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583話 火兎族の里の防衛1

「無事か、クリス?!」


 ヴァルヴェルヴィルクの前脚を受け止めながら、俺は後ろ目でクリスティーネの状態を確認する。

 幸いにも、半龍の少女の体には激しい流血などは見られない。無論、細かい裂傷は数多くあるが、少なくとも命に別状はなさそうだ。その事に、俺は小さく安堵の息を漏らす。


 しかし、すぐには動けない様子だ。先程、魔獣によって地に叩き落とされた衝撃と、魔力不足のためだろう。出来るだけ早く、この場から遠ざける必要がある。


「クーちゃん!」


 フィリーネがクリスティーネの傍へと降り立ち、その体を抱き起こす。クリスティーネはその手を借りながら上体を起こし、俺とフィリーネとを交互に見た。


「ジーク、フィナちゃん……」


「よくやったぞ、クリス。後は俺達に任せろ。フィナ、ひとまずクリスを安全なところへ!」


「ん!」


 俺の言葉に、白翼の少女は短く声を返すと、半龍の少女を抱えて背の翼を広げる。そうして少女を抱えたまま、戦場から飛び立った。

 そんな格好の獲物を、ヴァルヴェルヴィルクは逃そうとしない。俺を押さえつけていた前脚を除けると、少女達へ追い縋らんとその身を低くする。


 もちろん、俺がそれを許すはずがない。


「『巨岩剣』!」


 強魔水によって底上げされた魔力を瞬時に練り上げ、岩の大剣を生み出す。それを力任せに魔獣へと叩きつければ、出鼻を挫かれた魔獣はその質量に押され、低い声を上げながら後方へと転倒した。

 その間に、少女達は無事に離脱を果たす。


 そうして俺は、一人でヴァルヴェルヴィルクへと向き直った。その状態を、改めて眺める。

 一目見ただけでも、クリスティーネの奮闘振りが窺える姿だ。あの少女は、決して防戦一方だったわけではない。


 ヴァルヴェルヴィルクの体には、大小様々な傷跡が刻まれていた。白黒の縞模様には、あちらこちらに赤い色が滲んでいる。

 爪は欠け、鋭い牙の半分ほどが折れているのがよくわかる。荒い息遣いからも、体力の消耗が見えた。


 それでも、極めて危険な魔物として知られているだけはあるということか。その身のこなしを見るに、動きには未だ陰りが見えない。

 周囲に他の人影がなくなったためか、魔獣の注意は俺へと向いている。ヴァルヴェルヴィルクはその濁った瞳に俺の姿を映すと、一つ大きく咆哮を上げ、その身を低く向かってきた。


 魔獣の巨躯での突進ともなれば、如何に身体強化と龍鱗を合わせた筋力でも迎え撃つのは難しい。腕の一振りであればともかく、体重差は埋めようがないのだ。

 故に、俺は地の一蹴りで魔獣の延長線上から瞬時に逃れた。龍鱗を纏った動きは平時よりも遥かに早く、慣れていなければ制御が効かないほどだ。


 しかも、今は強魔水の効力によって魔力が底上げされている。一度に使用できる魔力の量が増えているが、その分少し不安定になるのだ。

 俺は自身の扱えるギリギリの速度で、魔獣の側面へと回り込んだ。そのまま反転し、手に持つ岩剣を大上段から振り下ろす。


 ヴァルヴェルヴィルクは俺の動きに反応しきれず、曝け出した脇腹へと大剣の一撃を受けた。魔力によって造られた岩塊は十分な質量を備えており、魔獣の体を軽々と地に転がした。

 それでも魔獣は、すぐさま頭を振りながら起き上がって見せる。本当に、無尽蔵の体力を有しているとしか思えないな。


 それから俺は魔獣が二度、三度と振るう尖爪を、躱し、往なし、時には真っ向から手にした岩剣で弾き返した。足さえ止まれば、膂力自体は互角、否、俺の方が上回っているだろう。僅かながらも、形勢は俺に傾いている。

 けれど、この魔獣は先程森で倒したよりも強力な個体なのか、想像以上にしぶとい。クリスティーネの与えた損傷も加えれば、既に倒れてもおかしくはないほどだ。だというのに、魔獣は微塵も疲れを感じさせない動きを見せている。


 俺は内心で舌打ちをしながらも、必要以上に魔獣へと踏み込まない。いくら龍鱗に守られているとはいえ、魔獣の一撃をまともに受ければそれだけで致命傷となりかねないのだ。

 何も、俺一人でヴァルヴェルヴィルクを仕留めなければならないわけではない。


「ジーくん、おまたせなの!」


 もう何度目か魔獣を転倒させたところで、フィリーネが戻ってきた。腰の双剣を抜き放ち、既に臨戦態勢に入っている。

 どうやら無事にクリスティーネを送り届けてきたようだ。


 そこへ、アメリアが立ち並ぶ。


「遅くなったわ」


「いや、問題ない。薬は飲んだか?」


「えぇ。慣れない感覚だけど、いけると思う」


 アメリアも、シャルロットとカイを避難させてきたらしい。既に強魔水は服用しているようだ。薬を飲むのは初めてらしく、少し感覚に違和感があるようだが、その紅の瞳はやる気に満ちている。


「よし、行くぞ」


 これまでのは籠手調べ。

 二人の揃った、ここからが本番だ。

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