542話 事件の全容
俺とレイが帝国の名誉男爵となった翌日、俺達は東棟の広間へと集まっていた。俺とクリスティーネ達の他には、ここ東棟の主であるエリザヴェータと、帝国の宰相であるヴィクトルが同席している。
全員が集まると同時に、侍女達の手によって紅茶と茶菓子が振舞われる。それを確認し、ヴィクトルが口を開いた。
「それでは、ご報告を始めさせていただきます。今日お伝えしますのは、禁忌の魔術具に纏わる騒動の全容になります」
ヴィクトルの言葉に、俺達は揃って頷きを返す。今回俺達が集められた目的については、事前にヴィクトルから聞かされていた。
何でも、禁忌の魔術具『影の王国』がこの城で作動した件について、原因などを聞かせてくれるということだ。調査にはなかなか時間を要したようだが、ようやく事態の把握が完了したらしい。
「今からお伝えする内容は、他言無用でお願い致します。本当なら秘密にしておきたいところなのですが、当事者である皆様には知る権利がありますから」
「わかった、約束しよう」
どちらにせよ、伝える相手もいないしな。
ヴィクトルは一度俺達の顔を見渡し、俺へと向き直る。
「ジークハルトさん。貴方方が禁忌の魔術具を破壊した部屋に、女性が倒れていたのは覚えていますか?」
「あぁ、覚えている」
男の言葉に、俺は一つ頷きを返した。
俺が影の大騎士ごと禁忌の魔術具を斬り捨て、クリスティーネ達三人が影の中から姿を現した後のことだ。あの部屋にはもう一人、女の姿があった。
俺達が見つけた時には、その女は既に事切れていた。死因はおそらく、影騎士による斬り傷だろう。そのことについては、事件の翌日あたりにヴィクトルに伝えてあった。
禁忌の魔術具のすぐ傍で死んでいたのだ、事件に何らかの関係がある可能性は高い。あの女は誰だったのか。
「彼女は、皇帝陛下の第二夫人に当たる女性です」
ヴィクトルの言葉に、俺は思わず眉根を寄せた。
あの部屋の主があの女であろうことは、事前に予想していたことだ。城の本棟に部屋を持つ以上は、ある程度の身分であることもわかっていた。だがまさか、皇帝の第二夫人とはな。
しかし、あまりよくない状況なのではないだろうか。
「弁明させてもらうが、殺したのは俺達じゃないからな? 前にも言ったように、俺達が見つけた時には死んでいたんだ」
「もちろん、皆様を疑っているわけではございません」
俺の言葉に、ヴィクトルは首を横に振って見せる。一応、疑われているわけではないらしい。
それから男は、テーブルの上に載せた手を組みなおした。
「彼女の名はジャンナ・ブラガロード。今回の禁忌の魔術具に纏わる騒動を引き起こした、張本人です」
「……詳しく話を聞こうか」
俺の言葉に、ヴィクトルは一つ頷きを見せる。そうして、男の口より今回の事件の始まりが語られた。と言っても、そこまで複雑な話ではない。
まず、俺の渡した禁忌の魔術具の残骸から、ジャンナが手を触れた形跡が発見されたそうだ。そこから、ジャンナの同行が調査されることとなった。
ジャンナについて調べているうちに、彼女が最近、手の者を使って闇市のようなものに手を出していたことが分かったという。どうやらそこで、彼女は『影の王国』を手に入れたようだ。
そして事件が起きた当日、彼女は自室で時を止める魔術具から『影の王国』を取り出し、作動させたと言うのが経緯らしい。
ヴィクトルの話を聞き、クリスティーネが首を傾げて見せる。
「そのジャンナさんって人は、何でそんなことをしたの?」
それについては俺も同じ疑問を持った。話を聞く限りでは、そのジャンナという女は自ら禁忌の魔術具を求め、使ったように思える。しかし、その目的は何だろうか。
禁忌の魔術具というのは、例え具体的な効力がわからなかったとしても、危険な代物として広く知られているものだ。誤って使ってしまった、ということはないだろう。
クリスティーネの問いに、ヴィクトルはまた一つ頷きを見せた。
「彼女には子供がいるのです」
そう言って、ヴィクトルは説明をしてくれた。
ジャンナには息子が一人いるらしい。この帝国では、第二皇子にあたる者だ。第二皇子ではあるものの、王位継承権としては正妻の子が優先されるため、レオニードやエリザヴェータよりも継承権は低いらしい。
帝国側の見立てでは、ジャンナは第二皇子を次代の皇帝とするために、王位継承権が上の者を亡きものにしようと、禁忌の魔術具を使用したと見ているそうだ。
『影の王国』は特定の誰かを殺せるような代物ではないのだが、そのあたりはジャンナが何か勘違いをしていたと推察されているらしい。
「それだけではございません」
そう言って、ヴィクトルは説明を続けてくれる。何でも、彼女について調べているうちに、他にも余罪が見つかったそうだ。
まず、帝国へと戻るエリザヴェータが魔物の群れに襲われ、たまたま通りがかった俺達が助けることになった件。あれについても、ジャンナが関与しているらしい。魔寄せの粉を使用して魔物を誘き寄せたのが、ジャンナの手の者という話だ。
それだけでは終わらない。
なんと俺やクリスティーネも巻き込まれ、フィリーネが氷像へと変えられたあの事件にも、ジャンナが関わっているというのだ。
確かにあの時、第三皇子により追い詰められた俺達の元へと、不自然なくらいに魔物達が集まってきていた。それだけでなく、氷龍までもが姿を現したのだ。
ヴィクトルの話では、あの場でも魔寄せの粉が使用されたという事らしい。
「本来であれば相応の処分が必要ですが、当人が死亡しましたからね。この件については、これ以上の追及はないかと」
「なるほどな。話は大体わかった」
要は、皇族間の権力争いのごたごたに巻き込まれたということだ。あまり面白くはない話だが、それをヴィクトルやエリザヴェータに言ったところで、どうにかなるような話でもない。
当の本人が死亡しているということだし、これ以上の面倒事に巻き込まれることはないだろう。
「このような不祥事、表に出すことは出来ません。皆様も、どうか御内密に」
「あぁ、わかってる」
帝国の第二夫人が身内を殺すために禁忌の魔術具を使用したなど、とんだ醜聞である。世間に知られれば、話にどんな尾ひれがつくかもわかった者ではない。標的となったエリザヴェータにだって、要らぬ噂が付いて回ることになるだろう。
元より、俺には言いふらす気など皆無なのだ。この件は胸に秘めておこう。
そう考え、俺は金髪の少女へと目を向けた。エリザヴェータはヴィクトルの話に、少し顔を俯かせている。
「エルザ、大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です」
身内から幾度となく命を狙われたのだ、何か思うところはあるだろう。それでも少女は笑って見せた。この件については、俺からかけるような言葉も見つからないな。
「以上が事件の全容になります。後はもう少し、これからのことについてお話ししましょうか」
そう言ってヴィクトルは肩の力を抜き、紅茶のカップへと手を付けた。
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