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580話 半龍の少女と縞牙獣再び1

「『光龍青嵐剣』! でぇぇぇぇぇい!」


 光の魔力が龍となり、剣に宿りて魔獣を圧倒する。

 風の魔力が嵐となり、逆巻く大気に獣の巨体が僅かに浮き上がる。


 全力を込めた私の一撃は、巨獣の側面へと豪快に叩き付けられた。渦巻く魔の力が衝撃となり、巨獣を大きく後退させた。

 これまでにも、幾度となく浴びせかけた攻撃だ。そのおかげで、ヴァルヴェルヴィルクを村の淵まで追いやることには成功した。その体躯にも、無数の傷を刻みつけている。


 だが、魔獣は一向に倒れる気配を見せない。その瞳は陰ることなく、私の姿を捉えている。一体、いつまでこの戦いを続ければいいのか。

 村の端まで押し込むまでにも、何度となく危うい場面はあった。ヴァルヴェルヴィルクの大きな爪が、牙が、何度も私の体を掠めた。


 それでも私が無事にこうして魔獣と相対できているのは、強化された龍鱗に護られているからこそだ。強魔水の効力により普段よりも厚くなった魔力の鱗は、魔獣の爪牙から私の体を守ってくれていた。

 身体強化との相乗効果により、魔獣の膂力を上回るほどだ。ひとまずこのまま、村の外まで弾き出してしまおう。


 そう考え、ヴァルヴェルヴィルクへと突撃を掛ける私の視界に、赤い球が映った。その軌跡を追ってみれば、そこには火兎族の青年の姿があった。

 彼なりに、火兎族の里を守ろうと勇気を振り絞っているのだろう。けれど、青年の放った魔術は強大な魔獣に対しては脆弱に過ぎた。


 炎弾が魔獣に着弾し、小さな爆発を起こす。けれど、それは結果として魔獣の白黒の毛を僅かに焦がすに留まった。

 だがそのことに、魔獣の瞳が青年へと向かう。


「ひっ」


 ヴァルヴェルヴィルクに見据えられた青年が、びくりと体を震わす。その怯えを見て取ったのか、魔獣は一気に青年へと向けて距離を詰めた。

 当然、私はそれを黙って見ていることなんて出来ない。私は強く翼を打ち付け、両者に向けて鋭く加速する。


 光の粒子を散らしながら、私は己の手にする長剣へと魔力をどんどんと流し込んでいく。

 青年の元まで辿り着いたヴァルヴェルヴィルクが、その巨腕を振り上げた。


「『極大光剣』!」


 私が声を張り上げれば、長剣を軸に、私が両手を広げたほどの幅広の光の刀身が生み出される。その長さは私二人分から三人分ほどにもなるほどだ。

 ぐっと魔力が減じる感覚を覚えながら、私は魔獣へと向けて飛翔する。


 巨大な魔力剣は、見かけほどには重くはない。とは言えその大きさ故に、それなりの重量はある。通常なら振り回すのも一苦労だ。

 それも、身体強化と龍鱗を纏った今であれば、軽々と振るうことが出来る。


「でりゃぁぁぁぁぁ!」


 気合と共に、光剣を一閃する。

 唸りを上げた一撃は、青年へと振り下ろされかけた魔獣の腕へとぶち当たった。


 ぐっと抵抗を感じながらも、私は力任せに剣を振り抜いた。魔獣がその巨体を押され、後ろに一回転する。

 豪快に吹き飛んだものの、それほどのダメージではないだろう。それは、すぐに立ち上がった魔獣が頭を振る動作からも見て取れた。


「下がってて!」


 私は青年へと声を掛けながら、光剣を手にしたままヴァルヴェルヴィルクへと追撃を掛ける。翼で強く空を叩けば、私の身が一気に速度を増した。

 そのまま、魔獣へと擦れ違うようにしながら、その顔面に向けて光剣を薙ぎ払う。


「――っ!」


 その途上、振り抜く途中の体勢で、私は中空で動きを止めることとなった。

 見れば、ヴァルヴェルヴィルクが己の鋭利な牙で、私の光の大剣を噛み止めている。どれだけ力を込めても、翼で羽ばたいても、それ以上押し込むことが出来ない。


 魔獣は光剣を噛み砕こうとするかのように、ガチガチと噛み締めたまま牙を鳴らす。しかし、濃密な魔力で作り上げられた光剣は強固で、その形を保っていた。

 噛み砕けないことが分かったのか、ヴァルヴェルヴィルクは苛立たし気に後ろ足で土を蹴ると、首を上へと振った。


「きゃっ」


 当然、剣を持ったままの私は上空へと放り投げられた。

 これで空が飛べない者であれば大怪我間違いなしだが、私には自慢の銀翼がある。中空で体勢を立て直し、すぐさま反撃へと転じる。


 今度は翼での加速に、落下の速度も乗せた強襲だ。威力は先程までを確実に上回っているだろう。風を受け、長い銀髪が激しく揺れる。

 さしもの巨獣も、これを受けては無事では済まないと悟ったのか、回避行動を取った。私の光剣から逃れるように、後ろへと飛び退る。


 けれど、私の方が僅かに早かった。

 光剣は逃げる魔獣の眉間を豪快に抉りつけた。血飛沫が上がり、魔獣が低い絶叫を上げる。


 それでも、殺しきることは叶わなかった。魔獣の眉間には決して浅くない傷が刻まれたものの、致命傷には程遠いものだ。まともに当たっていれば仕留めきれた可能性もあるが、上手く衝撃を逃がされてしまったらしい。

 光剣を振り下ろす私は中空で止めきれず、そのまま地上へと振り下ろした。轟音と共に、大量の土砂が舞い上がる。そんな中でも私は、すぐさま剣を引き戻していた。


 傷を与えた今こそ、攻撃を続けるべき時だ。私は地を蹴り翼を動かし、またもや魔獣へと突進する。

 狙いはヴァルヴェルヴィルクの首だ。太い血管を断ち切れれば、失血死まで持ち込める。


 魔獣は自慢の足で躱そうとはせず、私を叩き落とそうとするかのように片足を持ち上げた。

 好都合だ。先程のように足を払えば、隙が生まれる。光剣で魔獣の足を弾き、そのまま回転の勢いを利用すれば、魔獣の太い首にも深い傷を刻めるはずだ。


 光剣を大きく振りかぶり、勢いに載せて魔獣へと振り抜ける。

 それを阻もうとするように、魔獣の爪が振り下ろされた。


 両者が触れ合う。

 その刹那。

 光剣が光を失った。

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