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54話 剣術大会 開催前1

 シャルロットをパーティに加え、数日が経過した。連日素材採取に出掛けることで、シャルロットも少しずつ冒険者生活に慣れて来たらしい。あれからも何度かゴブリンやオークといった魔物に遭遇しているが、シャルロットの魔術の命中率は日に日に向上している。

 宿の裏手を借り、剣術の訓練も始めているが、こちらはまだまだ先が長そうだった。決してシャルロットの運動神経が悪いというわけではないのだが、良くも悪くも普通くらいである。後は、日々の訓練でいくらでも強くなれることだろう。


 一度だけ、シャルロットをゴブリンと剣だけで戦わせてみたのだが、なかなか見ていてもどかしかった。シャルロットは完全に腰が引けており、闇雲に剣を振り回していた。

 結局は氷剣技を使用して無理矢理倒していたのだが、最後の方のシャルロットはちょっと泣きそうだった。気の毒ではあったが、これも経験である。しかし、剣ではたまに戦わせるくらいで、やはり基本的には魔術での戦闘が良いだろう。


 魔術の方は至って順調である。ゴブリンのような小型の魔物にも当たるようになってきているし、一度は当たりどころが良かったのか、オークを一撃で仕留めていた。

 後は時間稼ぎのための足止めや、初級魔術での牽制といった立ち回りを覚えられれば、立派な魔術職と言ってもいいだろう。そのあたりは、経験を積む他ない。


 そして今日は、久しぶりに依頼でも受けようかと冒険者ギルドに足を運んでいた。冒険者ギルドにはここ数日も素材の売却に来ていたのだが、シャルロットの訓練を優先するために依頼は受けていなかったのだ。

 シャルロットも少しずつ慣れてきたところだし、簡単な納品依頼などであれば受けても大丈夫だろう。いつもと同じように、左上から順番に依頼を眺めていく。


「あれ? ジーク、これは?」


 ふとクリスティーネに名を呼ばれる。そちらへと目を向ければ、クリスティーネが不思議そうな顔をして一枚の紙を指さしていた。依頼掲示板の隣にポツンと貼り出された紙だ。少なくとも、依頼関連ではないらしい。

 俺はそちらへと近づき、紙に書かれている内容を読み上げる。


「えぇと、『剣術大会開催のお知らせ』……そうか、もうそんな時期か」


 そこに書かれていた内容を確認し、俺は納得と共に顎を引く。それは王都グロースベルクで行われる、剣術大会の開催を知らせる紙だったのだ。


「剣術大会って?」


「その名の通り、剣術の大会だな」


 そう言って、二人へと軽く説明をする。

 剣術大会というのは読んで字のごとく、剣術を競い合う大会である。ただし、剣術と言っても剣以外に槍などの武器を使用しても良い。魔術さえ使用しなければ、どんな武器を使用するのも自由である。

 当然というべきか、無属性の初級剣技や中級剣技、属性剣技などの使用は可能である。上級剣技にもなると最早魔術と区別がつかないくらいで、決勝戦にもなると派手で見応えもあり、観客席は大盛り上がりである。


 武器は自前の物は使用できず、刃先を潰した大会用のものを借り受けることになる。良い武器を持つのも冒険者の実力ではあるのだが、この大会には騎士などの冒険者以外の人達も出場する上、純粋な剣術を競うためだからだ。

 そのため、今のところ大会では死人は出ていない。骨折などの重症者が出ることはそれなりにあるものの、専門の治癒士が控えているためすぐに治るのだ。


 年に一度開催されるこの大会だが、俺は去年も出場していた。去年の今頃の俺は今よりもずっと弱く、運よく一回戦を勝ち進んでいたものの、二回戦で敗退していた。

 それを思えば、今年も出場して自分がどれだけ成長しているのかを確認したいところだ。今では無属性の中級剣技と、各種属性剣の初級剣技が使えるようになっている。少しはいいところまで行けるのではないだろうか。


「なるほど~。それなら今年も出場するの、ジーク?」


「そうだな……」


 出来れば出たいと思っているが、一つ問題がある。俺が出場するとなると、クリスティーネも出場したがるのではないだろうか。クリスティーネの剣の腕もなかなかだし、光属性の中級剣技まで使えるのだ。出場すれば、それなりに勝ち進みそうではある。

 しかし、そうするとシャルロットが一人になってしまう。さすがに、シャルロットはまだ出場するほどの腕ではないため、剣術大会に出場させるわけにはいかない。

 だが、シャルロットはつい最近、人攫いの被害にあったばかりである。それを思うと、観客席で一人にさせるのは少々気が進まない。


 そんな風に悩んでいると、クリスティーネがシャルロットに近付き、後ろからその小さな体を抱き締めた。


「出場したら、ジーク? 私とシャルちゃんは応援するわ! ね、シャルちゃん」


「えっと……応援、します!」


 どうやら、俺の考えを汲んでくれたらしい。クリスティーネがシャルロットに付いてくれているなら俺としても安心である。


「そうか、それなら出場してみるかな」


 自分の実力を確認する良い機会である。さすがに高順位は期待できないが、順当に行けば去年よりは良い成績が取れることだろう。もっとも、初戦から優勝候補と当たる可能性もあるのだが。

 それから俺は、受付で剣術大会の出場手続きを行った。剣術大会を主催しているのは冒険者ギルドなのである。名前を記入し、出場料を支払えば出場手続きはすぐに完了した。


 大会が開かれるのは今から五日後だ。それまでに、中級剣技や属性剣の腕を磨いておくべきだろう。どちらも、使えるようになってからまだ日が浅い。二人に良いところをみせるためにも、訓練は必要だ。

 そうして俺達は、依頼を受け忘れていたことを思い出すと、再び依頼掲示板へと向かうのだった。

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