596話 懐かしの王都2
「なかなか悪くなかったな?」
軽く腹を擦りながら、俺は隣を歩く少女へと話しかける。俺達は今し方、昼食を取った店から出てきたところだ。
「美味しかったね! これなら私、また来てもいいかも!」
「私にはちょっと、量が多かったです」
笑顔のクリスティーネの隣では、シャルロットが少し苦しそうな表情を浮かべていた。
先程の食事処は、庶民的な店と比較するとほんの少しだけ値段が高かったが、それを補って余りあるほどの量の料理が出てきたのだった。それも牛肉をたっぷりと使用した料理ばかりで、実に食べ応えがあった。
並の男性よりも少し多く食べるであろう俺でさえ、十分に満足する量だった。小食のシャルロットには、少々多すぎたのだろう。頑張って食べてはいたが、さすがに食べきれない様子だった。
そんなシャルロットが残した料理さえ、クリスティーネはぺろりと平らげてしまうのだから、この娘の胃袋には感心するばかりだ。大食い大会にでも出てみれば、ぶっちぎりで優勝してしまうのではないだろうか。
それから俺達は、寄り道をすることもなく予定通り冒険者ギルドへと足を運んだ。久方振りに訪れる王都の冒険者ギルドは、以前と変わらない外観をしている。
年季の入った木製の扉を押し、建物の中へと足を運ぶ。併設された酒場の方からは、いつも通りの喧騒が聞こえてきた。今日も冒険者達は元気に酒盛りをしているようだ。
そちらを一目だけ確認し、俺は受付の方へと足を向ける。カウンターの向こうではいつものように、職員の女性が笑顔を浮かべている。
「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」
「素材の買取をお願いしたいんだ。ただ、ちょっと量が多くてな」
「わかりました、それでは奥へどうぞ」
そう言うと女性は立ち上がり、右手の方へと向かう。
少量の魔石などであればカウンターで買い取ってもらえるが、今回は量が量だ。特にヴァルヴェルヴィルクの毛皮なんて、それ一つだけでもカウンターにはとてもではないが乗り切らないからな。
今回のように、持ち込んだ素材が多かったり大きかったりする場合は、ギルドの奥の部屋を利用するのだ。そっちに向かうのは、ミスリルゴーレムの素材を売る時以来だな。
「それでは、こちらに素材を出してください」
案内された石造りの部屋で、女性からそう声を掛けられる。それから俺達は、手分けして背負い袋から魔物の素材を取り出し、床へと並べ始めた。
一番多いのは、やはり魔石の類だ。大小様々な、色とりどりの石がゴロゴロと床に並ぶ。それから、ホワイトウルフなどの小物の毛皮が並べられていった。
続いて、ホワイトバンキーの毛皮が取り出される。これが以外にも数があり、大きさもそれなりなので結構な幅を取るのだった。
そうして取り出された毛皮に、女性が反応を示した。
「こちらは何の毛皮でしょうか? あまり見たことがないのですが……」
「ホワイトバンキーだよ! 帝国で獲ってきたんだ!」
そう言って、半龍の少女が毛皮の一枚を広げて見せる。
ホワイトバンキーは、気温の低い環境に生息する魔物だ。王都の周りで見ることはまずないので、ここに素材が持ち込まれるようなことも稀だろう。
実際、クリスティーネの言葉に女性は驚いたような表情を見せた。
「帝国に生息する魔物の素材でしたか。あまりこの辺りでは出回りませんから、高値が付くと思いますよ」
そんな風に笑顔で言ってくれた。
元々、そのつもりで帝国で売り払わずに、わざわざ王都まで運んだからな。色々な事情で今のところ金銭には困っていないものの、金が多くて困るようなこともない。
「それじゃ、これなんかはもっと高く売れそうだな。ホワイトバンキーの変異種の毛皮だ」
そう言って、俺は薄青色をした毛皮を取り出した。通常種である白色のホワイトバンキーのものとは異なる、変異種の毛皮だ。
それを目にした女性は、感心したように息を吐きだした。
「変異種の毛皮ですか。素材としての価値も、希少性としても価値がありますからね。通常種の五倍から十倍くらいにはなるかと思います」
変異種の素材を持ち込むのは初めてのことになるが、やはり通常種よりは高値で売れるようだ。もっとも、ホワイトバンキーの素材がいくらで売れるかもわからないので、金額には予想が付かないのだが。
これがシルバーウルフの毛皮とかであれば、貴族なんかが買っていったりするらしいのだけどな。
「それから、最後がこれだ」
そう言いながら、俺はクリスティーネに鞄を持ってもらい、中からずるりと毛皮を二枚取り出し、床へと広げて見せた。白と黒の縞模様が特徴的な、一際大きな毛皮だ。
「この縞模様は……まさか、ヴァルヴェルヴィルクの毛皮ですか?! それも、二頭も!」
「あぁ、そうだ。運良くというべきか、運悪くというべきか、遭遇してな」
「これは、とんでもなく高値で売れますよ!」
何やら女性は興奮した様子を見せている。如何に冒険者が多い王都とは言え、ヴァルヴェルヴィルクのような大物の素材が持ち込まれることなど、そう頻繁にはないだろうからな。
それから女性は、俺達と魔獣の毛皮とを見比べて見せる。
「あの、失礼ですが皆様の冒険者ランクはいくつでしょうか? あまり、ここで見かけたことはないように思いますが……」
そんな風に、少し眉尻を下げた表情で問いかけられる。
王都に努める冒険者ギルドの職員ともなれば、皆、優秀な者達ばかりである。きっとこの女性も、王都の主要な冒険者達については、漏れなく把握しているのだろう。そんな中、記憶にない俺達のことが不思議でならないのだろうな。
「ランクはCだな」
「Cランクですか?! ヴァルヴェルヴィルクはAランクの冒険者でさえ、苦戦するほどの魔物ですよ!」
女性の言う通り、この魔獣はAランク以上を推奨されるほどの凶悪な獣だ。いつの間にやら、俺達はそんな魔物を狩れるほどに力を付けたというわけである。
そう考えると、少し感慨深いものがあるな。
「これらの素材があれば、Aランクの実績には十分です! 冒険者ランクを更新しませんか?」
「そうだな、上げてもらえるか?」
冒険者ランクを上げておけば、ランクの高い依頼を受けられるようにもなる。イルムガルトの故郷を目指す旅に出るため、しばらくは依頼を受けることはないだろうが、特に上げない理由もないからな。
俺の言葉に、女性は笑顔を見せた。
「承りました。冒険者ランクをAランクに上げるには審査がありますので、少々お時間を頂きます。その間に、素材の鑑定も済ませておきますので、また後日起こし下さい」
「わかった、また来るよ」
王都を発つ前に、もう一度冒険者ギルドに寄ればいいだろう。
それから俺達は女性と二言三言、言葉を交わしてから、冒険者ギルドを後にした。
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