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576話 更なる襲撃

「えっ?!」


 突如として鳴り響いた獣の雄叫びに、私は足を止めて上へと目を向ける。視界の中、つい先ほどまでは建物であった木材が、宙を舞っていた。

 そうして家屋を粉砕して現れたのは、つい先ほど私が敗北を喫した、ヴァルヴェルヴィルクの姿だった。


 恐怖はない。しかし何故、という思いが募る。

 あれは今、ジークハルト達が対処に向かっているはずなのだ。まさか、彼らがこの魔獣を止められなかったというのか。


「嘘、どうして?!」


 同じ思いを抱いたのだろう、エリーゼが信じられないものを見たような目を魔獣へと向ける。

 そこで、私は気が付いた。


「……違う! こいつ、別のやつだ!」


 よくよく観察してみれば、体の縞模様が先程見た魔獣とは若干、異なっている。何より、体の大きさも一回りほど大きいのだ。

 この魔獣は、先程私が傷を負ったヴァルヴェルヴィルクとは、別の個体だ。


 そんな私の言葉に、イルムガルトが振り返る。


「こんなやつが二匹もいたって言うの?」


「そうみたい……」


 全くの想定外だ。まさか、ヴァルヴェルヴィルクが二匹もいるだなんて、思っても見なかった。

 ヴァルヴェルヴィルクは、ジークハルトの作った己そっくりの石像が気にいらないのか、像へと向けて突進し捻じ曲がった角を激しく突き立てる。だが魔術で作った像は思いの外頑丈なようで、一撃では砕かれなかった。


 その間に、武器を持った火兎族の男達が魔獣を囲い込む。仕留められないにしても、せめて里から追い出そうというのだろう。

 しかし、冒険者でもなく戦い慣れていない彼らに任せるのは危険だ。ジークハルト達が不在の今、私が頑張るしかない。


 私は腰の長剣を引き抜いた。


「エリーゼちゃん、イルマちゃん、あれは私が抑えるよ! その間に、みんなの避難をお願い!」


「大丈夫なの? 私達じゃ助けられないわよ?」


 眉尻を下げたイルムガルトが私へと目を向ける。多少、訓練を積んだとはいえ、二人があの魔獣に相対するのは危険だ。あれに挑むとすれば、誰かの援護は望めないだろう。

 不安がないわけではない。傷は治っても、痛みは覚えている。まともに攻撃を受ければ、また先程のような結果になるだろう。


 けれど、あの魔獣がここで暴れるのを、黙って見過ごすことは出来ない。あれを抑えることが出来るのは、今この場では私以外にいないのだ。


「大丈夫、絶対に何とかして見せるから!」


 ヴァルヴェルヴィルクの運動能力の高さは、今度こそよくわかっている。もう、遅れは取らない。

 何としてでも、魔獣の被害を抑えるのだ。例え倒せないにしても、時間さえ稼げれば、きっとジークハルト達が戻ってきてくれる。


 先程のような様子見はなし、出し惜しみもなしだ。最初から、全力で行く。

 私は腰から吊り下げている筒を手に取り、蓋を開けた。そうして、中の液体を一息に飲み干す。


 途端に、体の内から沸々と熱が込み上げてきた。

 飲んだのは強魔水。魔力を限界まで引き上げる薬だ。

 しかも、今回は黒龍戦とは違う、希釈していない原液である。


 この薬を使用すれば、効力が切れた時に動けなくなってしまう。だが、ヴァルヴェルヴィルクを単身で止めるには、これを使用しなければ難しいだろう。

 以前、私は黒龍戦の時にこれを使用して、意識をなくしてしまった。その不安もある。


 だが、今度はきっと大丈夫だ。

 私は、この里を守るために戦って見せる。


「行くよ、『光龍鱗』!」


 全身に魔力を漲らせ、光の鱗を身に纏う。万能感に包まれると共に、視界が赤く染まる。闘争本能か、破壊衝動か、無闇に剣を振るいたいという気持ちが湧き上がる。

 それでも、意識はしっかりと保っていた。視界に移るのは、石像を粉砕した魔物の姿だ。


 私は地を蹴り、長剣を構えながら中空へと舞い上がった。




「イルマ、いまのうちに!」


「えぇ、避難を急がせましょう。行くわよ、カイ」


 エリーゼとイルムガルトが頷き合い、村の入口へと急ぐ。そっちの方では、お年寄りや子供を優先として、既に里の者を避難させているはずだ。

 事前にフィリーネが知らせておいてくれたおかげで、たくさんの村人が死んでしまうことはないだろう。


 右手へと目線を向けてみれば、何やら光の鎧を身に纏ったようなクリスティーネが、大きな魔物を圧倒している。あのお姉さんはそんなに大きくはないというのに、自分の何倍も大きい魔獣の頭を長剣で叩き、その巨体を転がしているのだ。

 それなりに強いのだろうとは思っていたけど、まさかこんなにとは思わなかった。


 だけど、あんな魔物に一人で挑むなんて無茶だ。起き上がった魔物の前脚がクリスティーネの体を掠め、思わず声を出しそうになる。

 あんなのに当たってしまえば、またさっきみたいな大怪我を負ってしまうだろう。


 お姉さん一人では無理だ。

 誰か他に、強い人が必要だ。


「兄ちゃんに知らせなきゃ!」


 俺は踵を返すと、村の北側の出入り口へと走り出した。

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