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589話 復興のお手伝い2

「ふわぁ……改めて見ても、大きいねぇ」


 目の前に横たわる巨躯を眺め、私は思わず溜息を吐きだした。

 私達の目の前には、村を襲ったヴァルヴェルヴィルクの死骸が転がっている。改めて見ても、とんでもない大きさである。最終的に私は負けてしまったが、短時間とは言え良く一人でこれを抑えられたものだ。


「これが、もう一頭分あるんですよね」


「そうだね、シャルちゃん。あ~あ、ついて行きたかったなぁ……」


 隣で同じように魔獣の亡骸を見つめるシャルロットの言葉に、私はもう一つ溜息を吐きだした。

 ここに、ジークハルトの姿はない。彼はフィリーネとアメリア、それに火兎族の男衆を引き連れて、森の中にあるもう一頭の魔獣の元へと向かった。村へと亡骸を運んでくるためだ。


 出来れば私もついて行きたかったのだが、ジークハルトから私とシャルロットはお留守番だと言いつけられてしまったのだ。

 私自身、自分が万全の状態ではない自覚はある。昨日みたいに強力な魔獣が出ることはないと思うが、万が一にも迷惑はかけられないので、大人しく村に留まることにしたのだった。


「仕方がありませんよ、クリスさん。出来ることをやりましょう?」


「そうだね! まずは魔獣の解体だよっ!」


 私は大きく片腕を回して見せる。これでも、力仕事は得意な方だ。ヴァルヴェルヴィルクの解体は大仕事だろうが、きっと役に立てるだろう。

 そんな風に張り切って臨もうとしたのだが――


「いえいえ、クリスさんはどうぞ見学していてください!」


「これは俺達でやりますから!」


 そんな風に火兎族の男性達から口々に言われ、魔獣に近付くことも出来なかった。

 別に私の事を邪険にしているとかそんなことではなく、純粋な好意のようだ。どうやら私達の手を煩わせないようにという取り計らいらしい。


 普段、狩った魔物の解体なんかもしているのだろう、火兎族の男性達の手は淀みのないものだった。あっという間に解体の準備が整い、私とシャルロットは手出しが出来ない。

 そんな様子を見て、私は氷精の少女と顔を見合わせた。


「う~ん、やることなくなっちゃったね?」


「まだ、お家の片付けがありますから」


 それもそうだと、私はシャルロットと共に崩れた家屋の方へと向かった。魔獣の解体は出来なくても、廃材を片付けたり、建築用の木材を運んだりなんかを手伝えばいい。

 そうしてやって来たのは、昨日、魔獣が暴れ回ったあたりだ。出来るだけ周囲に被害が出ないように立ち回ったつもりだが、暴れる魔獣を制御することなんか無理な話で、何件かの家が吹き飛んでしまっている。


 昨日のうちに、火兎族達の手により小さな瓦礫なんかは纏められているが、まだまだたくさんの廃材が散乱している。ひとまずこれらを、まだ使いまわせるものと薪とかにするものとで、分けていけばいいだろう。

 そうしてシャルロットと共に、片付けを始めたのだが――


「こういったことは俺達に任せてください!」


「クリスさん達は休んでいてくれ!」


「後でお菓子を持っていくよ!」


 そんな風に、魔獣の解体現場と同じように声を掛けられ、手にした廃材を取り上げられた。手伝うというのだが、火兎族の男性達は一様に首を振るのみである。

 仕方なく、私はシャルロットと共に天幕の方へと戻ってきて、昨日横になっていた敷き布の上へと腰を下ろした。


「う~ん、そこまで負担じゃないんだけどなぁ……」


 膝を抱え、私は小さく溜息を吐く。確かに体調は少し悪いが、簡単な作業くらいは手伝えるのに。

 私はそんなにひ弱に見えるのだろうか。いや、火兎族の男性達は昨日、少なからず戦う私の姿を見ていたはずである。あれを見ていれば、そんな心配は不要だと思いそうなものなのだが。


 むぅ、と小さく唸る私に、隣に座るシャルロットが苦笑を向ける。


「クリスさん、大人気でしたね?」


「そうかなぁ……あれ、そうかも?」


 思い返してみれば、火兎族の男性達は私にばかり構っていた。見た目からすると、シャルロットの方を気遣いそうなものなのに。この小柄な少女は、見ていると何とも庇護欲をそそられるのだ。

 それなのに、どうして私にばかり話しかけてきたのだろうか。


「クリスさんは、この村の英雄ですからね」


「でも私、負けちゃったよ?」


 シャルロットの言葉に、私は首を捻る。

 私が単身、魔獣を仕留めていれば英雄扱いにも納得がいくが、実際には負けたのだ。それも、一度ならず二度までも。


 魔獣を仕留めたのは、私ではなくジークハルト達である。私は彼らと一緒に戦うことも出来なかった。

 そんな私に対して、どうして火兎族達はあそこまで遠慮するのだろうか。嫌って欲しいわけではないが、せめて普通に接してほしいのだが。


 そう思う私に、シャルロットはかぶりを振って見せた。


「みなさん、ちゃんとクリスさんが頑張ってくれたことをわかってるってことですよ」


 少女が言うには、私が一人で魔獣に対抗したことが、火兎族達の中に強く印象として残っているらしい。

 確かに、あの時はまだ避難もままならない状況で、目撃者は大勢いた。ジークハルト達が戦っている時には避難が進んでいたので、彼らよりも私の戦う姿を見た者の方が多いだろう。


 なるほど、それならば確かに、自分達を守ったのが私だと思っていてもおかしくはない。実際、彼らを守るために私は行動したので、それも決して間違ってはいないのだが。

 ただ、魔獣を倒したのまで私だと勘違いしていないか心配である。ちゃんと、ジークハルト達が倒したという事実が、伝わっていればいいのだが。


「あれ? クリスちゃんにシャルちゃん、こんなところでどうしたの?」


 今日はこれからどうしようかな、などと考えているところに声を掛けられた。

 見上げてみれば、そこにはエリーゼとイルムガルトの姿があった。二人とも、その腕には何やら野菜が積まれた桶を手にしている。


「あなた達、魔獣の解体に行ったんじゃなかったの?」


「それが、断られちゃって……」


「皆さん、私達には休むように仰るんです」


「あ~、みんなの気持ちもわかるなぁ」


 私達の言葉に、エリーゼが苦笑を漏らす。この少女から見ても、彼らの行動は妥当らしい。

 そこでふと、何かを思いついたように少女が表情を変えた。


「そうだ! それなら二人とも、私達と一緒に料理をしない? 魔獣の解体とか家の片付けとか、やってくれる人向けに大鍋でご飯を作るんだ!」


「うん、手伝う!」


 料理とは、何とも私向けの仕事である。ジークハルト程に上手くはないが、これでも量を作るのは得意なのだ。特別体を動かすような事でもないので、今の私やシャルロットでも気軽に手伝えるというのもいい。

 こうして私は、シャルロットと共にこの日は二人の手伝いをして過ごすのだった。

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