594話 王都への帰り道2
突然の少女の言葉に、俺は思わず首を傾げて見せた。
「デートって言うと……つまり、出掛けたいってことか?」
もちろん、王都に着いたら身体を休めたいところだが、何もずっと宿に引き篭もっているつもりはない。食事だったり魔物の素材の売却だったり、外出する用事はいくらでもある。そうでなくても、気分転換に遊びに行くくらいはするだろう。
それに対してフィリーネは、否定するようにゆるゆると首を横に振って見せた。
「ただ出掛けるだけじゃないの。ジーくんと二人だけでお出掛けしたいの!」
「俺と二人でか?」
鸚鵡返しに問いかければ、少女からは頷きが返った。
そうは言っても、俺達は旅の間は常に一緒にいるのだ。何も好き好んで、町にいる時も一緒に行動をする必要はないと思うのだが。
まぁ、一人というのは気楽なところもあるが、寂しさも覚えるからな。誰かと一緒に居たいという気持ちも、わからなくはない。とは言え、全員で行動するとなると、旅の間と違って足並みはそろわないかもしれないからな。
それにしたって、クリスティーネ達とでも構わないと思うのだが。
「まぁ、別にいいけどな」
フィリーネが望むのであれば、二人で出掛けるというのもいいだろう。旅の間ではできないような、相談事でもあるのかもしれないしな。
俺の言葉に、白翼の少女は静かに拳を握って見せた。そんな少女を見て、慌てた様子を見せたのはクリスティーネだった。
「そ、それなら私だって、ジークと二人でお出掛けしたい!」
「クリスもか? もちろんいいぞ、一緒に町を回るか」
フィリーネとは出掛けるのに、クリスティーネとは出掛けないなどという選択はあり得ない。特に、クリスティーネとは長い付き合いだからな。一緒に出掛けたとしても、変に気負うような必要もない。
俺の言葉に、クリスティーネはぱっと花が開くような笑顔を見せた。これが見られただけでも、一緒に出掛ける価値はあるな。
さて、それぞれが二人で出掛けるのであれば、日を分けたほうがいいだろうな。折角だ、一日たっぷりと遊び尽くそうではないか。
しかし、二人は特別意識をしているわけではないのだろうが、仮にもデートと言うのであれば、無計画というのもどうかと思う。ただ二人で町をぶらぶらとするのは、それはそれで楽しいだろうが、出来れば簡単な予定くらいは立てておきたいものだ。
さて、どうしたものかと考え始める俺だったが、すぐに別からの視線を感じてそちらへと目線を向けた。何やらそちらでは、シャルロットとアメリアが、何やら期待するような色をそれぞれの瞳に浮かべている。
アメリアはともかくとして、シャルロットの方はわかりやすいな。
「シャルも、俺と一緒に出掛けたいか?」
問いかけてみれば、氷精の少女は頬を薄く染め、こくこくと小さく首を縦に振って見せた。
この子が俺の事を慕ってくれていることくらい、俺もよくわかっている。俺にとっても、冒険者の弟子という面もあるが、妹みたいなものだからな。たまの休みくらいは、戦いを忘れて楽しませてやりたいところだ。
次いで俺は、布団に横になる赤毛の少女を見下ろした。
「アメリアもなのか?」
「なんっ、べ、別に深い意味はないわよ! ただその、みんながジークと二人で出掛けるって言うなら、私だっていいじゃない! 何よ、ジークは嫌なの?!」
俺の問いに、アメリアは焦った様子で顔を赤くさせた。何やら怒ったような様子ではあるものの、俺と出掛ける気はあるようだ。
「いや、断らないけどな?」
アメリアが俺と出掛けたいというのであれば、特に断る理由もない。何も無理して二人で出掛ける必要はないと思うが、本人から希望するあたり、嫌と言うわけではないのだろう。
しかし、四人共が二人で町に出ることを望むのであれば、最後の一人にも伺っておいた方がいいだろう。
「イルマはどうする? もちろん、無理にとは言わないが」
俺とイルムガルトの仲が悪いということはないが、他の少女達と比較すると、二人きりで出掛けるような間柄ではない。イルムガルトの性格からしても、別に俺と二人で出掛けることを望むとも思えないしな。
とは言え、女性陣の中でイルムガルトにだけ聞かないというのは、失礼だろうからな。あくまで、形だけの確認のつもりだ。
そんな風に、俺としてはいつものように素っ気ない答えが返ってくるものだと思っていたのだが、イルムガルトは少し悩むような素振りを見せた後、首を縦に振って見せた。
「……そうね、たまには二人で出掛けてみようかしら。デートって言うからには、楽しませてくれるんでしょうね?」
そう言って、どこか挑戦的に笑って見せるのだった。そんなことを言うものだから、俺は思わず言葉を詰まらせる。まさか、了承されるとは思いもしなかった。
とは言え、俺から誘っておいて今更断ることなど出来るはずがない。
「……善処しよう」
そう、なんとか言葉を捻り出すのだった。ただ町へと出掛けるだけのはずが、一気に敷居が高くなった気がする。
ううむ、と悩み始める俺を余所に、少女達はイルムガルトへと詰め寄った。
「イルマちゃん、なんていうか、珍しいね? まさかとは思うんだけど……」
「イーちゃん、そういうことなの?」
「別に、深い意味はないわよ。貴方達だって、そうでしょう? ただ、二人で街に出掛けるだけ」
少女達の問いに、イルムガルトは肩を竦めて見せる。実際、その通りだからな。俺達の仲だ、変に意識するような必要はないだろう。
青髪の女の言葉を受けた少女達は、少し悔しそうな表情で唇を噛んだ。何やら丸め込まれたような様子だ。イルムガルトも、少し揶揄うような口調なあたり、どこか面白がっているようだ。
「それじゃ、皆と出掛けるとして……そうだ、順番はどうする?」
別に誰が最初で誰が最後でも特に変わりはないだろうが、出掛ける順番くらいは決めておく必要がある。特に拘りなどがなければ、くじなどで決めてしまうのが早そうなものだが。
そんな俺の言葉に、白翼の少女が片手を上げた。
「それはフィー達の方で決めておくの! ジーくんとお出掛けする前に、フィー達だけでお買い物に行ってくるの!」
どうやら先に俺を除いた女性陣だけで買い物に行き、その間に決めておいてくれるそうだ。俺としても考える時間が欲しいので、助かる提案である。
こうして、王都滞在中の大まかな予定が決定した。
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