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566話 火兎族の里と迫る異変2

 右手方向から聞こえてきた喧騒に、俺は顔をそちらへと向けた。見ればそちらには、複数人の火兎族の姿がある。

 その中でも、一際目を引く存在があった。


 何やら二人の青年が、それぞれ背中に別の火兎族を背負っているのだ。その状態で、こちらの方へと駆けて来る。

 彼らが前を通るのを見た火兎族の女性は、何やら悲鳴を上げるのを堪えるように口元へと両手を当てて見せた。もしや、あの背負われているのは負傷者なのではないだろうか。


 青年達は、俺達から少し離れたところを横切るところだ。


「何かあったのか?」


 そう声を掛けながら、俺は椅子から腰を浮かせた。

 俺の声に、火兎族を背負った青年達はその場で足を止め、俺達の方へと顔を向ける。

 俺は彼らの方へと歩み寄りながら、背負われた青年へと目を向けた。


「あぁ、あんた達か。悪い、今は急いでるんだ」


「怪我人か?」


 詳しく見て見なければわからないが、背負われている二人は負傷者に間違いなさそうだ。顔色は悪く、胸の辺りに赤い色が見える。

 俺の問いに、火兎族の青年は焦燥した様子で頷きを見せた。


「魔物にやられたんだ。早く治癒士の元に連れて行かなければ、命が危ない!」


「ちょっと待ってくれ」


 立ち去ろうとする青年を、俺は呼び止めた。火兎族の里の医療事情については、帝国での旅の間にアメリアとエリーゼから聞き及んでいる。

 そもそも、治癒術を使える者というのは、希少な存在なのだ。もちろん、王都や帝都といった大都市にはそれなりの人数がいるものだが、小さな村には一人もいないことなどザラである。


 火兎族の里には二人ほど治癒術を使える者がいるそうだが、どちらも魔力はそれほどではなく、あくまで軽傷の治療が出来る程度だそうだ。基本的には、薬に頼る生活をしているという。

 つまり、命の危険があるほどの重傷者の治療は不可能ということだ。それでも、応急処置くらいにはなるのだから、やる意味はあるだろう。


 とは言え、今ここには俺達という治癒術の使い手がいるのだ。


「治癒術なら俺達も使える。ここは任せてくれないか?」


「本当か?! なら頼む! 助けてやってくれ!」


 言うが早いか、二人は背負っていた火兎族の青年達を地面へと寝かせる。負傷した二人の顔に血の気はなく、力なく浅い呼吸を繰り返している。

 その胸には、魔物の爪で引き裂かれたと思われる大きな傷跡があった。肉が抉り取られ、一部からは骨が覗いているという、一目でわかるほどの重傷だ。いつ死んだとしてもおかしくはない状況である。


「クリス、来てくれ! 片方頼む!」


「うん、任せて!」


 俺の声に、ぱたぱたとクリスティーネが駆け寄ってくる。俺に並び、寝かされた火兎族の傍で腰を落とした。

 それから二人して、火兎族の青年達へと治癒術を試みる。多めの魔力を注ぎ込み魔術を使用すれば、青年の傷口は見る見るうちに塞がってきた。


 それほどの時間をかけることなく治療は終わり、患者の顔色も少しはマシになったようだ。未だ意識は戻らないものの、しばらくすれば目を覚ますことだろう。


 隣に目を移してみれば、クリスティーネの方も丁度治療が終わったようだ。半龍の少女は安堵したように、小さく息を吐いている。俺は労うように、その銀の髪を軽く撫でた。

 それから、二人を運んできた青年達へと向き直る。


「これで大丈夫だろう。傷は治したが、しばらく安静に……ん?」


 改めて見て見れば、寝かされた二人よりは余程軽傷だが、背負ってきた二人も体に細かな傷がある。


「怪我してるのか」


「えぇ、少しひっかけられましたので……このくらい、すぐに治りますから」


「いいからいいから! すぐに治してあげる!」


 クリスティーネと二人、青年達に有無を言わせず治癒術を行使する。先程と比較すれば比較的軽傷なため、彼らの傷は小さなものも含めて綺麗に消えた。


「はい、おしまい!」


「ありがとう! 助かったよ!」


 二人は俺達へと頭を下げると、まだぐったりとした様子の火兎族達を背負い直し、落ち着いた足取りで歩いて行った。どこか寝かせられる場所へと運ぶのだろうな。

 その様子を見送ってから、俺とクリスティーネは皆の元へと戻ってくる。


「ジーくんもクーちゃんもお疲れ様なの」


「えへへ、助けられてよかったね、ジーク!」


「そうだな。それにしても……」


 食事を再開しながら、先程重傷を負っていた火兎族の様子を思い出す。そこまで詳細に調べたわけではないが、重傷の二人はどちらも一撃であの傷を負っていたように見えた。

 オークのような魔物が相手では、あのような傷を負うことはないだろう。何か、大きく鋭利な爪を持つ、大型の魔物が相手だと推測できる。


 もしや、カイの言っていた魔物だろうか。その魔物の正体は知れない。

 そこで、俺はベティーナとロジーナへと目を向けた。


「カイから里の近くに大きな魔物が出たと聞いているが、二人は何か知っているか?」


 俺の問いに、二人は一度顔を見合わせた。それから俺へと向き直り、揃って頷きを見せる。


「あぁ、知ってるよ! とは言っても、どんな魔物かは知らないんだけどな?」


「大きな魔物って話だわぁ。ちょっとずつ里に近づいているらしいのぉ」


 二人とも、魔物の存在は把握しているものの、その特徴についてはあまり聞いていないようだ。

 だが、先程のように里の者に被害が出るような状況というのは、なかなか見逃せない状況である。行動範囲が里に近づいているのであれば、いつかここにやってくる可能性もあるのではないだろうか。


 それよりも前に、火兎族達の手により討伐することが出来るのだろうか。火兎族達は獣人族故に身体能力が高く、並の魔物程度であれば問題なく狩ることが出来るだろう。

 だが、それ以上に強力な魔物が出現したとなれば、町に助けを求められない以上、冒険者の手を借りることも出来ない。


 ひとまず、情報が必要だな。後ほど、マリウスに話を聞いた方が良いだろう。

 それから俺達が丁度、食事を終えたところで、マリウスが姿を見せた。

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