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559話 火兎族の里とお手伝い2

 かなり過ごしやすくなってきた気候の中、俺は軽く体の動きを確かめる。今日は火兎族の里へと本格的に滞在することになった一日目、今はその早朝だ。

 位置付け的には休暇扱いになるのだろうが、だからと言って訓練を疎かにするつもりはない。今日も今日とて、早朝訓練の始まりである。


「みんな、おはよう!」


 そうして訓練に取り掛かろうとしたところへ、エリーゼがやって来た。折角故郷へと帰ってきたというのに、何故だか旅をしていた時と同じような服装だ。


「おはよう、エリー。昨日はどうだったの?」


「えへへ、やっと父さんと母さんに会えたわ! みんな、本当にありがとうね!」


 そう言って笑顔を見せるエリーゼの様子は、実に嬉しそうだ。どうやらあれから無事に、両親と再会できたらしい。


「ちゃんと私の部屋も残ってたんだ! すっごく久しぶりに自分のベッドで寝られたよ! なんだか安心しちゃった!」


「それは良かったが、別にわざわざこんな早朝に訪ねて来なくても良かったんだぞ?」


 エリーゼが故郷に帰ってくるという目的を達した今、旅を続けていた間のように俺達と一緒に訓練を続ける必要はない。あれはあくまで基礎体力の向上と、自分の身を守るためのものだったからな。

 これから先、エリーゼが危険な旅に出ることもないだろう。もちろん運動するのは体にも良いが、別に俺達と共に訓練をしなくても良いのだ。


 俺達は別に、今日明日にでもここを発つというわけではない。時間など、まだまだいくらでもあるのだから。


「折角、ジークさん達がいるんだから、その間は一緒に訓練しようかなって……ダメかな?」


「いや、別に構わないさ」


 眉尻を下げるエリーゼに対し、俺は軽く首を振って見せた。エリーゼも加えて訓練をすることなど、普段と変わることはないのだ。本人が望むのであれば、一緒に訓練をすればいいだろう。

 それからエリーゼを交え、俺達はいつものように訓練を始めた。とは言え、普段よりは軽いメニューをこなすことにする。


 いつものようにシャルロットの剣術を指導しながら話すのは、もちろん火兎族の少女達のことだ。


「アメリアの方はどうだった? 久しぶりに話せたんだろう?」


 昨夜、アメリアは俺達の天幕ではなく、両親のテントで眠りについた。そう言えばあの時のアメリアは、若干名残惜しそうな様子を見せていたな。折角両親と会えたというのに、わざわざ俺達の天幕で眠る必要もなかろう。

 アメリアにしたって、エリーゼと比較すれば短いものの、それなりの期間故郷を離れていたのだ。彼らを奴隷狩り達の元から救い出した際に顔を合わせたものの、それも短い時間で再び俺達と共に旅立った。


 そう考えてみれば、アメリアが両親としっかりと話すことが出来たのは、王都の傍で俺達と初めて会った頃以来だと言える。いろいろと、積もる話もあったことだろう。


「えぇ、おかげさまでゆっくりと出来たわ」


 そう口にするアメリアは、穏やかな表情を見せている。どうやら有意義な時間を過ごせたようだ。

 そこでふと、右側で剣を振っていた半龍の少女が小首を傾げた。


「そう言えば、アメリアちゃんも自然と訓練に混ざってたね?」


 言われてみれば確かに、アメリアも自然と早朝にテントから出てきて、俺達の訓練に混ざっていた。この娘もエリーゼと同じく、火兎族の里へと帰ってきたからには、訓練を続ける必要もないのだが。

 まぁ、アメリアに関してはエリーゼよりも随分と長く、俺達と旅を続けているのだ。最早、俺達との早朝訓練が日課になっているのだろう。


 そう思ったのだが、赤毛の少女は半龍の少女の言葉に、何故だか動揺した様子を見せた。


「うっ、それは……」


「だってアミー、これからもジークさん達について行きたいんだもんね?」


「ちょっ、エリー!」


 揶揄うようなエリーゼの言葉に、アメリアが焦った様子を見せる。意外な言葉に、俺は思わず赤毛の少女へと目線を向けた。

 俺の視線を受け、アメリアは気まずそうな様子で目を逸らして見せる。


「そうなのか?」


「それは、その……か、考え中って言うか……」


 俺の問いに、少女はしどろもどろに答えた。この様子を見るに、決め兼ねているといったことなのだろう。

 まさか、アメリアがこれからも俺達と共に旅をしたいと考えるとは思わなかった。出会った当初は、火兎族の里を救う事だけを考えていたからな。帝国に行ったのも、クリスティーネとシャルロットを救うためである。


 もしや、各地を旅するのが気に入ったのだろうか。見知らぬ土地に足を運ぶというのは、それだけで面白いものだからな。クリスティーネが冒険者をやっている理由でもある。

 さて、もしアメリアが旅を続けることを希望するのなら、俺としても吝かではない。実力もあるし、十分に冒険者としてやっていけることだろう。


「本当、アメリアちゃん? これからも一緒に旅が出来ると嬉しいな! ね、シャルちゃん、フィナちゃん?」


「はい、アメリアさんも一緒の方が楽しいです!」


「むぅ……嬉しいけど、複雑なの」


 クリスティーネとシャルロットが互いに笑顔を向け合い、何故だかフィリーネは何とも言えない顔で俺の方へと目線を向けた。別に二人は仲が悪いわけではなかったはずだが、一体どうしたというのだろうか。

 フィリーネの反応はともかくとして、俺はアメリアへと顔を向ける。


「俺としても、アメリアが来るのは歓迎するぞ? まだ時間はあるんだ、マリウスさんともよく話して決めてくれればいい」


「……うん、わかったわ」


 俺の言葉に、アメリアは少し逡巡した様子を見せたが、やがて首を縦に振って見せた。

 その後の訓練中も、アメリアは何やら考え込んでいる様子だった。

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