王都は見所が多く、両手の指では数えられないほどに案がある。その中でも、少女達に喜んでもらえるのはどこだろうかと、俺は考えながら道を歩いていく。
この日、俺は陽が落ちるまで一人王都の中を歩き回るのだった。
評価およびブックマークを頂きました。
ありがとうございます。
「面白い!」「続きを読みたい!」など思った方は、是非ともブックマークおよび下の評価を5つ星にしてください。
作者のモチベーションが上がります。




