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564話 火兎族の里とお手伝い7

 シャルロットとカイの対決を見守った俺達は、本来の目的である木材の運搬へと戻った。洞窟内に荷車を置き、マジックバッグの中へと壁際に積み上げられた木材を次々入れていく。

 もちろん、その間はただ黙々と作業するわけではなく、会話をしながらだ。


「なぁなぁシャル姉ちゃん、シャル姉ちゃん達が今まで戦った中で、一番強かった魔物って何なんだ?」


 赤毛の少年が小さめの木材を運びながら、傍らの少女へと問いかける。どうやらカイは、先程の戦いで随分とシャルロットに懐いたようだ。シャルロット自身も、そんな風に慕われるのは嬉しいようで、満更でもない様子を見せている。

 少年に問われ、少女は「んー」と小さく声を漏らした。


「そうですね、いろいろとありましたが、その中でも一番というと……」


 そう言いながら、シャルロットはちらりと俺の方に目線を振った。

 俺達が戦った中でも一番強かった魔物と言えば、黒龍を置いて他にないだろう。あれは、その他の魔物と比較すれば格別な力を持っていた。それに肩を並べるとすれば氷龍であるレイくらいなものだろうが、あの子とは本気で戦ったわけではないからな。


 事件の規模で言えば禁忌の魔術具も同程度ではあるのだろうが、最も危険であろう影の巨人はレイが抑えてくれていたからな。大型の影騎士も強力ではあったが、さすがに龍と比べれば劣るものである。

 ただ、その辺の出来事には秘密が多いからな。シャルロットとしても、話して良いものか迷っているのだろう。


 そこで俺は、シャルロットに変わってカイへと答えた。


「一番強かったのは龍だな。黒龍と戦ったことがあるんだよ」


 俺は正直に答えた。カイに教えるくらいであれば、問題なかろう。言ってはいけないことはあるが、そのあたりを誤魔化すのも容易だ。

 驚くだろうと告げたのだが、何故かカイは少し呆れたような表情を見せた。


「何言ってるんだよ、兄ちゃん。龍って言うのはおとぎ話の存在だろ? そんなこと、俺だって知ってるぞ!」


 どうやらカイ少年は、龍というのは空想上の生物だと思っているらしい。ほとんどの人は、龍などその目で見ることなく一生を終えるものである。冒険者ではない者達が、龍の事を伝説上の存在だと思っていてもおかしくはないな。

 まして、カイは閉鎖的な火兎族の里の住人だ。龍なんて、物語にしか出てこないだろう。


「そんなことないよ、カイくん! だって私、半龍族だし!」


 そう言って、クリスティーネが腰に手を当て胸を張り、背の龍翼を広げて見せる。その言葉が説明になるとは思えないのだが。

 確かにクリスティーネは半龍族である。そして半龍族とは、大昔に人と龍が交わって生まれたとされている。しかし、それも本当の話かどうかは分からないものだ。


 ここに半龍族の少女がいると言っても、それが龍が存在することの証左には成り得ないのである。


「あっ、そっか!」


 だが何故か、カイは少女の言葉に納得したらしい。何を以て理解したのかは謎だが、龍の存在を信じてくれるのであればそれでいいか。

 それから、思い出したように俺へと驚きの表情を向ける。


「兄ちゃん達、龍に勝ったのか?!」


「一応、な。仕留めたわけじゃないが」


 そう言って、肩を竦めて見せる。

 俺達はあくまで氷龍のレイと共に黒龍へと挑み、その場から追い払っただけだ。龍を殺したわけではない。それでも、一応あれは勝利と言っても良いだろう。


 そんな俺の言葉に、カイは俄かに瞳を輝かせた。


「すげぇな兄ちゃん達! そんなに強かったのか!」


 どうやら随分と尊敬されてしまったようだ。

 そう言えば、カイの前では多少、訓練風景を見せただけで、実際に魔物と戦っているところを見せたことはなかったな。昨日のオークにしても、彼らが見るよりも早くにクリスティーネとフィリーネが切り捨ててしまったからな。


 まぁ、実際に魔物と戦うところなんて、危険すぎて見せる機会などないだろうが。

 そんな風に考えていると、ふと思いついたように少年が言葉を漏らした。


「そうだ! 兄ちゃん達なら、森の奥の魔物も倒せるんじゃないか?」


「森の奥の魔物、ですか?」


 少年の言葉に、シャルロットが首を傾げる。それを受け、カイは氷精の少女の方へと顔を向けた。


「そうなんだよ! 何でも最近、やばい魔物が出るって話なんだ!」


「やばい魔物?」


 今度はクリスティーネが首を捻って見せる。少女の言葉に、カイはこくこくと首を縦に振って見せた。


「村の北の森に、今までいなかった魔物が出るようになったって、大人達が噂してるんだ!」


「それはどんな魔物なの?」


 フィリーネが少年と目線の高さを合わせれば、カイは大きく両手を広げる。


「こーんなに大きな魔物なんだってさ! 名前は……なんて言ったかなぁ」


 どうやら忘れてしまったらしい。少しの間、少年は思い出そうとうんうん唸っていたが、やがて諦めたらしく再び俺を見上げる。


「とにかくやばい魔物なんだって! 何でも、せーたいけーを乱しているとかで、村の近くまで魔物が来るようになったんだ!」


 つまり、どこかから強力な魔物がやって来たという事なのだろう。それが村の近くに住み着いてしまったせいで、追われた魔物が村の方へとやって来たということだ。昨日、ここでオークを見かけたのも、それが原因という事なのだろう。

 さて、気になるな。大型の魔物というのは、大体強力なものである。身体能力に優れた火兎族達がまだ討伐していないのであれば、それなりの脅威だと見ていいだろう。


 一体どんな魔物だろうか。さすがに、龍ということはないだろうが。


「カイ、その魔物の特徴とかわからないか?」


「なんて言ってたっけなぁ……とくちょーてきらしいんだけど……」


 カイ自身、そこまで詳しくはないようだ。一応、どういう魔物かは判別されているらしいが、覚えていないらしい。

 その当たりのことは、戻ってマリウスに聞けばすぐにわかることだろう。ひとまず魔物の話は棚上げだと、俺達は作業を続けるのだった。

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