595話 懐かしの王都1
大きな門を潜り抜け、俺達は町中へと足を踏み入れる。久方振りに訪れる、王都の街並みが眼前に広がっていた。懐かしの光景に、少し感動を覚える。
「ふぅ……やっと帰ってきたねぇ」
隣を歩くクリスティーネが、一つ大きく背伸びをして見せる。今の彼女は余計な注目をされないよう、龍の翼と尾は隠された人族と変わらない姿をしていた。
それから半龍の少女は、軽く体を曲げてこちらを覗き込んでくる。
「ジーク、まずはご飯に行くんだよね?」
その金の瞳には、期待の色がありありと浮かんでいた。
今の時刻はお昼時、昼食を取るには丁度良い時間帯だ。これから何をするにしても、まずは腹ごなしが先だろう。
「その後は、冒険者ギルドに行くの?」
「そうだな、素材の売却を済ませておきたい」
首を傾げる白翼の少女へと、俺は一つ頷きを返した。
俺達の背負い袋の中には、王都を発ってから今日戻ってくるまでに討伐した素材が、かなりの数収められているのだ。これからイルムガルトの故郷へと向かう旅に出る前に、纏めて売却しておきたい。
中身はオークなどの魔石だったり、ホワイトバンキーなどの毛皮だったりと、その種類も様々である。
その中でも値が付くものと言えば、ホワイトバンキーの変異種の毛皮と、ヴァルヴェルヴィルクの素材だろうな。前者は希少価値的な意味で、後者は単純に素材としての価値があるものだ。金に困っているわけではないが、あるに越したことはないからな。
ちなみに、レイからもらった氷龍の鱗については、今のところ売るつもりはなかった。売れば騒動になるというのももちろん理由の一つではあるが、何よりもレイの鱗だからな。少なくとも、手元に何枚かは残しておきたい。
火兎族の里を発つ際にも、エリーゼにはレイの鱗をいくらか渡していた。彼女も折角レイと知り合えたのだし、出来れば手元に置いておきたいだろう。
最悪、火兎族達が困窮した際に売れば、金銭問題は解決するしな。
もっとも、渡した時の様子を見る限りでは、売り払うつもりはなさそうだったが。何でも、お守りにするそうだ。
それから俺達は、食事処を探して王都の中を歩き始めた。見る限りでは、町並みにはそこまで大きな変化はないようだ。
長らく王都を離れていたとは言え、一年も経ってはいないからな。そのくらいでは、見覚えがないほどに変化があるところなど、限られているだろう。
クリスティーネ達も、ある程度は王都に来たことはあるため、そこまできょろきょろと周りを見渡してはいない。アメリアは確か王都に来るのは二度目だが、前回も少女達と共に町を巡った経験はあるため、そこまで警戒した様子はなかった。
唯一、イルムガルトだけが珍しく興味深げに周囲を見渡していた。
「もしかして、イルマは王都に来るのは初めてか?」
王都に送って欲しいと言っていたので、てっきり初めて来るわけではないと思っていたのだが。
そんな俺の言葉に、イルムガルトは肯定の頷きを返す。
「そうね、厳密には初めてってわけではないけど、こんな風に歩くのは初めてよ」
その口振りからすると、奴隷として連れまわされている間に王都に来たということなのだろう。そのあたり、あまり深く聞くことは憚れるため、出来るだけ触れないようにしているのだ。今回も、俺は「そうか」と軽く流すことにした。
「それなら、しっかりと案内してやらないとな」
まだ何日目になるかはわからないが、イルムガルトとも二人で出掛ける予定なのだ。初めての王都なのであれば、見所も満載である。どこに行くか、厳選が必要だな。
「あら、期待させてくれるじゃない。楽しみにしてるわよ」
そう言って、青髪の女は不敵に笑って見せた。何と言うか、大人の余裕のようなものが見えるな。実際、俺よりはずっと大人なわけだが。
「当たり前だけど、帝都とはまた違うわね」
「なんていうか、建物から違うよね?」
「そもそも気候が違うからな」
帝都は氷雪帝国と言うだけあって、雪の多い場所だったからな。それに比べて、王都は冬でも雪が降ることは稀だ。
帝国の建物は降り積もった雪で潰れないよう、傾斜が急な屋根ばかりだった。それに比べれば、王都の建物は緩やかな屋根ばかりである。
全体的に見れば、王都の方が人通りが多く賑やかな雰囲気だろうか。帝都は寒かったので、建物の外よりも内に人が集まっていたからな。
それに引き換え、今の王都は春真っ盛りと言った気温で、ぽかぽか陽気に包まれている。右手に見える公園では、薄着に身を包んだ男女がベンチに腰掛け、談笑している姿なんかが見られた。
「う~ん、どこがいいかなぁ?」
隣を歩くクリスティーネが、周囲を見渡しながら言葉を漏らす。
俺達が食事をする店は、最近は専らクリスティーネが決めている。本人の希望というのもそうだが、初めて入る店でも不思議と美味しい店ばかりに当たるのだ。
「んん、あそこがいいかも!」
半龍の少女が声を上げ、前方を指差した。その示す先を追いかけた俺は、思わず片眉を跳ね上げた。
そちらには、牛の頭部に人間の上半身、それも筋骨隆々というとてつもなく人目を惹く看板が掲げられていたのだ。太い両腕に支えられた文字盤には、『肉々堂』という文字が彫られている。
店先にメニュー表が出ている当たり、食事処であることは間違いないのだろう。牛の頭に人間の体というとミノタウロスが思い浮かぶが、まさかそいつの肉ということはないはずだ。たぶん、普通の牛肉が出てくる、と思う。
以前にはなかったと記憶しているから、最近新しく出来た店なのだろうな。
「何と言うか、前衛的ですね?」
言葉を選んだシャルロットが、隠しきれない苦笑を滲ませている。なかなか個性的な外観ではあるが、少なくとも人目を惹くことには成功していそうだ。
「入ってみるか。一度くらい、試してみても悪くはない」
見かけはあれだが、こういう店が意外と美味かったりすることもあるものだ。少なくとも、食べられないくらいに不味くなければ、腹は満たせる。
俺の問いに、少女達も異論はないようだった。そうして、俺達は店内へと足を踏み入れた。
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