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59話 剣術大会 四回戦1

 しばらくの休憩の後、俺は再び競技場に足を踏み入れていた。もうすぐ、剣術大会の第四回戦が始まる。このくらいになると、たまたま勝ち進んだような者は居ないため、間違いなく実力者が相手になるだろう。はたして、俺に勝てるだろうか。

 そうして、いくつかに分けられた競技場の円の中で対峙した相手を見て、俺は己の目を疑った。目の前にいる男の事を、俺は知っている。


 光を反射するプラチナブロンドの髪、美術品のような顔の造形、俺を射貫く瞳の鋭さ。ただその場に佇んでいるだけだというのに、圧倒的な存在感を感じる。Sランクギルド『頂へ至る翼』のギルドマスターであり、己自身もSランクの冒険者であるその男。名をレオンハルト・エーベルヴァインという。

 不可視のエネルギーでも放っているのではないかと疑う俺の前で、その男は静かに口を開いた。


「やあ、ジークハルトくん。四回戦の相手は君か」


「……そうみたいだな」


 俺は若干、口調に諦めを含めてそう答えた。それも仕方のないことだろう。

 はっきり言って、勝ち目がない。目の前の男は、三回戦で戦ったヴォルフなどとは比較にもならないほどの実力者だ。もちろん、俺にとっても圧倒的な格上である。ここで当たることになるとは、俺自身のくじ運の無さを嘆くほかないだろう。

 そんな俺の心境を知ってか知らずか、レオンハルトは俺へと笑いかけてくる。


「そうそう、丁度、君のことを探していたんだよ」


「俺を?」


 ヴォルフと言い、心当たりのない相手ばかりが俺の事を探しているようだ。もちろん、ヴォルフとは別の要件なのだろうが、一体俺に何の用だろうか。そもそも、俺の名前を知っていることからして意外である。このレオンハルトとは、ヴォルフ以上に接点などなかったのだが。

 そうした疑問が思い浮かぶ中、レオンハルトは言葉を続ける。


「以前、君の事をギルドに勧誘したことは覚えているかい?」


「……そう言えば、そんなこともあったな」


 随分と前の出来事だ。まだ、俺が『英雄の剣』に所属していた時の事である。俺が王都を歩いている際に、レオンハルトから声を掛けられたのだ。

 内容は、レオンハルトがギルドマスターとして君臨するギルド『頂へ至る翼』に入らないか、というものだった。何でも、レオンハルトはどこで聞いたのか、俺の持つ『万能』のギフトを高く評価しているらしい。

 その頃は俺自身、今ほどの力もないために分不相応だと思ったし、既にギルドに所属していたため丁重に断りを入れたのだった。レオンハルトと会ったのは、その時が最後である。


「ギルドを辞めたと聞いたよ。それなら、うちのギルドに入らないかい?」


「ギルドにか……」


 どうやら、まだ俺をギルドに入れることを諦めていなかったらしい。別に俺は有名人というわけではなかったのだが、誰からギルドを辞めたことを聞いたのだろうか。まぁ、『英雄の剣』のギルドメンバーは俺が辞めたことを知っているため、そこから話が漏れたのだろう。

 それにしても、何故レオンハルトは俺に拘るのだろうか。俺自身『万能』のギフトは、いろいろ出来て便利だな、とは思うものの、是非欲しいと思われるほどのものだとは思わない。有用なギフトを持つ人材は、他にもいるだろう。わざわざ俺に声を掛ける理由は謎である。


 さて、ギルドに入らないかという話だが、別に悪い話ではない。ギルドに入ればギルドメンバーからいろいろな情報を仕入れることが出来るし、普通には受けられないような、ギルドに来る指名依頼なども受けることが出来る。そう言った面では多くのメリットがあると言える。

 反面、ギルドのルールには従う必要があるだろう。余程の実力者でもなければ、フリーの冒険者に比べて自由度は減るのではないだろうか。そして、俺は決して余程の実力者でもない。


 それを思うと、今はまだギルドに所属したいとは思わない。クリスティーネをあちこちに連れていく約束はあるし、シャルロットにはまだいろいろと教えることがある。ギルドに入って二人と離れることを考えると、今はそれよりも二人と一緒に歩みたい。

 自分の気持ちは決まりだ。悪い話ではないのだが、今回は見送らせてもらおう。


「悪いが、ギルドには入らない。もう少し自由でいたいんだ」


 俺がそう答えれば、レオンハルトは少し残念そうな表情を見せる。


「そうかい。あまり束縛する気もないんだが、確かに面倒事に縛られることもないわけじゃないからね……」


 そう言って、二度、三度と頷きを見せる。レオンハルトはギルドマスターだ。普通のギルドメンバーよりも、ギルドを運営するにあたってやらなければいけないことがあるのだろう。なにやら面倒事とやらを思い出すような表情だった。ギルドマスターと言うのは、そんなに軽い肩書ではないのだ。


「仕方がない、今回は諦めよう。けれど、もしどこかのギルドに入りたいと思ったら、その時はうちに来てくれないかい?」


「わかった、覚えておくよ」


 俺がそう返せば、レオンハルトは満足そうに頷いた。そんな風に引き際を弁えている姿は、ヴォルフと比較しても余程好感が持てる。

 今のところそのような予定はないのだが、いつかまたギルドに入りたいと思うかもしれない。その時は、頼らせてもらうのもいいかもしれない。レオンハルトのギルドは『頂へ至る翼』というSランクギルドだ。それに見合うだけの実力が俺にあるとは思えないが、所属するには最高環境のギルドである。


「さて、それじゃあそろそろ始めようか」


 そう言ってレオンハルトが剣を構えて見せる。話は終わりだということだろう。


「いい機会だし、君の実力を測らせてもらうよ」


「いや、どうだろうな。胸を貸してもらうよ」


 正直に言うと、自身がない。俺自身、強くなった自覚はあるものの、未だレオンハルトには遠く及ばないはずだ。瞬殺されないか心配なくらいである。それでも、せめて足掻くくらいはさせてもらおう。

 そうして、四回戦が開始された。

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