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56話 剣術大会 開催前3

 簡単な依頼をこなす日々が過ぎ、あっという間に剣術大会の本戦がやって来た。当日の朝、俺達は王都にある剣術大会の会場へと足を運んでいた。


「うわぁ~、何度見ても大きいね、ジーク!」


「やっぱり、すごいところです」


 目の前の巨大な建造物を見上げ、クリスティーネとシャルロットは大きく息を吐きだした。以前、二人を連れて王都を観光した際、一度ここには立ち寄っていたのだ。

 俺達の前にあるのは円形の大きな競技場だ。通常の建物の何倍もの敷地面積を誇る、国内でも有数の巨大な建造物だった。国が管理するこの競技場は、今回開催される剣術大会など、季節によって様々な催しが行われる際に利用されている。

 石造りのこの巨大な建物は、出来上がるまでには当然、それ相応の労力が費やされている。当時はこの大掛かりな工事に、それは多くの人間が駆り出されたそうだ。そうして作り上げられた競技場は、最終的に土属性の魔術が使える者達の手によって補強され、かなりの強度を誇っているという。


 建物の真ん中には円形の広場があり、競技はそこで行われることになる。広場の外周には観客席が用意してあり、そこから中央で行われている競技を観戦できるようになっている。石で出来た観客席は外に行くほど高度を増す、段々と高くなる階段状になっている構造だ。観客は各々、尻の下に引く敷物を持参するのが普通であった。

 ちなみに、この競技場に屋根はなく、中からは青い空が見える形だ。天井を用意し、内部を魔道具の照明で照らす案や、天井をガラス張りにする案などもあったそうだが、強度や資金などの関係で断念したという話である。少なくとも、俺が生きている間にこの競技場に屋根が付くことはないだろう。


 剣術大会は一日を通して行われる。午前中は競技場の広場をいくつにも区切り、同時に何試合も行われる形だ。何せ参加条件などはないことから、とりあえず参加してみたというような記念出場の選手などもいるため、出場者が全部で数百人はいるのだ。一試合ずつ試合を行っては、何日かかるかもわからない。

 午前中で一気に絞り込んだ後、午後は一度に行われる試合を絞り、時間も無制限で行われる。午後に残る猛者たちにもなると上級剣技を使えることなど珍しくもない。その結果、派手な剣技が飛び交うこととなり、非常に見応えのある試合が繰り広げられることになる。


「こっちが入口だな」


 俺は二人を連れると、競技場の側面に並んだ人々の行列へと足を進めた。

 行列には二種類あった。即ち、長い行列と短い行列だ。どうやら、出場者用と観戦者用で列を分けているらしい。確かに、入場手続きを考えるとその方が合理的だろう。

 俺はそのことを確認すると、二人を振り返った。


「出場者用の入口はあっちみたいだ」


「それじゃ、ここで解散ね! ジーク、応援してるからね!」


「ジークさん、頑張ってください」


「あぁ、ありがとう。行ってくるよ」


 二人に別れを告げると、俺は一人で出場者用の行列の最後尾へと並ぶ。出場手続きは手分けして行っているようで、それほどの時間も掛けずに俺の番になった。

 競技場の入口では、数人の冒険者ギルドの関係者と思しき女性がテーブルに座っていた。どうやら、手続きは彼女達が対応するらしい。


「おはようございます。お名前と番号、それに出場票をお願いします」


「83番のジークハルトだ」


 そう言って、一枚の紙を差し出す。この紙は出場票と言って、以前冒険者ギルドで剣術大会の出場手続きをした際に受け取った紙だ。剣術大会に出場するには、今のように受付で出場票を渡す必要がある。

 紙を受け取った女性は内容を確認し、一つ頷くと代わりに銀の腕輪を差し出してくる。


「はい、確認できました。こちらは出場者の証になりますので、身に付けておいてください。それでは、奥へどうぞ」


 腕輪を受け取り腕に嵌めると、俺は促されるままに奥へと足を進める。案内板の表記に従い向かった先は、広い部屋になっていた。俺以外の出場者なのだろう、見るからに屈強な男から細身の男まで、多くの人達が集まっていた。やはりというべきか、女性の姿はほとんどない。

 自分の出番になるまではここで待機のようだ。俺はやることもないため、なんとなしに部屋の窓から外を眺める。

 窓からは競技場の様子が確認できた。すでに、観客席はその半分以上埋まっているようだ。


 折角なので、クリスティーネとシャルロットの姿を探す。普通の視力ではまず見えない距離だが、光魔術を使用することで遠くの景色を映し出すことが出来る。試合の前だが、これくらいなら魔力の消費など微々たるものだ。

 それでも、さすがにこの人混みから二人を見つけ出すことはできないだろう。半ばそう思っていたのだが、俺の予想に反して二人は簡単に見つかった。

 クリスティーネの銀の髪と、シャルロットの水色の髪が、キラキラと陽の光を反射していたためだ。二人とも、丁度競技場に入ってきたところらしく、左右を見回して座る場所を探している。


 階段を下りる二人には、周囲からいくつもの視線が注がれていた。特に男性の向ける視線が多い。改めて認識するが、二人の整った容姿は人族の振りをしていても目立つらしい。

 少々心配になってくるが、あれでクリスティーネは結構しっかりした子である。変な男に絡まれたとしても、きっと大丈夫だと信じよう。


 それからしばらくして、冒険者ギルドのギルドマスターによって、剣術大会の開催が宣言された。魔術具で増幅された声が競技場に響くと、周囲から割れんばかりの歓声が湧き上がる。その頃には俺は二人から目を離していたが、シャルロットなどは周囲から上がる声の大きさに驚いているころだろう。

 そんな風に考えていると、ついに俺の番号が呼ばれた。いよいよ剣術大会本番らしい。俺は待機所の椅子から立ち上がると、軽く両の拳を握った。

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