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557話 五年振りの帰郷

 あの日から、どれだけの日数が経ったんだろう。当の昔に五年は過ぎて、もう少しすれば六年になるはずだ。

 奴隷狩りに連れ去られた日のことは、今でもよく覚えている。アメリア達と一緒にいたところを抱え上げられ、あっという間に連れ去られた。気付いた時には、檻の中だ。


 それからしばらくの間は、毎日泣いて過ごしていた。声を上げて泣けば鉄の棒で叩かれるので、声を出さない泣き方なんかを覚えてしまった。

 そうして涙も枯れ果てた頃、私はイリダールの屋敷へと買われていった。その頃の私は、いつの間にか帝国に連れていかれたことすらも知らなかった。


 イリダールの屋敷での生活は、奴隷の売買組織の元にいた時よりはずっとマシだった。痛い思いをすることもなく、少なくとも衣食住は保証されていた。ただ、自分が飼い殺しにされていることは理解していた。

 同室の女の子たちは私よりも前からいたのだが、そんな環境にすっかり慣れてしまっていた。イリダールに依存している様子に、私もいつかはそんな風になるのかと、ぼんやりと思った。


 二年ほどたった頃、新しく買われて来たイルムガルトと同室になった。当初は警戒心を剥き出しにしていたイルムガルトだったが、主な話し相手は私だけで、一日のほとんどを二人きりで過ごすのだ。打ち解けるまでに時間はかからなかった。

 それから更に三年が経過した。同じことを繰り返す毎日に、私もイルムガルトも心は限界を迎えつつあった。


 そんなある日、クリスティーネとシャルロットがやって来た。久しぶりに聞く外界の話や恋の話などをするのは、とても楽しかった。特に、二人がアメリアの知り合いだと聞いた時は驚いたものだ。

 そんな二人が姿を消し、それを訝しむ暇もなく、今度はなんとアメリアが姿を見せた。五年振りに会う親友だが、私は一目でアメリアだとわかった。


 それからはイルムガルトと共にジークハルト達に同行し、クリスティーネとシャルロットを助けるために帝国を旅することになった。

 慣れない旅路は苦労も多かったが、久しぶりの外の世界に心が躍ったものである。


 それにしても、ちょっとジークハルト達は運が悪すぎるのではないだろうか。巨大な古代魔術具と戦ったり、氷龍と遭遇したり黒龍と戦ったり、お城では禁忌の魔術具の騒動に巻き込まれたり。

 もう一生分の事件に巻き込まれた気がする。結果的に全員が無事に済んだのだから、一概に不運とは言えないかもしれないが。いや、彼らの実力のおかげというのが適切だろう。


 紆余曲折あったものの……いや、本当にいろいろとあったけど、私は今日ついに生まれ故郷へと帰ってきた。

 五年振りの故郷は、アメリアに聞いた襲撃の件もあるのか、少し外観が変わっていた。立ち並ぶ家屋にはっきりと、修繕の形跡が残っている。

 それでも、雰囲気は以前と遜色がないように感じた。


 村の人々も、記憶にあるよりは歳を取ったり、カイのように大きくなったりしているものの、誰が誰なのかは顔を見ているうちに思い出すことが出来て懐かしく思える。

 向こうにしても、私が戻ってきたことには純粋に驚いている様子だが、同時に歓迎してもくれているようだ。


 それから私は先程ジークハルト達と別れ、自分の家があるはずの場所へと走っている。アメリアの父親の話では、私の家は以前と変わらぬ場所にあるそうだ。

 前へと一歩進むたびに、心臓の鼓動が早くなる。この早鐘は、走っていることだけが理由ではないだろう。


 やがて、目的の家へと辿り着いた。記憶にある、懐かしの我が家だ。やはり襲撃で破損したのだろう、建物に使われている木材の一部が、他の部分と色が異なっている。

 乱れた息を整えながら、両膝に手を当てる。その家の傍にいる一人の火兎族の姿を見て、私は思わず息を詰まらせた。


 五年振りに見る、父の姿だ。


 記憶よりも、少し痩せただろうか。私がいなくなってからも家庭菜園を続けていたらしく、屈み込んで野菜の状態を見ているようだ。

 その光景に、何とも言えない思いが込み上げ、胸が締め付けられる。


 やがて、私の視線に気が付いたのか、父が顔を上げてこちらを見た。

 始めは私が誰だかわからなかったようだが、少しして呆けたような表情となり腰を上げる。それから焦ったように、家の方へと何やら声を掛けた。


 すぐに家の中から出てきたのは母だった。母に話しかけられた父がこちらを指差し、母の瞳が私の姿を捉える。

 その目が驚いたように丸められ、空いた口元に手が添えられる。すぐにその紅の瞳からは涙が溢れ始めた。


 それを見て、自然と私の視界も歪み始める。

 どちらからともなく駆け寄り、その距離はすぐに零になった。

 私は、五年振りの温かさに包まれた。

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